ダイナミックプライシング(読み)だいなみっくぷらいしんぐ

デジタル大辞泉 の解説

ダイナミック‐プライシング(dynamic pricing)

需給状況に応じて価格を変動させることによって需要調整を図る手法。需要が集中する季節・時間帯は価格を割高にして需要を抑制し、需要が減少する季節・時間帯は割安にして需要を喚起する。動的価格設定。変動料金制
[補説]航空運賃・宿泊料金・有料道路料金などのほか近年では、プロスポーツ観戦チケットやテーマパーク入場チケットの料金でも導入されている。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

知恵蔵 の解説

ダイナミックプライシング

市場における需要状況に応じて価格を変動させて、需要の調整をはかり利益を最大化する手法のこと。たとえば、航空運賃や宿泊料金は、需要が高まり供給逼迫(ひっぱく)するゴールデンウイークなどの繁忙期にははじめから高額に設定されており、閑散期には低い価格や大幅な割引などが設定される。このような、動的な価格設定を行う販売手法のことで、動的価格設定または変動料金制などとも呼ばれる。稼働率を高めるなど資源の有効利用が可能になり、価格の最適化によりチケットの不正転売防止などにもつながるとされている。
航空運賃や宿泊料金をある価格よりも下げれば、もとの価格では利用しようとは思わなかった消費者の購買意欲をかき立てることが可能になる。その一方、短い期間にだけ大きな需要が見込めても、そのために飛行機の台数や宿泊施設を増強するのは供給者にとってコストの増大を招き得策ではない。したがって、繁忙期にはあえて高額の価格設定を設け、供給可能な分だけに需要を抑制することで利得を最大にできる。夜間電力の余剰を減らすために時間帯によって設定が変わる電気料金や、日々の生鮮食品の売れ残りを避けるためにスーパーマーケットが閉店間際に値引きすることなども同様の考え方の上にある。ただし、実際に値付けをするに当たっては、価格設定の見積もりや需要の予測が難しく、短いサイクルで度々価格を変えるのは販売者にとって負担が大きい。また、消費者から見ると価格が不明瞭になり、不信感が生じて消費意欲を削(そ)ぐことにつながりかねない。さらに、公共料金などについては、需給による価格設定という手法そのものが公正といえるかという疑問もある。
現在では、情報通信技術(ICT)および「モノのインターネット(IoT)」の進展により、AI(人工知能)などを活用したダイナミックプライシングが可能になってきた。このため、供給側にとっての障壁は低くなっており、需要量から価格を随時変化させるアルゴリズムを採用する通販サイトなどもある。また、事業者にダイナミックプライシングのシステムを提供する企業も現れている。なお、ダイナミックプライシングは商品に対して適用されるとは限らず、個々の消費者について個別に属人的な価格を提示するという運用も不可能ではない。顧客個々人の消費動向や欲求を探り出し、強い購買意欲をもつ顧客には可能な限り高額な料金を設定する価格差別化により、販売者の利益を最大化するという操作も考えられる。いずれの場合も局面的な消費拡大と販売者の利益最大化に貢献すると考えられるが、このような手法がどこまで消費者に受け入れられるのか、また、長期的な視点で需要の最適化を図れるのかなどについて見定める必要があるとされている。

(金谷俊秀 ライター/2019年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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