ジルコニウム

デジタル大辞泉 「ジルコニウム」の意味・読み・例文・類語

ジルコニウム(zirconium)

チタン元素の一。単体は銀白色の硬い金属。粉末は空気中で発火しやすい。熱中性子の吸収が金属中最小なので原子炉材料に、また合金材料などにも用いられる。元素記号Zr 原子番号40。原子量91.22。

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精選版 日本国語大辞典 「ジルコニウム」の意味・読み・例文・類語

ジルコニウム

〘名〙 (zirconium) チタン族元素の一つ。元素記号 Zr 原子番号四〇。原子量九一・二二四。銀白色の金属で、六方晶系(α(アルファ))と等軸晶系(β(ベータ))の二つの変態がある。一七八九年、ドイツのM=H=クラプロートが発見。ジルコン・バッデリ石などの鉱物中に存在する。耐食性にすぐれる。原子炉用材、医療機器の耐食材、真空管のゲッターなどのガス吸収剤などに用いる。
明六雑誌‐二二号(1874)化学改革の大略〈清水卯三郎〉「シルコニオム」

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化学辞典 第2版 「ジルコニウム」の解説

ジルコニウム
ジルコニウム
zirconium

Zr.原子番号40の元素.電子配置[Kr]4d25s2の周期表4族遷移金属元素.原子量91.224(2).天然には質量数90(51.45(40)%),91(11.22(5)%),92(17.15(8)%),94(17.38(28)%),96(2.80(9)%)の安定同位体が存在し,ほかに78~110の放射性同位体がある.1789年ドイツのM.H. Klaprothが鉱物ジルコンZrSiO4から酸化物として確認し,1824年スエーデンのJ.J. Berzelius(ベルセリウス)が金属として単離した.ジルコンは赤から黒に至る各色を帯びるが,多くは黄金色の鉱物で古代インド,ペルシャでも知られており,鉱物名は黄金色を意味するアラビア語zargûnに由来する.元素名はSir Humphry Davy(デイビー)が1808年に鉱物名から提案した.宇田川榕菴は天保8年(1837年)に出版した「舎密開宗」で,琪爾古扭母(ギルコニウム)としている.主要鉱物はジルコンのほか,バッデリ石ZrO2などがある.
地殻中の存在度100 ppm.可採埋蔵量は南アフリカ(37%),オーストラリア(27%),ウクライナ(10%),インド,アメリカ(ともに9%)の順である.製錬は,酸化鉱に赤熱状態で炭素と塩素を作用させ粗塩化物ZrCl4にかえ,不活性気体中で金属マグネシウムで還元するクロール(Kroll)法,精製はZrI4のフィラメント上の熱分解( > 1300 ℃,van Arkel-de Boer法)で行われる.イオン半径,金属半径がほぼ等しく化学的挙動がほとんど同一のハフニウムとの分離は四塩化物の段階で溶媒抽出法によって行われる.金属ジルコニウムは銀白色で,同族のチタンより軟らかく,α,βの2変態がある.室温では六法最密格子のα相で,862 ℃ で体心立方格子のβ相にかわる.融点1852 ℃,沸点4377 ℃.密度6.506 g cm-3(20 ℃).第一イオン化エネルギー6.84 eV.標準電極電位 Zr4+/Zr-1.55 V.金属結合半径0.160 nm.Zr(六配位)0.072 nm.熱濃硫酸,熱濃塩酸,熱濃硝酸にも侵されず,耐酸性はチタン,ステンレス鋼よりすぐれている.アルカリにも強く,濃NaOH水溶液には沸点まで,溶融NaOHにも1000 ℃ まで耐える.フッ化水素酸,王水に溶ける.フッ化水素酸には希薄溶液(~0.1%)でも侵される.室温の空気中では,固体は表面に徐々にできる酸化皮膜が内部を保護するので,耐食性にすぐれているが,酸化反応は発熱反応で,表面積の広い粉末は発火することがある.高温では,酸素,ハロゲン(X)と反応してZr O2(無色),Zr X4(無色,X = Iのみ黄色)を生じる.酸化数1~4を示すが,主要酸化数は4で,とくに水溶液中では,4以外は不安定な [Zr(H2O)6]3+ のみが知られている.Zr X2,Zr X3は青黒色~暗緑色の固体である.Zr4+ は硬酸([別用語参照]HSAB原理)に分類されるので,F,Cl やO,Nを配位原子とする配位子と錯体をつくりやすい.六,七,八配位が多い.Rb2[ZrF6]は六配位・八面体,Na3[ZrF7]は七配位・五方両すい,[Zr4(OH)8(H2O)16]8+ は八配位・十面体.
ジルコニウムは,熱中性子吸収断面積が金属材料中最小(0.18バーン)なので,原子炉材料として重要である.わが国では金属ジルコニウムの90% が,Zrを主成分とするジルカロイ合金の形で燃料被覆管などとして原子炉で使用され,残りが化学工業用耐食性構造材料となる.中性子捕獲断面積の大きい同族元素ハフニウム(105バーン)を除去した高純度金属を使用する.鉱石の最大の用途は,鉄鋼用耐火物,耐火れんが向けで,ほかは研磨剤,窯業,顔料などである.高純度ZrO2はPZT(ジルコン酸チタン酸鉛)圧電素子,セラミックコンデンサー光学レンズなどに用いられる.2005年度にわが国は約700 t を金属としておもにオーストラリア,アメリカから,鉱石をおもにジルコンで58000 t オーストラリア,南アフリカから輸入した.ジルコニウム化合物は労働安全衛生法政令第十八条の名称等を通知すべき危険物及び有害物指定.[CAS 7440-67-7]

