スギ(杉)(読み)すぎ(英語表記)Japanese cedar

翻訳|Japanese cedar

日本大百科全書(ニッポニカ) 「スギ(杉)」の意味・わかりやすい解説

スギ(杉)
すぎ / 杉

倭木
Japanese cedar
[学] Cryptomeria japonica (L.f.) D.Don

スギ科(分子系統に基づく分類:ヒノキ科)の常緑大高木。日本の特産種で、中国には変種の柳杉C. japonica var. sinensis Sieb.(C. fortunei Hooibrenk)がある。日本では本種に通常「杉」の字をあてるが、中国語の「杉」は本種ではなく、同じくスギ科のコウヨウザン(別名オランダモミ)をさしている。日本のスギに該当する中国語は日本柳杉である。幹はまっすぐに伸び、巨大なものは高さ68メートル、径7メートルに達する。枝や葉は密につき、円錐(えんすい)形の樹形をつくり、老樹では円形となる。樹皮は赤褐色で、縦に割れ、細長い薄片となって、はげ落ちる。葉は小形の鎌状(かまじょう)針形で螺旋(らせん)状に配列し、永続性で枯死しても脱落することはない。葉の横断面は長い菱(ひし)形をなし、樹脂溝は1個で中央に近く、維管束の下側に位置する。四面に気孔がある。雌雄同株で3~4月、開花する。雄花は前年の小枝の先の葉腋(ようえき)に穂状に集まってつき、黄色で楕円(だえん)形、長さ5~8ミリメートル。雌花は前年の小枝の先に1個ずつ下向きにつき、緑色で球形をなし、長さ4.5~5ミリメートル。球果は木質で卵状球形、長さ2~3センチメートル。初め緑色であるが、その年の10月ころ成熟し、裂開して褐色となる。種鱗(しゅりん)と包鱗は下半部が合着し、包鱗の上端は三角状でやや反曲し、種鱗の上端は4~6個の牙歯(がし)状をなす。種子は種鱗の茎部に2~6個つき、倒披針(とうひしん)形で両側に狭い翼がある。子葉は2~3枚、まれに4枚。染色体数はn=11、2n=22。

 なお、スギの花粉は、アレルギー性鼻炎の原因であるとして、近年話題になっている。

[林 弥栄 2018年6月19日]

種類

スギは、樹皮の色や裂け方、樹形、枝の出る角度、葉の色・形・長さ・曲がり方などが、生育地によって変異が多い。日本のスギは生育地によってウラスギ(裏杉)とオモテスギ(表杉)とに分類される。ウラスギは日本海側いわゆる裏日本型のスギの総称で、オモテスギは太平洋側いわゆる表日本型のスギの総称である。ウラスギの代表種はアシオスギ(芦生杉(あしおすぎ))である。これはおもに日本海側の多雪地帯に自生する変種で、中井猛之進(なかいたけのしん)が京都府下の芦生の山中に自生するスギに命名したものである。樹皮は赤褐色で縦に長く裂け、繊維質で細長く剥離(はくり)する。枝葉は密生し、狭い円錐形の樹冠をなすが、成長の衰えたものはやや円形となる。葉は小形の鎌状針形をなし、開く角度が狭い。球果は付属片は短く、丸くみえる。下枝は枯れ上がらず、下垂して地をはい、のち新しい株を形成する。成長力が旺盛(おうせい)で、小枝から盛んに小枝を出し、切り株からも萌芽(ほうが)する。このアシオスギは芦生産のスギのみでなく、ウラスギ一般に共通する特徴をもっている。磨(みがき)丸太や庭木用として有名なキタヤマダイスギ(北山台杉)はアシオスギから選抜育種された林業品種である。

