ソレルス(読み)それるす(英語表記)Philippe Sollers

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ソレルス」の意味・わかりやすい解説

ソレルス
それるす
Philippe Sollers
(1936―2023)

フランスの作家。ボルドー生まれ。パリに出て経済学を学び、1957年、短編『挑戦』でモーリヤックアラゴンに激賞され、翌1958年の長編『奇妙な孤独』で一挙に新進作家として認められた。1960年、季刊誌テル・ケル創刊の際、編集陣に加わる一方、ヌーボー・ロマンをしのぐ新手法による小説『公園』(1961)を発表、その急激な変貌(へんぼう)は人々を驚かせた。『ドラマ』(1965)、『数』(1968)、『法』(1972)など、作品は一作ごとに深く激しい変化をみせ、難解の度を深めていったが、1974年以降『テル・ケル』に発表し始めた『楽園』は、1982年同誌が廃刊され、同じく季刊誌『ランフィニ』L'Infiniに引き継がれたあとも連載された。また、ガリマール社に移籍して発表した『女たち』(1983)、『遊び人の肖像』(1984)は、それまでの難解さを一変させ、新しい「ビタ・セクスアリス」Vita Sexualisとしてベストセラーとなり、またまた世人を驚かせた。その後も『ゆるぎなき心』(1987)、『黄金の百合(ゆり)』(1989)、『秘密』(1992)、『ルーヴルの騎手』(1995)など、話題作、問題作を発表し続けた。『テル・ケル』時代に、マルクス・レーニン主義や毛沢東(もうたくとう)思想への接近サドアルトーバタイユフロイトジョイスなどへの関心、さらにアメリカ特集(1977)など、「変節漢」の罵声(ばせい)を浴びながら変貌と転向を繰り返した。しかし、その底には西欧思想全体の見直しを迫るための揺さぶりという一貫性が認められる。感性知力と決意によって、またその文才によって、自由と幸福の追求という点においては、もっとも際だつ作家の一人であった。

[岩崎 力]

『清水徹訳『奇妙な孤独』(『現代フランス文学13人集1』1965・新潮社)』『岩崎力訳『公園』『ドラマ』『数(ノンブル)』(1966、1967、1976・新潮社)』『岩崎力訳『ニューヨークの啓示――ディヴィッド・ヘイマンとの対話』(1985・みすず書房)』『岩崎力訳『遊び人の肖像』(1990・朝日新聞社)』『鈴木創士訳『女たち』(1993・せりか書房)』『岩崎力訳『ゆるぎなき心』(1994・集英社)』『岩崎力訳『黄金の百合』(1994・集英社)』『野崎歓訳『秘密』(1994・集英社)』『菅野昭正訳『ルーヴルの騎手』(1998・集英社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「ソレルス」の意味・わかりやすい解説

ソレルス

フランスの作家。小説《奇妙な孤独》(1958年)をモーリヤックアラゴンに激賞され,その後《公園》(1961年)で斬新な手法を用いて一躍〈ヌーボー・ヌーボー・ロマン〉の旗手となり,季刊誌《テル・ケル》を創刊し,思想と文学の最先端を突き進んだ。彼の思想も,文体と同じく変貌に変貌をかさね,毛沢東主義から記号論,精神分析を経て,カトリックと享楽主義に至っている。作品の難解さにより読者が離れ,《テル・ケル》を廃刊せざるをえなくなった時期もあったが,読みやすい文体となった《女たち》(1983年)以来,《遊び人の肖像》(1984年)《ゆるぎなき心》(1987年)など,自らの常にスキャンダラスな言動ともあいまってベストセラーを連発している。
→関連項目クリステバポンジュ

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ソレルス」の意味・わかりやすい解説

ソレルス
Sollers, Philippe

[生]1936.11.28. ジロンド,タランス
フランスの小説家,批評家。ヌーボー・ロマンによる破壊と建設を踏まえたうえで,さらに先に進み,あらゆる既成の概念を破棄して,人間の内面の動きを直接エクリチュールに定着させるべく,書くこと自体の意味を探る。前衛的季刊誌『テル・ケル』 Tel Quelの編集に 1960年の創刊時からたずさわり,多くの評論を執筆,1960年代末からはマルクス主義,さらには毛沢東主義に傾いた。 82年『テル・ケル』廃刊。 83年『ランフィニ』として再出発させ,みずからは難解を廃し,一転してベストセラー作家となる。短編『挑戦』 Le Défi (1957) ,長編『奇妙な孤独』 Une curieuse solitude (58) ,難解な小説風の作品『公園』 Le Parc (61) ,『ドラマ』 Drame (65) ,改行も句読点も一切ない『楽園』 Paradis (2巻,84,『テル・ケル』に 74年から連載) ,ベストセラー『女たち』 Femmes (83) ,『絶対的心情』 Le Coeur absolu (87) など。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android