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改訂新版 世界大百科事典 「ジルコニウム」の意味・わかりやすい解説

ジルコニウム
zirconium

周期表Ⅳ族に属する,第二遷移金属の一つ。1789年ドイツのM.H.クラプロートはスリランカ産のケイ酸塩鉱物ジルコンから新元素を発見し,ジルコニウムと命名した。主要鉱石はジルコンZrSiO4およびバデレアイトZrO2

銀色の光沢ある金属。六方晶系(α型)と立方晶系(β型)の2変態があり,α型からβ型への転移点870±3℃。金属は,強酸,強アルカリに対し耐食性が強い。微粉末は発火性があるので,取扱いに注意する。常温では酸化されないが,熱すると急速に酸化される。酸素,窒素,水素,炭素,ケイ素などの非金属元素と反応性が大きく,また侵入型化合物をつくりやすい。フッ化水素酸,王水には侵される。金属ジルコニウムは熱中性子の吸収断面積が金属中で最小であり(0.16バーン),しかも高温の水に対する耐食性および機械的性質も優れているため原子炉材料として非常に重要である。たとえば発電用原子炉の燃料被覆管にはジルカロイとよばれるジルコニウムに鉄,ニッケル,クロムを少量加えた合金が用いられており,現在では製品の大半が原子炉用である。耐薬品性があるため化学装置にも用いられ,また鋼の添加剤として微量添加して,その性質を改善するためにも利用される。ジルコニウムの酸化物は耐火物などとして重要である。化合物はほとんどが酸化数Ⅳであり,ⅡおよびⅢはハロゲン化物など少数が知られている。

製錬原料のジルコンにはつねにハフニウムHfが少量含まれるが,ハフニウムは熱中性子吸収断面積が大きいため(110バーン),原子炉の燃料被覆材として使用するためには,ハフニウムの含有量は0.01%以下にする必要がある。まず鉱石を炭素とともにアーク炉で熱して還元し,ケイ素の大部分を二酸化ケイ素として除き炭化ジルコニウムとする。次に約500℃で塩素ガスを作用させて塩化物とする。これを分別蒸留して塩化ジルコニウム(Ⅳ)ZrCl4(沸点330℃)と四塩化ケイ素SiCl4(沸点58℃)に分ける。分離したZrCl4中にハフニウムはHfCl4の形で含まれる。これを水に溶かして,ロダン(チオシアン酸)アンモニウムNH4SCNを加え,ZrO(SCN)2,HfO(SCN)2のイオン会合体をつくり,ヘキソン(メチルイソブチルケトン)のケロシン溶媒によりハフニウムを溶媒相に分離する。水溶液相のジルコニウムはアンモニアで加水分解し,さらに焼いて酸化ジルコニウム(Ⅳ)ZrO2とし,再び炭素,塩素によって純塩化ジルコニウム(Ⅳ)ZrCl4とする。これをチタンと同様な方法(クロル法)によってマグネシウムで還元して金属ジルコニウムとする。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジルコニウム」の意味・わかりやすい解説

