改訂新版 世界大百科事典 「ソテツ」の意味・わかりやすい解説
ソテツ (蘇鉄)
Japanese sago palm
sago palm
Cycas revoluta Thunb.
九州南部から琉球諸島にかけて自生するが,濃緑色でつやのある葉を観賞するために,関東以南の庭園に露地植えにされるソテツ科の植物。関東北部では冬に霜から保護するために,葉を切り取り,株全体をわらで包む必要がある。幹は太く,葉柄基部が枯れ残って周囲をうろこ状におおう。高さ2mほど,まれに5mを超すことがあり,しばしば側方から芽を出して,枝分れする。茎頂から葉を四方に広げる。葉は長さ50~100cm,1回羽状に分裂し,羽片は線形で長さ8~20cm,幅3~5mm。表面は濃緑色でつやがある。雌雄異株で,雌花,雄花ともに茎頂に1個つき,夏に開く。雄花は長さ50~70cmに達する狭楕円体で,花軸のまわりにオール状の小胞子葉(おしべ)を多数つけるが,この小胞子葉の裏面一面には小胞子囊(花粉囊)が密生する。雌花は先が掌状に裂けた大胞子葉が多数束生し,花としてのまとまりがわるく,いわば花の原型を示す。大胞子葉は黄褐色の柔らかい毛でおおわれ,下半部に1~3対の胚珠をつけ,胚珠は秋から冬にかけて,橙赤色で卵形の長さ4cmにもなる種子となる。種子の胚乳と幹の髄にはデンプンを含み,救荒植物としては古くから利用されてきたが,0.005%のホルムアルデヒドを含むので,十分水洗いしないと中毒死する。原産地では新葉の出る前に,幹のうろこをはぎとり,髄と心材部を切り,乾燥させて粉にして水でさらす。1895年,池野成一郎がソテツの精子を発見し,種子植物とシダ植物との類縁性の存在を確証したことは有名である。葉は盛花に用いられ,房総半島南部より西の暖地では栽植して葉を出荷する所もある。宮崎県串間市都井岬は自生北限地として,また各地の社寺の境内に植えられた老大樹は天然記念物として保護されている。静岡県清水市の竜華寺のソテツは高さ4mに達し,有名である。
台湾にはタイワンソテツC.formosanaYamamoto,フィリピン以南にはナンヨウソテツC.circinalis L.がある。後者は葉長2.5m,樹高15mに達する。
ソテツ科Cycadaceae
世界の熱帯,亜熱帯に,9属約70種が分布する。裸子植物のこの科は,他の種子植物に見られないような花の原型を示すものがあり(ソテツ属),古くから生きた化石として注目されてきた。また花だけでなく,シダ状の羽状複葉をもち,有性生殖は卵と精子の間で行われるなど,より原始的なシダ植物の形質を残している。茎頂から葉を束生し,葉の間から1個の球花を頂生する。すべて雌雄異株で,雄花,雌花ともに球花をつくるが,ソテツ属の雌花だけは例外で,大胞子葉が多数束生するだけで,花としてのまとまりが弱く,いわば花の原型を示す。雄花はへら状,オール状の小胞子葉(おしべ)が花軸上に密生して球花をつくり,小胞子葉の裏側一面に小胞子囊を密生する。胚珠は3層の珠皮で包まれ,二畳紀のシダ種子類,パキテスタPachytestaのそれと同型で,ソテツ類がシダ種子類の後裔(こうえい)であることを示唆している。
幹は直立して十数mに達するものや,地中に埋もれ地表に数十cm顔を出すものなどがある。地上部は枯れ残った葉柄基部でおおわれることが多い。しばしば葉腋(ようえき)から芽を出し枝を出すことがあるが,茎頂で分枝することはない。幹は髄が大きく,木部にも放射組織がよく発達するので,材質は柔らかく,建材にはむかない。
ソテツ属Cycasはアジアで唯一のソテツ科植物で,約15種が東南アジア,太平洋諸島,オーストラリアおよびアフリカ東部に分布している。新大陸にはザミア属Zamia,ツノザミア属Ceratozamia,ディオオン属Dioonおよびミクロキカス属Microcycasの4属が知られる。それらのうちザミア属はもっとも分布が広く,30~35種がフロリダからアンデス山脈を南下しチリ北部まで,およびカリブ海の島々に分布している。茎は地中に埋もれ,地上部はわずか5cmほどである。ツノザミア属は大胞子葉に2本の角状突起があるのが特徴で,メキシコに8種が知られている。ディオオン属はメキシコ特産で,三角状の大胞子葉につねに1対の胚珠がつく。幹は2mに達する。ミクロキカス属はキューバ特産で,高さ5~10mに達する。オーストラリアには,マクロザミア属Macrozamia,ボウエニア属Boweniaの2属が知られる。前者は大胞子葉の先が尾状に長く伸びたとげになる。クイーンズランド州産のマクロザミア・ホペイM.hopei Hill.はソテツ科中最大で,高さ20mに達する。ボウエニア属はソテツ科中唯一の2回羽状複葉をもち,茎は径2~5cmほどのダイコン状で,地中生である。初め,シダ類のシシガシラ属の1種として記載された。アフリカにはオニソテツ属Encephalartosとシダソテツ属Stangeriaの2属がある。前者は南ア,コンゴ民主共和国,ケニア,ザンビアに約30種が知られ,幹は径60cmほどの塊状で,葉にはとげ状の鋭い突起がある。シダソテツ属は南アにただ1種が知られ,幹はほとんど地表に出ない。初めシシガシラ科のロマリア属Lomariaの1種として記載された。
執筆者:西田 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報