ジョーンズ(Jasper Johns)(読み)じょーんず(英語表記)Jasper Johns

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ジョーンズ(Jasper Johns)
じょーんず
Jasper Johns
(1930― )

アメリカの画家・立体作家。サウス・カロライナ州アレンデールに生まれる。サウス・カロライナ大学、ニューヨークの美術学校を卒業後、日本滞在を含む兵役を経て、1952年からニューヨークで画家として活動する。1954年にロバート・ラウシェンバーグと出会い、2人は真剣な議論を重ねながら、新しい芸術を模索した。58年、レオ・キャステリ画廊での個展の成功で一躍名声を得ると、このときからネオ・ダダの名称でよばれるようになった。第二次世界大戦前のダダイスト、マルセル・デュシャンから強い影響を受け、日常的なオブジェ観念を復活させた思索型の芸術家でもある。

 1950年代末には懐中電灯電球、缶ビールの『彩色されたブロンズ』(1960)のようなオブジェ風の立体作品も制作した。しかし、ジョーンズを著名にしたのは、標的、アメリカの地図、アルファベット、数字などの平面的な記号を、カンバスの平面上に抽象表現主義風の筆触で描き出した絵画である。カンバスに二次元としての記号を描くことで、絵画を一個のオブジェとして知覚させようとするもので、この「事物」としての絵画は、抽象表現主義の熱っぽいタッチとは対照的に、冷ややかな感触をもつエンコスティック(蜜蝋(みつろう)画法)で描かれている。奥行きのあるイリュージョン幻影)を拒絶したタブローは、抽象表現主義から、現実世界の事物や日常的環境へと関心を移動させる重要な転換点となった。

 ラウシェンバーグとの交友は1962年まで続き、1970年代には、ジョーンズはクロスハッチ模様を用いた緊張感のある抽象に転じた。しかし、ネオ・ダダとよばれた2人の作品群は、日常的オブジェや身近な複製された図像を用いることで、1960年代に台頭するポップ・アートの先駆的役割を果たすことになった。

[石崎浩一郎]

『東野芳明著『ジャスパー・ジョーンズ そして/あるいは』(1979・美術出版社)』『東野芳明著『ジャスパー・ジョーンズ――アメリカ美術の原基』(1986・美術出版社)』『リチャード・フランシス著、東野芳明他訳『ジャスパー・ジョーンズ』(1990・美術出版社)』『『現代美術13 ジャスパー・ジョーンズ』(1993・講談社)』

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