 オモテスギは太平洋側に自生し、また広く植林されている基本形のスギで、このなかで、屋久島(やくしま)に自生するスギは、針葉は長く、幅も広く、先が鋭くとがり、また材の木目が非常に複雑となる性質がある。これは一般にヤクスギ屋久杉)と称しているが、屋久島では樹齢約1000年以上の大木のみをヤクスギ、それ以下の小さいものをコスギ(小杉)と称している。ヤクスギの代表的なものはジョウモンスギ(縄文杉)とダイオウスギ(大王杉)で、最近の精密な調査の結果、いずれも樹齢3000~3500年以上と推定された。7000年以上とする説もあるが、これは疑わしい。

[林 弥栄 2018年6月19日]

品種

スギは園芸用や林業用など利用目的によってそれぞれ特別な品種が数多くある。

 園芸用の品種は十数種あるが、おもなものは以下のとおりである。エンコウスギ猿猴杉)は、枝は多数出て著しく伸長し、長い針葉と短い針葉を交互に生じ、そのようすがテナガザルの腕に似る。ヨレスギ(縒杉)は葉が湾曲してとがり、枝の周囲に螺旋状に密に巻き付き、ヤワラスギ(柔杉)は葉は細長くて柔らかい。ムレスギ(叢杉)は枝が根元から多数出て叢生(そうせい)し、イカリスギ(錨杉)は枝が長く、屈曲し、葉が小さくて短い。セッカスギ(石化杉)は枝が帯状になり、オウゴンスギ(黄金杉)は若葉が黄金(こがね)色を呈し、ミドリスギ(緑杉)は葉が冬でも緑色である。チャボスギ(矮鶏杉)は枝葉が短小で密生し、樹冠が半円形となる。マンキチスギ(万吉杉)は枝が密生し、葉が著しく剛強で開き、鋭くとがる。シダレスギ(枝垂杉)は枝が細長く、下垂する。フイリスギ(斑入杉)は矮性(わいせい)で、葉に黄白色の斑(ふ)が入る。

 林業用品種は、実生(みしょう)でつくられたものと、天然林からの挿木によってつくられたものとに大別される。実生によるものは各地方別に特定の品種があり、アシオスギやヤクスギのほか、アキタスギ(秋田杉)、シソウスギ(宍粟杉)、ホウライスギ(鳳来杉)、ヨシノスギ(吉野杉)、タテヤマスギ(立山杉)、ハクサンスギ(白山杉)、ヤナセスギ(魚梁瀬杉)などがある。挿木によるものとしては、イトシロスギ(石徹白杉)、エンドウスギ(遠藤杉)、オキノヤマスギ(沖ノ山杉)、クマスギ(熊杉)、ハチロウスギ(八郎杉)などがある。

 また林業品種のなかには、特定の利用目的に沿って造林されるものがあり、オビアカ(飫肥赤)、ホンジロ(本白)、サンブスギ(山武杉)、ホンスギ(本杉)、アヤスギ(綾杉)、アオスギ(青杉)、ヤブクグリ(藪潜)、ウラセバル(裏瀬原)、メアサトミスギ(芽浅富杉)、ボカスギ(暈杉)などがある。

[林 弥栄 2018年6月19日]

分布

スギは古い時代から植林されていたので厳密な意味での自生地は決めにくいが、日本における天然分布は、青森県西津軽郡矢倉山を北限地とし、本州から九州に広く分布し、九州の屋久島を南限地とする。とくに秋田県や高知県の魚梁瀬(やなせ)地方には純林状の天然林がある。屋久島には広大な天然林と樹齢3000年以上といわれる巨樹があるので有名である。スギの垂直分布は、本州では海抜0~2050メートル、四国では海抜300~1400メートル、九州では海抜300~1850メートルである。天然生育地の最低は和歌山県新宮(しんぐう)市浮島の海抜0メートルであり、天然生育地の最高は富山県猫又山(ねこまたやま)の海抜2050メートルである。現在、網走(あばしり)、留萌(るもい)両地方以南の北海道、本州、伊豆七島、四国、九州、沖縄、および朝鮮半島、中国大陸、台湾からヒマラヤ地方まで広く植栽され、日本を除くとヒマラヤ地方がもっとも生育がよいといわれる。そのほかヨーロッパ、ハワイ、北アメリカ、ニュージーランドなどの植物園などに植えられ、育っている。

