日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
シラー(Robert James Shiller)
しらー
Robert James Shiller
(1946― )
アメリカの経済学者。ミシガン州デトロイト生まれ。1967年にミシガン大学を卒業(経済学士)し、マサチューセッツ工科大学(MIT)で1968年に経済学修士号、1972年に経済学博士号(Ph.D.)を取得。ミネソタ大学、ペンシルベニア大学、MIT、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスなどで教鞭(きょうべん)をとり1982年からエール大学教授。ニューヨーク連邦銀行諮問委員会メンバーなどを務めたこともある。2013年、「株式や債券などの資産価格を長期的に予測する研究の功績」によりノーベル経済学賞を受賞した。シカゴ大学のユージン・ファーマ、ラース・ハンセンとの共同受賞である。
投資家らの合理的行動を前提とした効率的市場仮説に疑問を呈した気鋭のエコノミストであり、ITバブルや住宅バブル(サブプライム危機)に警鐘を鳴らしたことで知られる。多数の著書があり、『投機バブル 根拠なき熱狂――アメリカ株式市場、暴落の必然』Irrational Exuberance(第1版2000年、第2版2005年)は世界的ベストセラーとなった。アメリカの住宅価格動向を示す代表的指標「S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)ケース・シラー住宅価格指数」の生みの親でもある。行動ファイナンス理論の創始者でもあり、専門は行動経済学、金融論、マクロ経済学、統計学、計量経済学など多岐にわたる。
1981年の論文「Do Stock Prices Move Too Much to be Justified by Subsequent Changes in Dividends?」などで、金融市場の分析に投資家心理を柔軟に導入。投資家の判断のゆがみ(バイアス)が将来の配当を過大評価することで、実際の資産価格が配当キャッシュ・フローで計算される理論値を数年にわたって上回った後、次の数年は下回る傾向があることを発見。株式や住宅などの資産価格の動向を、中長期的につかめることを示した。なお2013年のノーベル経済学賞では、投資家の合理性を前提とするファーマと、これに疑問を呈するシラーが受賞しており、立場の異なる学者の同時受賞はきわめて異例である。
[矢野 武 2021年5月21日]