チェルヌイシェフスキー(英語表記)Nikolai Gavrilovich Chernyshevskii

精選版 日本国語大辞典 「チェルヌイシェフスキー」の意味・読み・例文・類語

チェルヌイシェフスキー

(Nikolaj Gavrilovič Čjernyšjevskij ニコライ=ガブリロビチ━) ロシア批評家社会主義者。「現代人」誌主筆。一九世紀後半の革命的民主主義思想の発展に寄与した。小説「なにをなすべきか」、評論「現実に対する芸術の美学的関係」など。(一八二八‐八九

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デジタル大辞泉 「チェルヌイシェフスキー」の意味・読み・例文・類語

チェルヌイシェフスキー(Nikolay Gavrilovich Chernïshevskiy)

[1828~1889]ロシアの小説家思想家。1862年に逮捕され、20年以上に及ぶ流刑生活を送った。小説「何をなすべきか」、評論「芸術と現実との美学的関係」など。

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改訂新版 世界大百科事典 「チェルヌイシェフスキー」の意味・わかりやすい解説

チェルヌイシェフスキー
Nikolai Gavrilovich Chernyshevskii
生没年:1828-89

ロシアの革命的民主主義者,哲学者,経済学者。サラトフの聖職者の家に生まれ,神学校を経てペテルブルグ大学歴史・言語学部に学ぶ。ロシアの専制・農奴制の非人間的現実への憤りと1848-49年の西ヨーロッパの諸革命の影響のもとに大学在学中に唯物論者,民主主義者,社会主義者となる。50年に大学卒業後,一時帰郷してギムナジア(中等学校)の教師となったが,53年にペテルブルグに行き評論活動にたずさわる。56年以降は《現代人Sovremennik》誌の実質的編集者となり,クリミア戦争後の改革期にドブロリューボフとともに健筆をふるい,急進的民主化運動の指導的思想家と目された。当時の農奴解放問題については,農民の真の解放のためにはその土地付き無償解放と農民共同体を保存して将来の社会主義化に役立てるべきだという立場をとり,地主貴族の利権を擁護する政府の改革方針とこれに妥協した自由主義者たちを厳しく批判した。61年の農奴解放令に対抗して民衆の蜂起を組織化するために革命的秘密結社の創設をめざしたが,62年6月に扇動文書の執筆を口実として逮捕・投獄された。64年には7年の懲役と終身のシベリア流刑を言い渡され,以後89年に病気のため郷里に帰されるまで,4半世紀におよぶ厳しい流刑生活に耐えてその信念を貫いた。

 チェルヌイシェフスキーの哲学は主としてフォイエルバハに依拠した独自の戦闘的唯物論であり,ヘーゲル美学を批判した論文《現実にたいする芸術の美学的関係》(1855)や《哲学の人間学的原理》(1860)などを著した。文芸批評ではベリンスキーの伝統をついで《ロシア文学のゴーゴリ時代概況》(1855-56)を発表。経済学では《J.S.ミルの《経済学原理》への注解》(1860)において〈ブルジョア経済学の破産をみごとに明らかにし〉(マルクス),勤労者の経済学の創造をめざした。彼の小説《何をなすべきか?》はロシア,東ヨーロッパにおいて女性の解放を含む民衆解放の運動に大きな刺激を与えた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チェルヌイシェフスキー」の意味・わかりやすい解説

チェルヌイシェフスキー
Chernyshevskii, Nikolai Gavrilovich

[生]1828.7.24. サラトフ
[没]1889.10.29. サラトフ
ロシアの小説家,哲学者。聖職者の家庭に生れた。ペテルブルグ大学卒業後『同時代人』誌に執筆。ロシアにおける社会主義への道を模索,農民の武装蜂起による解放を説き,最も過激な見解の代表者となった。農奴制撤廃を主張,62年逮捕され終身刑となったが,約 20年間シベリア流刑ののち,サラトフ居住を許され,まもなく没した。評論『現実に対する芸術の美学的関係』 Esteticheskie otnosheniya iskusstva k deistvitel'nost' (1855) や『ロシア文学のゴーゴリ時代概観』 Ocherki gogolevskogo perioda russkoi literatury (55~56) ,長編小説『なにをなすべきか』などがある。

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百科事典マイペディア 「チェルヌイシェフスキー」の意味・わかりやすい解説

