ジャーヒズ(英語表記)al-Jāḥiẓ

精選版 日本国語大辞典 「ジャーヒズ」の意味・読み・例文・類語

ジャーヒズ

(al-Jāḥiẓ アル━) サラセン帝国、アッバス朝の学者バスラの人。ジャーヒズは「出目」を意味する渾名(あだな)文学歴史科学神学に通じ、二〇〇点以上の著作をものした。リアリズム手法を取り入れ、アラビア語散文文学の完成者とされる。著に「動物の書」「けちんぼうども」などがある。(七七六頃‐八六八頃

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デジタル大辞泉 「ジャーヒズ」の意味・読み・例文・類語

ジャーヒズ(al-Jāḥiẓ)

[776~869ころ]アラブ古典散文学の確立者。思想的には合理主義的な立場に立ち、バスラやバグダードで文筆活動を行った。著「けちんぼども」「動物の書」など。

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改訂新版 世界大百科事典 「ジャーヒズ」の意味・わかりやすい解説

ジャーヒズ
al-Jāḥiẓ
生没年:776ころ-868・869

アラブの文学者,思想家。古典散文学の確立者で,バスラの人。キナーナ族のマウラーマワーリー)の家系に生まれたが,祖先はアビシニア出身の奴隷であったといわれる。ジャーヒズとは〈出目〉のゆえにつけられたあだ名(ラカブ)である。バスラでイスラム諸学を修めた後に,816年にアッバース朝カリフ,マームーンの招きでバグダードに上り,それから約50年間,バグダードとサーマッラーで大小の著作を次々と発表し,アッバース朝体制の擁護ムータジラ派教義正当化に努めた。またアラブの伝統文化を攻撃するペルシア人のシュウービーヤ運動に対して,アラブの古詩や伝承を取り入れて逸話文学のジャンルを開拓し,アラブ人文主義に最終的な勝利をもたらした。バスラで病没するまでに書かれた著作は約200点,そのうち現存する完本は30で,主著はペルシア人を風刺した《けちんぼども》,修辞法を説いた《雄弁と明解の書》,後の民族学・博物学の基礎となった《動物の書Kitāb al-ḥayawān》などである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジャーヒズ」の意味・わかりやすい解説

ジャーヒズ
al-Jāḥiẓ, Abū `Uthmān `Amr ibn Baḥr al-Kinānī

[生]776頃.バスラ
[没]868/869. バスラ
アラブの文学者,思想家。アッバース朝のカリフ,マームーン以後のバグダードやサーマッラーで長年暮らした。アラビア文学史上第一級の散文作家で,イスラム神学でも独自の学説を立てた。広く文献に通じたほか,社会,自然のあらゆる方面に強い探究心をいだいた。著書は約 200といわれるが,現存するのはその一部にすぎない。『動物の書』 Kitāb al-ḥayawān (7巻) ,『表現の優美さと説明の明快さ』 Kitāb al-bayān wa'l-tabyīn (4巻) ,『けちんぼどもの書』 Kitāb al-bukhālā' (1巻) などは最も大きなもので,ほかにも民族学,動植物学その他の見地から興味深いエッセー (リサーラ) を集めたものなどがある。「アダブ」という中世の文学ジャンルの代表者の一人でもある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャーヒズ」の意味・わかりやすい解説

ジャーヒズ
じゃーひず
al-Jāi
(775―868)

アラビア語の散文作家。両眼球が突出していたのでジャーヒズ(どんぐり眼(まなこ))というあだ名でよばれた。バスラに生まれ、バグダードに上り、アラビア語の辞書学、文法学、哲学、神学などの研鑽(けんさん)を積んだ。カリフ(最高指導者)のマアムーンが彼の博学に目をつけ文書局に招いたが、窮屈な役所生活に耐えられず3日後に辞めた逸話は有名。『動物の書』『解説と明証の書』『トルコ人の功績とアラブ軍団』のほか、ある人物を風刺した『四角と円の書簡』、けちんぼうを題材にした『けちんぼうの書』などがある。伝統的な手法にこだわらず、リアリズムの手法を持ち込み、後のアラビア散文文学の模範とされる。機知と洒落(しゃれ)が作品の随所にみられる。

[池田 修]

『前嶋信次訳『世界文学大系68 アラビア・ペルシア集 けちんぼども』(1964・筑摩書房)』

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百科事典マイペディア 「ジャーヒズ」の意味・わかりやすい解説

ジャーヒズ

アラブの文学者。バスラの人。解放黒人奴隷の子孫といわれ,アッバース朝の保護を受け,イスラム神学,文学,歴史,科学の諸分野に多くの業績を残した。〈創造されたコーラン説〉を唱え,ムータジラ派の教義の正当化に努めた。主著《動物の書》で犬の性質の善悪,昆虫の生態などについて論じた。ことに《けちんぼども》で示された,人間性に対する風刺は高く評価される。

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世界大百科事典(旧版)内のジャーヒズの言及

【アラブ文学】より

…これはアブド・アルハミード・アルカーティブ‘Abd al‐Ḥamīd al‐Kātib(?‐750)によって確立された。彼の弟子イブン・アルムカッファーおよびジャーヒズを経てアラブ散文文学,アダブadab文学(アダブは,アラビア語で礼儀作法,教養を表す)は頂点に達する。
[アッバース朝時代]
 8世紀に入るとアラブ文学の中心地はイラクの都市に移った。…

【シュウービーヤ運動】より

…イスラム研究者ギブはこの運動の本質を,当時のカーティブがイスラム帝国の政治・社会制度と価値観とを,彼らの理想としたササン朝のそれに置き換えようとしたものとみる。したがってイスラム文化への重大な挑戦であったが,ジャーヒズらの努力により,アラブの民族的伝統に基づくアダブ文学作品が多く著され,人々がアラブ人文主義の真価を再発見するようになると,この運動はしだいに下火となった。【嶋田 襄平】。…

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