シモン(Claude Simon)(読み)しもん(英語表記)Claude Simon

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

シモン(Claude Simon)
しもん
Claude Simon
(1913―2005)

フランスの小説家。マダガスカル島に生まれ、南仏ペルピニャンで幼時を過ごしたあと、パリオックスフォード、ケンブリッジ各大学に学び、ついでアンドレロート絵画を学んだ。18歳から10年間、兵役期間を除いてヨーロッパ全土を旅し、スペイン戦争も実見した。第二次世界大戦には騎兵として召集され、捕虜となったが脱走カミュ連想させる『ペテン師』(1945)などの小説を発表したあと、フォークナーの影響で作風を転換し、『風』(1957)、『草』(1958)、『フランドルへの道』(1960)、『ル・パラス』(1962)で、ヌーボー・ロマン(新小説)を代表する一人となった。

 ことに『フランドルへの道』では、戦後のある夜、話者の意識にふとよみがえった1940年5月の「大敗走」の記憶が、物語的秩序を無視して、感覚と映像の混沌(こんとん)とした渦巻の形に群がり湧(わ)き起こるなかから、自殺めいた戦死を遂げた中隊長レシャック大尉やなまめかしいその妻のおもかげ、不吉な過去を秘めたレシャック家の歴史部下である話者の俘虜(ふりょ)体験などを鮮明に浮かび上がらせ、不可解で不条理な生と死の相克という内的現実をみごとに定着させている。『歴史』(1967)、『ファルサロスの戦い』(1969)、『導体』(1971)で、連想による多声楽的混沌の生成という方法は、さらに言語ゲーム的色彩を濃くし、傑作『三枚つづきの絵』(1973)で極点に到達する。この作品のなかでは、主要な舞台となる三つの土地でのできごとが、それぞれほかの土地での映画やジグソー・パズルや絵葉書などの映像のなかに吸い込まれるという、ウロボロス的構成を実験している。『農事詩』(1983)は集大成的大作とみなされたが、その後も『アカシア』(1989)、『植物園』(1997)などの力作を発表し、同種の個人的経験に繰り返し取材をしながら、つねに新たなパノラマ的展望を切り開いてみせた。1985年ノーベル文学賞受賞。

[平岡篤頼]

『平岡篤頼訳『フランドルへの道』(1966・白水社)』『平岡篤頼訳『世界の文学23 風/ル・パラス』(1977・集英社)』『平岡篤頼訳『三枚つづきの絵』(1980・白水社)』『平岡篤頼訳『アカシア』(1995・白水社)』『岩崎力訳『歴史』(1968・白水社)』『菅野昭正訳『ファルサロスの戦い』(2001・白水社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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