ショーレム(読み)しょーれむ(英語表記)Gershom Gerhard Scholem

デジタル大辞泉 「ショーレム」の意味・読み・例文・類語

ショーレム(Gershom Gerhard Scholem)

[1897~1982]イスラエル思想家ドイツベルリンに生まれる。ユダヤ神秘主義研究の第一人者。また、親友だったベンヤミンの書簡集を編纂へんさんしたことでも知られる。著「ユダヤ神秘主義」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ショーレム」の意味・わかりやすい解説

ショーレム
しょーれむ
Gershom Gerhard Scholem
(1897―1982)

ドイツ生まれのイスラエルの宗教史家。ベルリンのユダヤ系の家庭に生まれる。ユダヤ学、数学、宗教学、哲学をベルリン、イエナベルンミュンヘンの各大学で学ぶ。1915年には生涯にわたる友情で結ばれることになるワルター・ベンヤミンと知り合う。一時期のベンヤミンの思想形成に重要な役割を演じたショーレムは、第二次世界大戦後ベンヤミンの著作集、書簡集の出版のために、テオドール・W・アドルノとともに尽力することになる。青年期からすでにシオニズム運動に身を投じていたショーレムは、1923年にパレスチナに渡り、後にヘブライ大学図書館を兼ねることになるユダヤ国立図書館のヘブライ部門の責任者の職を得る。1925年にはエルサレムのヘブライ大学の講師、1933年にはユダヤ神秘主義、カバラ学の教授となる。1968~1974年イスラエル科学アカデミーの会長を務める。ショーレムの死後、ヘブライ大学では、ユダヤ神秘主義研究のためのゲルショム・ショーレム・センターならびにカバラ学の講座が創設された。

 第一次世界大戦後のドイツで学んだショーレムは、哲学者であるマルチン・ブーバーやフランツ・ローゼンツバイクFranz Rosenzweig(1886―1929)など、さまざまなユダヤ思想家と交流をもっていたことで知られている。『わが友ベンヤミン』Walter Benjamin; Die Geschichte einer Freundschaft(1975)や『ベルリンからエルサレムへ――青春の思い出』Von Berlin nach Jerusalem; Jugenderinnerungen(1977)は、ショーレムのベンヤミンとの交友の証言や自伝的な叙述につきるものではなく、20世紀初頭のユダヤ思想にとって重要な証言にあふれている。

 中世神秘学の研究者としてのショーレムは、それまでまったく無視されていた領域であるカバラに注目したばかりではなく、散逸していたカバラのテクストを収集し、整理し、その源泉を精査したうえで、ユダヤ哲学の伝統だけでなく宗教史、精神史に位置づけることによって、カバラを含むユダヤ神秘主義研究という新しい学問領域をひらいた。タルムードの伝統のもとに、グノーシス的、神智学的な創造についての秘教として存在していたユダヤ神秘主義の伝統のうちに位置づけられるカバラは、12世紀なかごろにフランスのプロバンスに生じ、その後13世紀にスペインに伝播(でんぱ)し、確固とした教義を形成していくことになる秘教的知であり、ショーレムによればキリスト教的なヨーロッパにおけるユダヤ教的な現象である。

 ユダヤ神秘主義研究の最初の成果が、草稿ドイツ語で書かれたものの英語で出版された彼の最初の書物である『ユダヤ神秘主義――その主潮流』Major Trends in Jewish Mysticism(1941)である。その後、スイスで開催されたエラノス会議(1933年に始まり、「東洋と西洋の架け橋」を理念にユングやルドルフ・オットーらが主導した)での講演を集めた『カバラとその象徴的表現』Zur Kabbala und ihrer Symbolik(1960)をドイツ語で出版する。1962年には『カバラの起源と始まり』Ursprung und Anfänge der Kabbalaを著し、『ユダヤ神秘主義』では扱われなかった、カバラの起源を扱うことになる。その他重要な書物として『サバタイ・ツェビ』Sabbatai Sevi(1973)がある。ショーレムの書いた数多くの論文は、ドイツ語では『ユダヤ論集』Judaica(1963)に収録されている。

[森田 團 2018年4月18日]

『G・ショーレム著、高尾利数訳『ユダヤ主義の本質』(1972・河出書房新社)』『G・ショーレム著、高尾利数訳『ユダヤ主義と西欧』(1973・河出書房新社)』『G・ショーレム著、高尾利数訳『ユダヤ教神秘主義』(1975・河出書房新社)』『野村修訳『わが友ベンヤミン』(1978・晶文社)』『山下肇他訳『ユダヤ神秘主義――その主潮流』(1985・法政大学出版局)』『小岸昭・岡部仁訳『カバラとその象徴的表現』(1985/新装版・2011・法政大学出版局)』『岡部仁訳『ベルリンからエルサレムへ――青春の思い出』(1991・法政大学出版局)』『徳永恂他訳『錬金術とカバラ』(2001・作品社)』『石丸昭二訳『サバタイ・ツヴィ伝――神秘のメシア』上下(2009・法政大学出版局)』『Ursprung und Anfänge der Kabbala(1962, Walter de Gruyter, Berlin)』『Sabbatai Sevi(1973, Princeton University Press, Princeton)』『デイヴィッド・ビアール著、木村光二訳『カバラーと反歴史――評伝ゲルショム・ショーレム』(1984・晶文社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ショーレム」の意味・わかりやすい解説

ショーレム
Gershom Gerhard Scholem
生没年:1897-1982

ユダヤ神秘主義とカバラ研究の世界的碩学。ベルリンのユダヤ人家庭に生まれ,学生時代ビアリク,アグノン,ベンヤミンらと親交を結ぶとともにシオニストとなった。1925年ヘブライ大学講師,33年同教授となり,68年イスラエル科学・人間性アカデミー会長に就任した。第2次世界大戦後はヨーロッパ,アメリカ各地で学術・宗教・平和講演を行った。《カバラ書誌》(1927),《ユダヤ神秘主義,その主潮流》《サバタイ・ツビ》(ともに1957),《神性の神秘的形姿》(1962)等の著作が知られる。
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百科事典マイペディア 「ショーレム」の意味・わかりやすい解説

ショーレム

ドイツ出身,イスラエルの思想史家。ユダヤ神秘思想カバラ研究の第一人者。ベルリンに生まれ,1923年イスラエル移住,1933年以降ヘブライ大学教授。主著《カバラ書誌》(1927年),《ユダヤ神秘主義,その主潮流》《サバタイ・ツビ》(ともに1957年)ほか。ベンヤミンの親友,エラノス会議の有力メンバーとしても現代思想に足跡を残している。

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世界大百科事典(旧版)内のショーレムの言及

【カバラ】より

…17世紀にはサバタイ・ツビが現れて〈救世主〉を名のり,カバラ運動は最高潮に達した。さらに18世紀以降,東欧でハシディズムがカバラを日常の信仰生活と密接に結びつけ,その思想的影響は現代のM.ブーバーや,G.ショーレムにも及んでいる。15世紀以降,カバラはキリスト教世界にも大きな影響を与えた。…

※「ショーレム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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