ジャコウアゲハ(英語表記)Byasa alcinous

改訂新版 世界大百科事典 「ジャコウアゲハ」の意味・わかりやすい解説

ジャコウアゲハ
Byasa alcinous

鱗翅目アゲハチョウ科の昆虫。大型で開張は7.5~10cm。暖地に多く,日本での北限は秋田県。雄は黒くやや小型,雌は黄褐色の翅をもつため区別は容易である。飛び方は大型アゲハ中もっともゆるやかで,長い尾状突起が目だつ。腹部下面は雄では鮮紅色,雌は淡褐色,胸部側面,後翅の紋も同様の色の差がある。成虫,とくに雄は芳香を放つので麝香(じやこう)の名がついた。九州から南西諸島に向かうに従って雌が雄に似て黒くなる。年2~4回発生し,さなぎで越冬する。幼虫の食草はウマノスズクサ類で,ミカン類は食べない。卵は朱色で,ウマノスズクサの葉裏には数個から十数個が産みつけられる。小さい幼虫は近くに卵があると好んで食べ,また終齢幼虫は柔らかいさなぎを見つけるとかじって食べるなど共食い習性があるが,幼虫どうしはそのようなことはしない。幼虫は終齢になっても緑色にならず,黒地に白紋があり,多くの柔らかな突起がある。臭角は短く,餅の焦げたようなにおいを放つ。さなぎは黄色~淡褐色,背面に朱色の斑点があり,他のアゲハのさなぎとはたいへん異なる。その特殊な形態色彩から,女性後ろ手にしばられて立木にしばりつけられた姿のようだとして昔はオキクムシお菊虫)と呼ばれた。今は広くアゲハチョウ類のさなぎもオキクムシというようである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャコウアゲハ」の意味・わかりやすい解説

ジャコウアゲハ
じゃこうあげは / 麝香揚羽
[学] Byasa alcinous

昆虫綱鱗翅(りんし)目アゲハチョウ科に属するチョウ。本州北部より南西諸島の八重山(やえやま)にわたって広く分布するが、その発生地は局部的であることが多く、どこにでもみられるチョウではない。ジャコウアゲハの和名は、これをとらえると強いじゃ香様の芳香を出すことからきている。国外では朝鮮半島、中国、台湾に産する。はねの開張90~110ミリメートル。後ろばねの尾状突起が長く、一見オナガアゲハに似ているが、本種は体に赤色から黄色の毛がある。本州の北部や山地帯では1年に2回(5~6月、7~8月)発生、暖地に向かうにつれて発生回数を増す。幼虫の食草はウマノスズクサ科のつる草で、幼虫の体は円筒形で黒く、腹部第3、4節に白い横帯が並んでいる。蛹(さなぎ)は変わった形をしているのでオキクムシ(お菊虫。番町皿屋敷のお菊の亡霊という伝説に由来している)とよばれる。蛹の状態で越冬する。

[白水 隆]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジャコウアゲハ」の意味・わかりやすい解説

ジャコウアゲハ
Atrophaeneura alcinous

鱗翅目アゲハチョウ科。前翅長 45~60mm。前後翅とも細長く,尾状突起は太く長い。体の側部に赤または汚黄色の毛が生えている。翅の色彩は雌雄で異なり,雄は黒色で後翅外縁に赤色弦月紋があるが,翅表では裏面のそれに比べて不明瞭である。雌の翅表は外縁を除いて大部分が黄灰色で,汚黄色の弦月紋も明瞭である。暖地のものほど黒化し,南西諸島産では雌雄にほとんど差がない。また体に赤色毛が多くなる。幼虫はウマノスズクサ類の葉を食べて成育する。成虫は年2~3回出現。蛹は特異な形をしていてお菊虫と呼ばれる。本州,四国,九州,南西諸島,台湾,中国に分布し,いくつかの亜種に分けられる。

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百科事典マイペディア 「ジャコウアゲハ」の意味・わかりやすい解説

ジャコウアゲハ

鱗翅(りんし)目アゲハチョウ科の1種。ヤマジョロウとも。開張100mm内外,夏型は春型より大きい。黒色,雌は灰褐色を帯びる。後翅外縁に赤〜黄色紋が並ぶ。北海道を除く日本,朝鮮,中国,台湾などに分布。幼虫はウマノスズクサなどを食べ,蛹(さなぎ)で越冬。成虫は年数回発生する。ジャコウアゲハの名は,捕らえられると雄が一種のにおいを出すことに由来する。

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世界大百科事典(旧版)内のジャコウアゲハの言及

【アゲハチョウ(揚羽蝶)】より

…草原性のものは少なく,多くは森林性である。日本には主として後翅に尾のある真正アゲハ類(英名swallow tail)11種(アゲハチョウ,キアゲハ(イラスト),オナシアゲハ,カラスアゲハ(イラスト),オキナワカラスアゲハ,ミヤマカラスアゲハ,クロアゲハオナガアゲハモンキアゲハ,シロオビアゲハ,ナガサキアゲハ),アオスジアゲハ類2種(アオスジアゲハミカドアゲハ),ジャコウアゲハ類2種(ジャコウアゲハ,ベニモンアゲハ)の計15種が分布している。 この日本に21種が分布するのはヨーロッパ全域の11種と比べれば多いといえる。…

※「ジャコウアゲハ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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