シリア難民(2015年)(読み)しりあなんみん(にせんじゅうごねん)

知恵蔵 の解説

シリア難民(2015年)

2011年の内戦勃発から14年の過激派組織「イスラム国」(IS)台頭によって急増しているシリア難民。当初はトルコ、ヨルダンレバノンなど周辺諸国への避難民が大半だったが、14年以降は「バルカンルート」(トルコ~東欧経由)や「地中海ルート」を通って西欧を目指す難民が増えている。15年4月以降は密航船の遭難事故も急増しており、8月にはバルカンルートを通る保冷車の荷台からシリア難民71人の遺体が発見された。更に9月初め、トルコの浜辺に打ち上げられた3歳男児(アイラン・クルディ)の遺体写真が報道されると、世界中で難民対策を巡る議論がわき起こった。
シリア難民が急増したのは、「アラブの春」の余波が再加熱した12年中頃から。アサド独裁政権打倒の動きが高まり、アサド軍と反政府軍(自由シリア軍ほか)の戦闘が始まると、激戦地となった第2の都市アレッポなどから周辺地域へ避難する人が増えた。更に14年6月に過激派組織「イスラム国」(IS)が国家樹立を宣言し、北中部を支配下に入れると、米軍を中心とした有志連合が空爆を開始。北部ではクルド人と「イスラム国」の戦闘が激化し、戦闘地域はシリア全土へと拡大していった。内戦終結の兆しが見えない中、15年9月には、アサド政権を支持するロシアが「イスラム国」や反政府軍の拠点への空爆を始めている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の推計(15年9月末)によると、シリアの人口約2240万人のうち、400万人以上が国外に脱出し、このうち50万人余りがヨーロッパに流入したとみられる。また、国内の避難民も760万人と推測されている。今後の対応について欧州諸国は一致しておらず、ドイツ、フランスなど人道的見地から受け入れを表明する国がある一方ハンガリースロバキアなど財政不足や宗教相違を理由に反対する国も多い。(2015年10月末時点)

(大迫秀樹 フリー編集者/2015年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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