タカネヒカゲ(英語表記)Oeneis norna

改訂新版 世界大百科事典 「タカネヒカゲ」の意味・わかりやすい解説

タカネヒカゲ (高嶺日陰)
Oeneis norna

鱗翅目ジャノメチョウ科の昆虫。日本にすむ真の高山チョウの1種。ラップランドからシベリアカムチャツカアラスカにかけての北極を取り巻く寒冷地に広く分布し,日本では本州の飛驒山脈八ヶ岳の高山帯のみにすんでいる。飛驒山脈の雪倉岳から蝶ヶ岳,西穂高岳にかけての尾根筋では場所によっては多産する。開張3.5~4.5cm。標高2500m以上の幅広い尾根や緩やかな斜面に発生し,〈ヒカゲ〉の名に似合わず,陽光を好み,太陽が雲に隠れると直ちに活動をやめ,石の間やハイマツの下などに隠れることが多い。閉じた翅の片面を太陽光線に向けて体を斜めに倒し,日光浴をすることがある。また強風を避けるときにもこのような姿勢をとる。幼虫の食草はカヤツリグサ科イワスゲヒメスゲなど。幼虫の状態で2冬を過ごし,3年目の7月中旬~下旬に羽化する。近縁ダイセツタカネヒカゲO.melissaは北海道の大雪山群などの高山帯に分布する。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タカネヒカゲ」の意味・わかりやすい解説

タカネヒカゲ
Oeneis norna

鱗翅目ジャノメチョウ科。前翅長 22mm内外。翅の地色は黄褐色で翅表の斑紋は変異が多い。裏面には細かい複雑な斑紋がある。ジャノメチョウ科 (→ジャノメチョウ ) に特有の眼状紋は黒点として認められるが,不明瞭なものが多い。雄の前翅中室下方には斜向する暗色の発香鱗条があり,これが性標となっている。幼虫はヒメスゲ,イワスゲなどを食べ,1世代に2年を要する。代表的な高山チョウの1種で,飛騨山脈,八ヶ岳の高山帯に産し,それぞれ亜種 O. n. asamanaO. n. sugitaniiという。国外ではユーラシア大陸,北アメリカの北極周縁地域に分布する。近縁のダイセツタカネヒカゲ O. melissaは本種に似るがより暗色で,雄に性標がない。北海道大雪山,日高山脈の高山帯に産し,カムチャツカ半島からアラスカ,カナダ北部に分布する。北海道産は亜種 O. m. daisetsuzanaという。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「タカネヒカゲ」の意味・わかりやすい解説

タカネヒカゲ
たかねひかげ / 高嶺日陰蝶
norse grayling
[学] Oeneis norna

昆虫綱鱗翅(りんし)目ジャノメチョウ科に属するチョウ。現在はいちおう標記の種とされているが、この類の分類は不完全で日本産のものは標記の種とは別種である可能性も残されている(別種の場合にはその学名Oeneis asamanaとなる)。本州中部の北アルプスと八ヶ岳(やつがたけ)の高山帯に産するが、本種は日本産チョウ類のなかでもっとも高山性のもので、その分布の下限は標高2500メートルを下ることがない。種nornaはラップランド、アルタイ山脈タルバガタイ山脈、北アメリカ寒冷地など北極をめぐる地域に分布し、周極種として知られる。はねの開張48ミリメートル内外。成虫の出現期は7~8月(7月下旬ごろが最盛期)、本種は1世代の完了に足掛け3年を要するもので、1年目の冬は3齢(または2齢)幼虫で、2年目の冬は5齢幼虫で越し、3年目に羽化出現する。幼虫の食草はヒメスゲ、イワスゲなどのカヤツリグサ科植物である。

[白水 隆]


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百科事典マイペディア 「タカネヒカゲ」の意味・わかりやすい解説

タカネヒカゲ

鱗翅(りんし)目ジャノメチョウ科の1種。ジャノメチョウ科はタテハチョウ科の1亜科とする場合もある。開張48mm内外,暗褐色で外縁の灰黄帯中に黒紋がある。後翅裏面には砂礫(されき)に似た模様がある。日本特産種で,北アルプスと八ヶ岳の標高2000m以上の砂礫地にすみ,晴天時だけ飛び,悪天候時には礫下にもぐる。幼虫はスゲ類を食べ,1世代2ヵ年を要し,成虫は7〜8月に出現。タカネヒカゲ北アルプス亜種は準絶滅危惧,タカネヒカゲ八ヶ岳亜種は絶滅危惧IA類(環境省第4次レッドリスト)。北海道大雪山には近縁種のダイセツタカネヒカゲを産する。
→関連項目高山チョウ

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世界大百科事典(旧版)内のタカネヒカゲの言及

【高山蝶】より

…真の高山地帯に分布が局限されるものは本州では2種,北海道では3種しかない。英語でAlpineといえば,タカネヒカゲ類のことを指す。 本州の高山チョウは,クモマツマキチョウ(イラスト),ミヤマシロチョウ,ミヤマモンキチョウ,オオイチモンジ,コヒオドシ,タカネキマダラセセリ,ベニヒカゲ,クモマベニヒカゲ,タカネヒカゲ(イラスト)の9種とされる。…

※「タカネヒカゲ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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