チェルヌイシェフスキー

ロシアの思想家,作家。専制政治を批判する急進的知識人の指導的理論家として,《哲学における人間主義の原理》《現実にたいする芸術の美学的関係》《ロシア文学のゴーゴリ時代概況》などの哲学・文芸批評論文を書いた。1862年逮捕され,獄中で書いた小説《何をなすべきか?》(1863年)は革命的青年の愛読書となった。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「チェルヌイシェフスキー」の解説

チェルヌイシェフスキー
Nikolai Gavrilovich Chernyshevskii

1828~89

ロシアの革命的思想家。雑誌『現代人』を実質的に主宰していたが,その存在を危険視され,62年逮捕。投獄・シベリア流刑の27年を送った。唯物論に立つ哲学,歴史の論著が多く,小説『何をなすべきか』は有名。

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旺文社世界史事典 三訂版 「チェルヌイシェフスキー」の解説

チェルヌイシェフスキー
Nikolay Gavrilovich Chernïshevskiy

1828〜89
ロシアの文芸批評家・先駆的革命思想家
「同時代人」の主筆として文学・哲学・経済学の論文を執筆し,農民革命による社会主義の実現を期したが逮捕され,シベリア流刑後,死亡。

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世界大百科事典(旧版)内のチェルヌイシェフスキーの言及

【何をなすべきか】より

…19世紀ロシアのインテリゲンチャにとってつねに心をさわがせた問いかけ。1863年チェルヌイシェフスキーは獄中で,同名の小説を書いた。これは〈新しい人たち〉の相互関係,道徳,生き方をベーラ・パブロブナという女性とその最初の夫ロプーホフ,第2の夫キルサーノフという3人を主人公として描いたものである。…

【ナロード】より

…彼は1848年革命を亡命先で体験し,西欧文明のあり方に絶望した結果,この考えに到達したのである。19世紀の中ごろにとくに顕著になった資本主義的傾向に対抗して,チェルヌイシェフスキーもまた農村共同体に期待をかける革命理論を唱えた。 このような思想の影響のもとに生まれたのが1870年代の〈人民の中へ〉の運動であり,その参加者たちはナロードニキと呼ばれた。…

【ナロードニキ】より

…これは49年より50年にかけての一連の著書,論文に展開されている。より若いチェルヌイシェフスキーになると,57年に開始されたロシアの資本主義化の動きに対抗して,先進西欧の存在を条件に共同体から出発する経済発展の別の道を主張した。この二人の思想を受け入れた青年たちの運動は61年以後の農奴解放の実施期に展開されたが,これが広範なひろがりをもち,一世代の青年・学生の運動となったのは70年代のことである。…

【ニヒリズム】より

…この意味でのニヒリズムは,ロシアの社会主義運動における一種の反体制的立場として,ヘーゲル左派の影響下に1855年のアレクサンドル2世の即位から70年ごろにかけて盛んであった。チェルヌイシェフスキーは60年代におけるこの種の革命運動の精神的指導者である。また革命的無政府主義の創始者バクーニンはニヒリストたちの党派と手を握って革命を扇動した。…

【ビリュイスク】より

…ビリュイ川流域はヤクート人の居住区で,ビリュイスクはその中心都市である。1634年にコサックの冬営地として建設され,帝政ロシア時代はヤクーツク地区流刑所の一つで,チェルヌイシェフスキーが服役していたことで有名。上流に発電所をつくるに当たり,彼の名前をとった町ができた。…

【マルクス主義】より

…そこでレーニンは《ロシアにおける資本主義の発達》(1899)で,一部地域における資本主義的農民層分解をロシア全土にわたって適用しようとする誤りをあえて犯しながらもロシア革命の古典的道筋を示し,ローザ・ルクセンブルクもまたポーランドにおける産業的発展を社会変革の前提として描き出した。だがたとえばロシアでは,西ヨーロッパの社会変革をモデルとした西ヨーロッパ派的発想のほかに,ロシア固有のモデルを追求したスラブ派的発想が生まれ,たとえばチェルヌイシェフスキーのように〈中間段階〉としての資本主義的発展を省略し飛び越して,ロシア共同体から直接社会主義社会を実現しようという非西ヨーロッパ・モデルの構想が生じた。その後,プレハーノフは,マルクス主義者となった後も,ブルジョア革命と社会主義革命のあいだに長い時間をおく,非連続的な二段階革命論をロシアのために構想したのである。…

※「チェルヌイシェフスキー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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