ジャノメチョウ(読み)じゃのめちょう

改訂新版 世界大百科事典 「ジャノメチョウ」の意味・わかりやすい解説

ジャノメチョウ (蛇の目蝶)

鱗翅目ジャノメチョウ科Satyridae(英名wood nymph)に属する昆虫総称,またはそのうちの1種を指す。同科は主として中型種からなり,世界に2500余種,日本にはジャノメチョウ,ベニヒカゲウラナミジャノメヒメジャノメヒカゲチョウクロコノマチョウなど26種が知られている。翅の開張2.5~11cm。色彩は一般に褐色系でじみなものが多いが,とくに南アメリカ大陸には青色や銀色などの金属光沢をもつ美しい種類や鱗粉が退化して翅が透明になったものなどが見られる。一般に翅の裏面にいくつかの眼状紋目玉模様)をもつところからこの名称がある。翅の形は通常丸みを帯びており,一部の種を除き,前翅の翅脈の基部が強く膨らんでいるのが著しい特徴である。

 多くの種では,成虫は木陰にすみ,早朝や夕方によく活動するが,高緯度地方や高山地帯にすむものでは一般に陽光を好み日中に活動する。成虫は森林にすむものでは,おもに樹液や発酵した果実などに,動物の死骸や排出物などにもよく集まる。草原にすむものでは,花に集まる傾向が強い。飛び方は一般に緩やかであるが,なかにはヒカゲチョウ属のようにきわめて速く飛ぶものもある。ウラナミジャノメ属やコジャノメ属では,翅を閉じたままの姿勢で,一定のリズムに乗って跳躍するように飛ぶが,このような飛び方をするものは,他の科のチョウでは見られない。森林にすむものでは,林間や林縁になわばりをつくり,同種の他の個体や他の昆虫などを激しく追いかける場合が多いが,これは雄のみに見られる習性である。雌は食草の葉にふつうは1個ずつ,種によっては20個以上の卵をまとめて産卵する。草原や植物の乏しい砂れき地などにすむものでは,卵を直接に産みつけず,草原の中や小石の間などにばらまくものもある。

 幼虫の食草は一般に単子葉植物のイネ科,またはカヤツリグサ科であるが,ルリモンジャノメ属のようにヤシ科の植物を食べるものもある。特殊なものとしては,東南アジアのシマジャノメ属のようにシダ植物のイワヒバ属を食べるものがある。さなぎには帯糸(たいし)がなく,腹端を食草,または他物に固定して懸垂する。ジャノメチョウMinois dryasは開張は雄6cm,雌6.5cm内外。前翅に2個の眼状紋があり,雄は全体が暗褐色,雌はやや淡色となる。ヨーロッパからアジアにかけて分布。国内では北海道から九州にかけて見られ,山地草原に多い。好んで花に集まる。雌は卵を食草などに産みつけず草むらの中に放出する。卵のまま越冬し,孵化(ふか)した幼虫はススキノガリヤスヒカゲスゲなどの葉を食べる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャノメチョウ」の意味・わかりやすい解説

ジャノメチョウ
じゃのめちょう / 蛇目蝶

昆虫綱鱗翅(りんし)目ジャノメチョウ科Satyridaeの総称、または同科に属するナミジャノメの別名。ヒカゲチョウという呼び方もジャノメチョウ科の総称として用いられることがあり、これはまた同科のナミヒカゲの別名である。ジャノメチョウという名は、この科のチョウの多くが蛇の目状の眼状紋をはねにもっていることから、同じくヒカゲチョウは、この仲間のものが日陰を好む習性からきている(ただしこの習性は森林性のものに限り、草原性のものではむしろ陽光を好む)。

