タロイモ(英語表記)taro

翻訳|taro

改訂新版 世界大百科事典 「タロイモ」の意味・わかりやすい解説

タロイモ
taro

太平洋のポリネシア地域では,主食として栽培しているサトイモや,それに類似のサトイモ科植物をタロと一般的に呼んでいる。それからサトイモ類を英語でtaroと呼ぶようになり,さらにその呼び方が日本にもち込まれ,〈タロイモ〉という総称名が,南方系の栽培サトイモ類に使用されるようになった。この太平洋諸島のタロは,作物としては日本でも栽培されているサトイモをもともとは指すものであるが,南アメリカから新しくもち込まれたヤウテアも,サトイモに似ているため,現地でもタロと呼ばれることが多い。しかし,食用にされているサトイモ科のクワズイモ類,キルトスペルマ類,コンニャク類などは,同じようにいもを食用にする作物であっても,現地ではタロと呼ばないことが多い。日本語のタロイモの概念はすこぶる広義で,南方の根栽農耕文化圏で栽植されるコンニャク類を除くサトイモ科植物のなかで,地下茎を食用としているものをひっくるめて指していることが多いので,南太平洋でのタロという呼名とは同一概念ではない。この〈タロイモ〉のなかで最も重要なものはサトイモである。日本を含めた東アジア温帯系のサトイモの品種群は三倍体で,子いもを利用するものが多いが,東南アジアからポリネシアにかけては,基本的に二倍体で親いも利用型の品種群が主体となっており,なかには長いストロンを伸ばし,地下のいもは小さく,地上部の葉柄や葉身を野菜として利用するのが主たる目的になっている品種もある。クワズイモ類では,インドクワズイモAlocasia macrorrhiza Schott(英名giant taro)がトンガサモアで主食用に栽植される。この種はかつては広く食用にされていたが,現在は逃げ出して野生になったものが,東南アジアからポリネシアまで広く見られる。キルトスペルマCyrtosperma spp.(英名swamp taro)も,ミクロネシアメラネシアの一部で食用にされ,英名のように湿地で栽培されている。そのほか,スキスマトグロッティス類Schismatoglottis spp.も,えぐみがあまりないため食用にされる種があるが,重要ではない。中南米原産のヤウテア類Xanthosoma spp.(英名yautia)は,サトイモよりも乾燥に強く,現在では熱帯域に広く栽培される種X.sagittifolia Schottがあり,サトイモ以上に重要な熱帯のいも作物となっているが,系譜的にいえば,東南アジア起源の根栽農耕文化に伴われるタロイモとは異なったもので,タロイモとは区別すべきものである。しかし外見的には,サトイモ以外の〈タロイモ〉よりはずっとサトイモに似ていて,多くの民族学的調査報告書ではサトイモに混同されている。

 語源的には問題はあっても,栽培いも類のうちヤマノイモ科のそれをヤムイモと総称し,これに対比してサトイモ科のものをタロイモとするのは,多数の種をまとめて呼ぶ名として用いるとき,便利である。
執筆者: サトイモとヤウテアは,アジア,アフリカ,南アメリカの熱帯降雨林地帯や,オセアニア島嶼(とうしよ)部に住む根栽農耕民の主要作物である。サトイモは,インド東部からインドシナ地域が原産地と推定される。食用種として最も重要視され,その栽培分布域も広い。焼畑耕作地や湿地に栽培し,植えつけてから1年で生長し,周年,収穫が可能である。キルトスペルマは,湿地で栽培され,収穫までに3~4年を要する。いもは,黄色みを帯び,大きなものになると直径20cm,長さ50cmにもなる。クワズイモ類は,えぐみが強烈なため,ふつう水さらしなどの毒抜き加工を終えたうえで救荒食として利用される。しかし,ポリネシアのトンガやサモアで栽培されているインドクワズイモは,いもにえぐみが少なく,乾燥に強く,食料として重要視されている。

 太平洋諸島では,タロイモの栽培は女性のしごととされている。一度,いも田を開墾すれば,大きな労力をかけずに毎年一定量の収穫を確保できるからである。農具は,木の棒をとがらせただけの掘棒で十分である。

