スミス(Patti Smith)(読み)すみす(英語表記)Patti Smith

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

スミス(Patti Smith)
すみす
Patti Smith
(1946― )

アメリカのロック歌手、詩人シカゴの工場労働者の家庭に生まれ、後にニュー・ジャージー州に移住する。高校時代にランボーの詩に傾倒し詩作を始めるとともに、ローリング・ストーンズに熱中し、アートや演劇に親しむ。ニュー・ジャージー州グラスボロ教育大学在学中の1967年春、大学教授との間の子どもを出産するが、生活のために里子に出し、ニューヨークへと移り住む。

 ニューヨークでは写真家のロバート・メープルソープ劇作家・俳優のサム・シェパードらと親しくなり、またニューヨークのアート・シーンや演劇シーンと交流し、詩作に努める。『7番目の天国Seventh Heaven(1972)、『ウィットWitt(1973)など数冊の詩集発表。やがて彼女は公園やコーヒーハウスなどでポエトリー・リーディングを行うようになり、そのバックにギターやピアノの伴奏がつくこともしばしばあった。後にニューヨーク・パンクを代表するグループとなるテレビジョンギタリスト、トム・バーレインTom Verlaine(1949―2023。本名トーマス・ミラーThomas Miller)らをバックに最初のシングル「ヘイ・ジョー/ピス・ファクトリー」(1974)を発表。ライブ活動も積極的に行うようになり、ファースト・アルバム『ホーセス』(1975)をリリースする。フランス象徴派の影響を受けた文学的な詩とロックン・ロールの結び付きはニューヨークから誕生した新たなロック・ミュージックとして歓迎され、後のニューヨーク・パンクの先駆けとなる。

 1976年にはセカンド・アルバム『ラジオ・エチオピア』を、続いてサード・アルバム『イースター』(1978)をリリース。後者に収録された、ブルース・スプリングスティーンBruce Springsteen(1949― )との共作曲「ビコーズ・ザ・ナイト」は全米で13位まで上る大ヒットとなった。4枚目のアルバム『ウェイブ』(1979)をリリースした後、元MC5のギタリスト、フレッド・スミスFred Smith(1948―1994)と1980年に結婚・引退し、デトロイトで静かな結婚生活を送る。

 1986年ころからフレッドの協力によって復帰作のレコーディングが開始され、やがて9年ぶりのアルバム『ドリーム・オブ・ライフ』(1988)がリリースされる。1993年には久しぶりに観衆の前でポエトリー・リーディングを行い、活動再開の準備をしていた矢先、夫のフレッドが心不全で急死する。悲しみを乗り越え、かつての友人たちとの協力で録音されたアルバム『ゴーン・アゲイン』(1996)を発表、ベテラン・ロック・アーティストとしての風格をみせた。その後も『ピース・アンド・ノイズ』(1997)、『ガン・ホー』(2000)などのアルバムを発表。1997年(平成9)には初来日するなど活発な活動を続けている。

[増田 聡]

『東玲子訳『パティ・スミス完全版――詩と回想、そして未来へのメモ』(2000・アップリンク)』『ニック・ジョンストン著、鳥井賀句訳『パティ・スミス――愛と創造の旅路』(2000・筑摩書房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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