日本大百科全書(ニッポニカ) 「シソ」の意味・わかりやすい解説
シソ
しそ / 紫蘇
[学] Perilla frutescens Britton var. crispa Deane
シソ科(APG分類:シソ科)の一年草。中国南部、ヒマラヤ、ミャンマー(ビルマ)原産。エゴマの1変種で、茎葉の香りを楽しむ野菜として奈良時代から栽培されている。茎は四角形で高さ1メートルに達し、数本の枝を出す。葉は対生し、卵形で縁(へり)に鋸歯(きょし)がある。秋、枝先に総状の花穂を生じ、唇形の小花を多数つける。果実は残存性の萼(がく)に包まれている。品種は多く、葉が暗紫色のアカジソ、緑色のアオジソ、葉の表面が帯紫緑色で、裏面が赤紫色のカタメンジソ、葉が縮緬(ちりめん)状に縮れていて暗紫色のチリメンジソ、緑色のアオチリメンジソなどがある。また、花色はアカジソでは淡紫色、アオジソでは白色である。植物体の香気成分はシソ油で、全草に0.5%含まれ、そのうちシソアルデヒド(ペリルアルデヒド)55%、リモネン30%、ピネンその他からなる。紫紅色素はシアニンとそのエステルである。
栽培は、葉を利用するものは春に直播(じかま)きか、苗を移植して育てる。梅干し用のアカジソは6~7月に収穫する。料理のつまに利用する発芽したばかりの芽じそは周年栽培が可能で、播種(はしゅ)後15~30日で収穫する。
[星川清親 2021年9月17日]
薬用
漢方では葉を紫蘇葉(しそよう)または蘇葉(そよう)、種子を紫蘇子(しそし)または蘇子(そし)、茎を蘇梗(そこう)といい、いずれも発汗、解熱、去痰(きょたん)、健胃、鎮痛剤として、感冒、咳嗽(がいそう)、胸・腹痛、嘔吐(おうと)、消化不良、食欲不振などの治療に用いる。また、魚、カニなどの中毒の解毒剤としても用いるが、効力は葉に含まれる成分がもっともよい。
[長沢元夫 2021年9月17日]
利用
シソの葉には快い芳香とほろ苦味が、実には香りは少ないがさわやかな辛味があり、日本人の嗜好(しこう)によくあう香辛野菜である。花の咲ききった穂は穂じそ、穂の3分の1ほどが開花した穂は花穂(はなほ)とよばれ、料理のつまや薬味、てんぷらに用いる。未熟な果実は穂からしごき取って塩漬けにし、香の物として利用される。アオジソの葉はてんぷら、しそ巻き、薬味にされる。アカジソの葉は梅干し、チョロギ、ショウガ漬けの色付けに欠かせないほか、ほかの野菜といっしょの柴(しば)漬けに、また乾燥葉を粉にした「ゆかり」はふりかけや和菓子の材料とされる。アカジソの芽じそは「むらめ」や「赤め」とよばれ、白身魚の刺身のつまに、アオジソの芽じそは「青め」とよばれ、赤身魚の刺身のつまに用いられる。紫蘇油(しそゆ)は菓子などの香料として用いられ、おもにアオジソを花期にとって、その半乾燥品を水蒸気蒸留して得られる。開花期の全草を乾燥し切断したものを漢方で精神安定剤として処方する。
[星川清親・齋藤 浩 2021年9月17日]
文化史
日本の野菜のなかではもっとも古いものの一つで、5000年前の縄文前期の種子が福井県の鳥浜貝塚から、リョクトウやゴボウの種子とともに出土している。岩手県北上市鳩岡崎遺跡(はとおかざきいせき)からも、縄文中期とみられるシソの種子が発見されている。中国では6世紀の『斉民要術(せいみんようじゅつ)』に、シソの葉を羊肉と豚肉のしょうゆ漬けに使ったり、干したシソの葉を火であぶって細かくし、鳥汁に入れるなどの料理法が栽培法とともに載る。
[湯浅浩史 2021年9月17日]