[林 弥栄 2018年6月19日]

栽培

繁殖は実生と挿木によるが、畑から山に植える苗は、全国的にみて75%くらいが実生苗で、25%くらいが挿木苗である。植林の場合、一般には1ヘクタール当り3000本植えが標準とされているが、生産の目標などによって相違がある。最適地は年平均気温12~14℃、年降水量3000ミリメートル以上の谷あいで、土壌はやや湿気の多い肥沃(ひよく)な砂質壌土、または埴質(しょくしつ)壌土がよい。土壌形からみると、湿潤性褐色森林土でもっとも生育がよい。また陽樹(日当りでよく育つ)であるので、全光線の70~80%が当たるようにするのが最適である。雪害や風害に弱く大きな被害を被ることが多いので、幼時から除伐や間伐、また枝打ちを施すとともに林縁の保護を十分しなくてはならない。病害虫には、スギノハダニ、スギハムシ、スギメムシガ、スギタマバエ、スギザイノタマバエ、スギカミキリなどの害虫や、赤枯病、枝枯病、癌腫(がんしゅ)病、心腐(しんぐされ)病などの病気がある。

[林 弥栄 2018年6月19日]

利用

スギは日本における木材利用の75%を占めるほどで、日本におけるもっとも有用な樹種である。材は辺材と心材の境界が明らかで、辺材は白色、心材は淡紅色または暗赤褐色で、黒褐色を帯びるものもある。木目はよく通り、特有の香りがある。乾燥は速く、割裂性は大で、切削その他の加工は容易である。用途は非常に広く、建築、土木、電柱、船舶、機械、箱、桶(おけ)、樽(たる)、器具、下駄(げた)などに用いる。樹林としての利用も多く、庭園樹、並木、寺社林などに広く植えられている。

 スギはもっとも寿命の長い樹木で、大きいものは天然記念物に指定、保護されている。山形県東田川郡の「羽黒山(はぐろさん)のスギ並木」、栃木県日光市の「日光杉並木街道」、高知県長岡郡大豊(おおとよ)町八坂神社の「杉の大スギ」、岐阜県郡上(ぐじょう)市白鳥町石徹白(いとしろ)の「石徹白のスギ」、鹿児島県熊毛郡の「屋久島スギ原始林」などは著名で、特別天然記念物に指定されている。

[林 弥栄 2018年6月19日]

民俗

マツとともに日本の代表的な樹木であるスギは、建築用材として広く用いられるほか、古代から船材として利用されていた。工芸用材としての用途も広く、樽丸(たるまる)(酒樽の用材)に用いられる吉野杉はよく知られている。変わったものでは造酒屋(つくりざかや)のしるしとして、杉の葉を丸く集めたものを軒先に掲げる風習が各地にみられる。スギを神木とする例は全国を通じて多く、古来有名なものに京都市稲荷山(いなりやま)の「験(しるし)の杉」がある。稲荷山の杉の木を抜いて家に持ち帰り、それを植えて地に蘇生(そせい)すれば福を得、反対に枯れれば福がないという。奈良県桜井市の三輪山(みわやま)の杉は『万葉集』や『古今集』に歌われて有名だが、このほか三重県伊勢(いせ)市の豊受大神宮(とようけだいじんぐう)の五百枝(いおえ)の杉、福岡市香椎宮(かしいぐう)の綾杉(あやすぎ)、茨城県の鹿島神宮(かしまじんぐう)の神木杉なども知られている。

 スギについての伝説はいろいろあるが、武将が矢を射立てたスギの幹から古鏃(こやじり)が出てくるという「矢立杉」が各地にみられる。宮城県名取市のものは、藤原秀衡(ふじわらのひでひら)が上洛(じょうらく)のおり、門出を祝して路傍の古杉を射、前途を祝したといい、山梨県大月市の杉は、源頼朝(みなもとのよりとも)が富士の巻狩(まきがり)のときに放った矢が当たったものという。

