ジョンソン(Philip Johnson)(読み)じょんそん(英語表記)Philip Johnson

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ジョンソン(Philip Johnson)
じょんそん
Philip Johnson
(1906―2005)

アメリカ建築家。オハイオ州クリーブランドに生まれる。ハーバード大学古典文学を学び、1932年、26歳の若さでニューヨーク近代美術館の初代建築部長となり、近代建築の紹介と評価の確立に大きな足跡を残した。同年「インターナショナル・スタイル――1922年以後の建築展」と題された企画展示において、歴史家のヘンリー・ラッセル・ヒッチコックHenry Russell Hitchcock(1903―1987)とともに、バウハウスを中心とした当時のヨーロッパの最新の建築スタイルをいち早くアメリカに紹介した。やがて評論活動に飽き足らず、自ら建築家となることを決意して母校に戻り、バウハウスを代表する建築家の一人であるマルセル・ブロイヤーに師事し、建築家の資格を得てキャリアを再スタートした。ニューヨーク近代美術館で建築部長を務めた時代から、一貫してスタイル(様式)としての建築を追求したが、建築家としての最初の作品は「ガラスの家」とよばれるコネティカット州ニュー・カナン自邸(1949)であり、そこにはバウハウスから大きく影響を受けた理論家としての意識と、ロマン的傾向とが一体化したさまがみられる。1959年には建築家ミース・ファン・デル・ローエと共同で、ニューヨークに超高層シーグラム・ビルを設計した。

 1970年代から1980年代にかけては、自ら「インターナショナル・スタイル」とよんだ建築スタイルから、さまざまな材質色彩を多用した非機能主義的なスタイルへと移行した。この時代の傾向は、彼の代表作の一つであるAT&Tビル(1984)においてとくに開花し、後に「ポスト・モダン建築」とよばれるスタイルを象徴する建築物の一つとなる。1980年代後半、のちに評論家・教育者として活躍するマーク・ウィグリーMark Wigleyと共同で「ディコンストラクティビスト・アーキテクチャー展」(1988)を企画し、それまでのスタイルとは明らかに異なる傾向をもった建築家フランク・O・ゲーリー、ピーター・アイゼンマンレムコールハースらを紹介し、彼らのもつスタイルとロシア構成主義絵画との関連性を示した。

 ジョンソンは、インターナショナル・スタイルからポスト・モダンを経てディコンストラクティビズムの建築へと至る、20世紀の建築の動向を特徴づけたこれら三つの互いにはっきり異なる傾向にそれぞれ関心をもち、移動し、アメリカにおけるそれらの紹介にかかわった。資産家であり大いなる趣味人でもあるジョンソンは、各時代ごとのさまざまな建築スタイルの傾向を、自身の所有する広大な敷地を実験場として自ら設計し実際に建設したという点で、他の一般的な職業建築家とは著しく異なっている。建築文化の一つの側面である表層的なスタイルの問題を、あたかもモードのように扱う姿勢については評価が分かれるところであるが、現実的な影響力は多大であった。1979年、その影響力をたたえられてプリツカー賞の初代受賞者となった。

[堀井義博]

『大江宏・明石乃武文、二川幸夫写真『現代建築家シリーズ フィリップ・ジョンソン』(1968・美術出版社)』『ロバートソン・ブライアン文、二川幸夫企画・撮影『GAグローバル・アーキテクチュア12 フィリップ・ジョンソン』(1972・エーディーエー・エディタ・トーキョー)』『デイヴィッド・ホックニー編、横山正訳『フィリップ・ジョンソン著作集』(1975・エーディーエー・エディタ・トーキョー)』『ヘンリー・ヒッチコック、フィリップ・ジョンソン著、武沢秀一訳『インターナショナル・スタイル』(1978・鹿島出版会)』『中村敏男編、モーラン・マイケル写真『フィリップ・ジョンソンの「ガラスの家」』(1998・YKK AP)』『John BurgeeArchitecture 1979-1985 ; Philip Johnson(1985, Rizzoli, New York)』『Jeffrey KipnisPhilip Johnson ; recent work(1996, Academy Editions, London)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android