ジルコニウム
じるこにうむ
zirconium

遷移元素の一つで、周期表第4族に属し、チタン族元素の一つ。原子番号40、元素記号Zr。

 1789年ドイツのクラプロートはセイロン島(スリランカ)産の鉱物ジルコンZrSiO4から酸化ジルコニウムZrO2を分離し、これを新元素であるとしたが、1824年スウェーデンのベルツェリウスは、ヘキサフルオリドジルコニウム(Ⅵ)酸カリウムK2[XrF6]を金属カリウムで還元し、ジルコニウム金属を単離した。しかし、鉱物から得られるジルコニウムには、かならず同族のハフニウムが2%程度随伴し、しかも両者の化学的性質が酷似するため、純粋なジルコニウム金属を得るには、塩化物の溶媒抽出法によってハフニウムを除去する必要がある。

[岩本振武]

性質

ジルコニウム金属はステンレス鋼に似た外観を呈し、熱中性子吸収断面積が金属中でもっとも小さい(0.16バーン。1バーンは10-24cm2、記号はb)ところから、原子炉材料として重要である。しかし、ハフニウムは110バーンの吸収断面積をもつので、その完全な分離が必要である。

 通常の金属は常温では安定であり、高温では反応性を増す。粉末は空気中で自然発火、爆発性を示すので危険である。スズ、鉄、クロムなどを少量加えたジルカロイとよばれる合金は耐食性に富み、ジルコニウムを添加した他の合金も耐食性である。化学的には酸化数+Ⅳの状態が安定で、酸化ジルコニウム(Ⅳ)は高融点(2715℃)、耐食性、低熱膨張率のセラミックス材料となる。

[岩本振武]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジルコニウム」の意味・わかりやすい解説

ジルコニウム
zirconium

元素記号 Zr ,原子番号 40,原子量 91.224。周期表4族に属する。天然には比較的豊富に存在し,地殻中の平均存在量 165ppm,海水中の存在量 0.02 μg/l 。鉱物としてはジルコン,バッデリ石などがあり,しばしば希土類元素鉱物のモナズ石に伴って産する。 1789年ドイツの化学者 M.H.クラプロートによって発見,1824年 J.J.ベルセーリウスによって単離された。単体は灰白色の光沢ある金属。融点 1900℃,比重 6.52。酸,アルカリに対し安定であるが,フッ化水素酸,王水,熱リン酸と反応する。粉末は発火点が低く,酸化剤と混ぜると爆発しやすい。純ジルコニウムは熱中性子の吸収断面積が金属中最小であるから,原子炉構造材料として繁用される。耐酸,耐食性が強いため,各種の機械用に,またゲッター,鉄鋼の脱酸剤,耐酸合金成分などとして用いられる。酸化物は白色顔料,耐火材料などに供される。

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百科事典マイペディア 「ジルコニウム」の意味・わかりやすい解説

ジルコニウム

元素記号はZr。原子番号40,原子量91.224。融点1852℃,沸点4361℃。1789年クラプロートがジルコンから発見。銀白色の金属。酸,アルカリに難溶,王水およびフッ化水素酸のみに可溶。金属の脱酸剤,鉄合金の製造などに用いられ,酸化物は耐火材料となる。熱中性子の吸収断面積が金属中最小であるため原子炉材として使用。天然にはジルコンとして産出。
→関連項目ジルカロイ

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世界大百科事典(旧版)内のジルコニウムの言及

【ハフニウム】より

…20世紀の初めころまで72番元素は未発見であり,希土類元素に属するともされたが,周期表でどの位置に入るかは問題であった。しかし元素の特性X線に関するモーズリーの法則およびN.H.D.ボーアの原子構造論から,ボーアは72番元素が4価の40番元素のジルコニウムZrやトリウムThの同族元素であると推定した。これにもとづき,1913年ボーアの研究室にいたハンガリーのG.vonヘベシーおよびオランダのコスターD.Coster(1889‐1950)は,ジルコニウム鉱物ジルコンのX線分析を行って,ボーアの予想どおりの72番元素の存在を確かめた。…

※「ジルコニウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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