ストレスチェック制度(読み)すとれすちぇっくせいど

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ストレスチェック制度」の意味・わかりやすい解説

ストレスチェック制度
すとれすちぇっくせいど

労働者の心理的な負担を把握して、うつなどのメンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的として、改正労働安全衛生法(2014年(平成26)6月公布)に基づき創設された制度。

 2015年12月より、常時使用する労働者が50人以上の事業場に対して、毎年1回、ストレス程度を知るための検査ストレスチェック)およびその結果に基づく面接指導の実施義務づけられた(50人未満の事業場については当面努力義務)。本制度が設けられた背景には、精神障害による労災認定が2009年234件、2010年308件、2011年475件と3年連続で過去最多を更新したことがある。

 検査は、「ストレスの原因」「ストレスによる心身の自覚症状」「周囲のサポート」に関する質問事項が含まれた質問票に、労働者が回答する形式で行われる。これを実施者である医師保健師等が回収・評価し、結果(ストレスの程度や医師による面接指導が必要か否か)を直接本人に通知する。事業者は、「医師による面接指導が必要」とされた労働者が面接指導を希望した場合にはそれを実施し、医師の意見を聴取したうえで、必要に応じて作業の転換や労働時間の短縮等の措置を講じなければならない。また努力義務として、実施者が集団(部、課、グループ等)ごとに集計・分析したストレスチェック結果の提出を受け、職場環境の改善を行うこととされている。

 なお、ストレスチェック制度の実施は事業者の義務であるが、労働者にストレスチェックを受検する義務はない。また、プライバシー保護の観点から、ストレスチェックや面接指導で労働者の個人情報を取り扱った者(実施者とその補助をする実施事務従事者)には守秘義務が課せられており、違反した場合は刑罰の対象となる。したがって義務主体である事業者であっても、労働者の同意がなければストレスチェックの評価結果は閲覧できない。加えて、労働者がストレスチェックを受検しないこと、ストレスチェックの結果の事業者への提出に同意しないこと等を理由とする不利益な取扱い、面接指導の結果を理由とする解雇、退職勧奨等を行うことは禁じられている。

 ストレスチェックおよび面接指導の実施状況は、毎年、労働基準監督署に報告する義務がある。2017年6月末時点でストレスチェック制度の実施が義務づけられている事業場のうち実施報告書の提出があった事業場は82.9%、提出があった事業場に在籍しストレスチェックを受検した労働者は78.0%、医師による面接指導を受けた労働者は0.6%、また、ストレスチェックを実施した事業場のうち集団分析を実施している事業場は78.3%となっている(厚生労働省労働衛生課調べ)。

[編集部 2018年9月19日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

知恵蔵 「ストレスチェック制度」の解説

ストレスチェック制度

働く人たちに対し、心理的な負担の程度を確かめる検査とその結果に応じた面接指導などの対応を行う制度。2014年6月の労働安全衛生法の改正により、従業員50人以上の事業所を対象に、15年12月から義務付けられることとなった。
従業員は自身のストレス状態を、事業者側は組織的なストレス傾向を把握することで、職場の環境改善やメンタルヘルス不調の予防へとつなげるのが狙い。身体的な健康診断と同じように、少なくとも年1回行われるが、従業員にはチェックを受ける義務はない。
検査を実施するのは事業者ではなく、産業医や外部の専門機関となる。具体的な流れとしては、まず、仕事の状況や心身の状態、上司や同僚らとの人間関係を問う調査票によるストレスチェック検査を行う。次に、検査結果から高ストレス状態にあると判断された従業員は、本人が希望する場合、医師による面接指導を受ける。事業所は、面接結果や、検査の実施者から伝えられた部署ごと(10人以上)のリスクの傾向を受け、必要に応じて職場環境改善のための対策を取る。
検査結果は、受けた本人にのみ通知され、本人の同意がなければ、事業者側に伝えられることはない。高ストレス状態にあり、医師による面接が必要という結果が出ても、本人からの申し出がなければ、事業者側には分からない仕組みとなっている。また、改正労働安全衛生法では、事業者側は、面接の申し出をした従業員に対し、不利益な扱いをしてはならない、と定められている。
ストレスチェック制度の義務化には、過度のストレスによる、うつ病などのメンタルヘルス不調が社会問題化しているという背景がある。厚生労働省が10年に発表した推計によると、自殺やうつ病による社会的損失額は年間約2兆7000億円に上る。精神障害による労災請求件数も年々増加していることもあり、職場でのメンタルヘルス対策強化が求められることとなった。

(南 文枝 ライター/2015年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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