ジャコブ(Max Jacob)(読み)じゃこぶ(英語表記)Max Jacob

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ジャコブ(Max Jacob)
じゃこぶ
Max Jacob
(1876―1944)

フランスの詩人ブルターニュ生まれのユダヤ人である彼は、20世紀初頭のパリで、ピカソ、モディリアニらとともに奔放な放浪芸術家生活を送っていたが、1909年自室でキリストの出現を体験して以来カトリック教に回心し、やがてサン・ブノア・シュル・ロアールの僧院に隠遁(いんとん)して余生を送る。第二次世界大戦中この僧院でナチス警察に逮捕され、収容所で獄死した。「聖マトレル」を主題とする連作散文詩や『骰子筒(さいづつ)』(1917)などの初期詩作は、語とイメージの偶然の結合から生まれる奇抜な効果をねらったもので、シュルレアリスムの先駆的作品といわれるが、一方では死の観念に取り憑(つ)かれ、神秘宗教的な瞑想(めいそう)や幻想に満ちた著作を残している。代表的詩集『中央実験室』(1921)のほか、『バラード集』(1938)、死後出版された『晩年の詩』『ゲール人モルバンの詩』など多数の作品があり、奔放なユーモアと宗教的熱情が混在する特異な詩的世界をつくっている。さらに『フィリビュットあるいは金時計』(1922)をはじめとする小説、エッセイ、書簡のほかに、特異な画才を示す素描デッサン)を残している。20世紀初頭における詩的言語の革新者としてアポリネールと並び称せられる。

[田中淳一]

『高畠正明訳「中央実験室」(『世界名詩集大成4 フランス編3』所収・1959・平凡社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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