 タロイモの料理法は,土器などの煮沸具で煮たり,地炉で石蒸しにする。いもを丸ごと食べてもよいが,石杵でつぶしてペースト状にした〈ポイ料理〉がポリネシアでは代表的な食べ方であった。

 東南アジアで起源したサトイモは,東は太平洋の島々へ,西はアフリカの熱帯地域に伝播(でんぱ)した。しかし,東南アジアの熱帯降雨林地帯(マレー半島,インドネシア島嶼部)では,オカボやアワなどの穀類がおもに栽培されるようになり,主食に占めるタロイモの割合は低くなっている。また中南米原産のヤウテア類は,16世紀以後にアフリカや太平洋諸島に導入されたが,生育がよく,収量も多く,味もよいため,現在ではこれらの地域でサトイモより多く栽培されるようになった。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「タロイモ」の意味・わかりやすい解説

タロイモ
たろいも
taro

サトイモ科(APG分類:サトイモ科)サトイモ属Colocasiaの植物で、オセアニアの熱帯から温帯にかけて広く栽培され、主要な食糧となっているものの総称。いも(地下茎)を食用とするものがほとんどであるが、葉柄や葉身を食用とする品種もある。大部分はC. esculenta (L.) Schottであり、これはいわゆるオセアニアのタロや西インド諸島のダシーンdasheen、アフリカのココヤムcocoyam、日本のサトイモなどが含まれる。ほかにアジア原産で西インド諸島で栽培されるエドエeddoe(C. antiquorum Schott)やマレーシア原産で日本でも栽培されているハスイモC. gigantea Hook.f.も含まれる。また、インドクワズイモ、キルトスペルマ類もタロイモとよばれる。

[星川清親 2022年1月21日]


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百科事典マイペディア 「タロイモ」の意味・わかりやすい解説

タロイモ

タロとも。東南アジア原産のサトイモ科に属するいもの総称。属の違う種類も含み,多くの品種がある。オセアニア,インドネシア,台湾からインド,アフリカにまで栽培される重要な食用作物。日本で栽培されるサトイモもこの一種。
→関連項目いも(芋/藷/薯)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タロイモ」の意味・わかりやすい解説

タロイモ
Colocasia antiquorum; taro

サトイモ科の多年草。東南アジアの原産。サトイモ (里芋)の品種群と考えられ,ポリネシアや南太平洋の島々で広く栽培され,重要な食料となっている。現在では熱帯アフリカやアメリカでも栽培され,多数の品種が知られている。

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栄養・生化学辞典 「タロイモ」の解説

タロイモ

 →サトイモ

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世界大百科事典(旧版)内のタロイモの言及

【キルトスペルマ】より

…東マレーシアから南太平洋の島々で,湿地に栽培されるサトイモ科の植物(イラスト)。いわゆるタロイモの仲間。約10種ほどある。…

【農耕文化】より

…さらに前4千年紀から前3千年紀にかけ,この文化は,東方に向かっては中央アジア(トルキスタン)からチベットのオアシス地帯に拡大し,西方に向かっては地中海沿岸からヨーロッパに広がり,今日のヨーロッパ文明の基礎を形づくるに至るのである。
[根栽農耕文化]
 インド東部から東南アジア大陸部にかける熱帯モンスーン地帯では,きわめて古い時代にタロイモやヤムイモなどが栽培化され,マレーシアからオセアニアに至る熱帯森林地帯では,バナナ,パンノキ,ココヤシ,サゴヤシ,サトウキビなどが栽培化された。これらの作物は,いずれも種子によらず,根分け,株分け,挿芽などによって繁殖するため栄養繁殖作物(根栽作物)とよばれ,それを主作物として栽培する農耕文化を根栽農耕文化とよぶ。…

【ポリネシア人】より

…家は一般に開放的であり,壁のあるものとないものがあった。農作物はタロイモ,ヤムイモ,バナナ,ココヤシ,パンノキの実,サツマイモなどであった。とくにタロイモの栽培はさまざまの環境条件に応じた工夫がみられ,棚田や灌漑施設がつくられ,低いサンゴ礁では水がないため,溝を掘って堆肥が入れられていた。…

※「タロイモ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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