 ジャノメチョウ科のチョウは一般に中形で、はねの色彩は褐色ないし黒褐色でじみなものが多い。年1化あるいは多化性で、多化性のものでも寒冷地では年1化にとどまる場合もある。高山の厳しい環境に生活するタカネヒカゲでは2年に1化、その生活史に足掛け3年を要する。越冬態は主として幼虫で、蛹(さなぎ)や成虫で越冬する少数の種がある。幼虫の食草はイネ科(タケ類を含む)、カヤツリグサ科などの単子葉植物、例外的にシダ類を食する少数の種が東南アジアの熱帯地域および南アメリカで知られている。

[白水 隆]

分類

日本産のものは、次の3亜科に分けられる。

(1)コノマチョウ亜科Biinae 熱帯から亜熱帯性のもので、日本産ではコノマチョウ属Melanitisの2種が含まれる。

(2)ヒカゲチョウ亜科Elymninae 熱帯から亜寒帯まで分布は広い。日本産のものではヒカゲチョウ属Lethe、キマダラヒカゲ属Neope、キマダラモドキ属Kirinia、オオヒカゲ属Ninguta、ウラジャノメ属Lopinga、コジャノメ属Mycalesisなどが含まれる。主として森林性である。

(3)ジャノメチョウ亜科Satyrinae 暖帯から寒帯に分布。日本産のものではジャノメチョウ属Minois、タカネヒカゲ属Oeneis、ベニヒカゲ属Erebia、ヒメヒカゲ属Coenonympha、ウラナミジャノメ属Ypthimaなどが含まれる。主として草原性である。

[白水 隆]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジャノメチョウ」の意味・わかりやすい解説

ジャノメチョウ
Minois dryas

鱗翅目ジャノメチョウ科。前翅長 32~40mm。翅は丸みがあり,外縁に波状に凹凸がある。翅表は黒褐色で,前翅に2個,後翅に1個の黒色眼状紋があり,中心は青紫色となっている。裏面は淡色で波状帯があり,後翅基半部は黄褐色である。成虫は夏季に出現し,草地に多くみられ,花に集る。幼虫の食草はススキなどイネ科植物。朝鮮,シベリアからヨーロッパにかけて広く分布する。日本産は亜種 M. d. bipunctatusといい,北海道,本州,四国,九州にきわめて普通にみられる。なおジャノメチョウ科 Satyridaeは小~中型で,普通翅に蛇の目様の眼状紋をもち,前翅の脈が基部で袋状にふくらんでいることが特徴となっている。ほとんどが幼虫で越冬する。幼虫の食草はイネ科,カヤツリグサ科などの単子葉植物。世界のおもに旧北区に分布し,約 1400種が知られており,日本にウラナミジャノメツマジロウラジャノメヒメジャノメなど 28種を産する。

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百科事典マイペディア 「ジャノメチョウ」の意味・わかりやすい解説

ジャノメチョウ

鱗翅(りんし)目ジャノメチョウ科の1種。タテハチョウ科の1亜科とする場合もある。黒褐色,雌は灰色を帯びる。前翅の表に2個,後翅に1個の蛇の目(じゃのめ)紋がある。開張雄4cm,雌7cm内外。日本全土,朝鮮,中国,シベリアからヨーロッパに分布。幼虫はススキなどを食べ,若齢幼虫で越冬,浅い土中で蛹化(ようか)し,成虫は夏に現れる。乾燥した草地を好む。ジャノメチョウ科(亜科)は日本に30種ほどがいる。一般に暗色の種類ばかりで,幼虫はイネ科,カヤツリグサ科,ヤシ科など植物の葉を食べる。

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世界大百科事典(旧版)内のジャノメチョウの言及

【チョウ(蝶)】より

…全世界から約450種が知られている。(4)ジャノメチョウ科 褐色を基調とする翅には眼状紋(目玉模様)のある種類が多く中型種が大半を占める。温帯から寒帯に分布するものは明るくひらけた場所を好み,温帯から熱帯に分布する種類には暗い林の中などを好むものが多い。…

※「ジャノメチョウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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