 古来日本では、人の死後三十三回忌に「弔(とむら)い上げ」といって、それ以後仏は神になるという信仰があり、そのとき墓地に杉卒塔婆(そとば)または梢付塔婆(うれつきとうば)といって、スギの小枝を立てる風習がある。

[大藤時彦 2018年6月19日]

文学

神木として『万葉集』から詠まれ、三輪(みわ)神社の「味酒(うまさけ)を三輪の祝(はふり)がいはふ杉手触(てふ)れし罪か君に逢(あ)ひがたき」(巻4・丹波大女娘子(たにわのおおめおとめ))、石上布留(いそのかみふる)神社の「石上布留の神杉神(かむすぎかむ)びにし我(あれ)やさらさら恋に逢ひにける」(巻10・作者未詳)などとある。平安時代に入って、『古今集』の「我が庵(いほ)は三輪の山もと恋しくはとぶらひ来ませ杉立てる門」(雑下・よみ人しらず)がよく知られ、三輪明神の神婚説話と結び付いて明神の歌と伝承されるようになった。伏見(ふしみ)の稲荷(いなり)神社の杉も幸福をもたらすものとして有名で(『山城国風土記(やましろのくにふどき)』逸文)、『蜻蛉日記(かげろうにっき)』や『更級日記(さらしなにっき)』にも「しるしの杉」が現れる。板屋根にも用いられ、「杉板もて葺(ふ)ける板間のあはざらばいかにせむとて我寝そめけむ」(『拾遺集』恋2・柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ))のように、粗末な家の形容となった。

[小町谷照彦 2018年6月19日]


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百科事典マイペディア 「スギ(杉)」の意味・わかりやすい解説

スギ(杉)【スギ】

スギ科の常緑高木。本州〜九州の山地に自生し,また重要な林木として,日本各地に広く造林され,生産量は最も多い。幹は直立し,枝葉が密生。葉は長さ4〜12mm,針状で少し曲がり,らせん状に並ぶ。雌雄同株。3〜4月開花。雄花は淡黄色で楕円形,枝端に群生する。雌花は緑色で球形をなし,小枝の先につく。果実は球形で木質となり,10月に褐色に熟す。日本産樹木のなかでは最長寿の種といわれ,屋久杉には2000〜4000年と推定されるものもある。材は柔軟できめがあらく建材,器具材,土木材,船舶材,酒樽(だる)など幅広く使われ,樹は庭園木,生垣にする。エンコウスギなど園芸品種も多い。なお,屋久島のスギ原始林,日光杉並木羽黒山杉並木などは特別天然記念物。風媒花で春,多量の花粉を飛ばし,近年はこれが花粉症を引きおこして問題となっている。
→関連項目ヒノキ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スギ(杉)」の意味・わかりやすい解説

スギ(杉)
スギ
Cryptomeria japonica; Japanese cedar

スギ科の常緑高木で日本特産。本州北端から屋久島まで分布し,いたるところに植林され,また庭園,生垣,盆栽などによく用いられる。幹は直立し,大きなものでは直径 5m,高さ 50mに達する。樹皮は赤褐色で細長い薄片になってはげる。葉は枝に螺旋状になって密生し,1~2cmの針状でやや湾曲し,質が硬く先端はとがる。雌雄同株で,春に開花して秋には結実する。雄花序は淡黄色,長さ 5mmほどの楕円形で枝の先端に密に多数集ってつく。雌花序は球形で 6mm内外,やはり枝の先端につき,熟すると径2~3cmで褐色木質の球果となる。材は柔らかく細工がしやすいうえ直幹が得やすいため,日本では建築,船,橋,電柱,器具材,また樽,下駄などの細工物用に最も広く利用される。樹皮は屋根ふき用に,葉は線香や抹香の原料となる。秋田,伊豆天城山,天竜川流域,紀伊半島 (吉野,熊野) ,高知,宮崎 (飫肥) などが有名な産地で,年輪の幅や材質などに微妙な差があるといわれ,用材としては秋田杉,吉野杉,屋久杉などが区別される。

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