シス‐トランス異性(読み)しすとらんすいせい(英語表記)cis-trans isomerism

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シス‐トランス異性」の意味・わかりやすい解説

シス‐トランス異性
しすとらんすいせい
cis-trans isomerism

化学構造の中に基準となる点(原子)、線(結合)あるいは面があり、その基準に対して同じ側あるいは隣り合う位置をシス、反対側になる位置をトランスとして区別することによって生ずる異性。たとえば、2-ブテンでは二重結合が基準になり、シクロプロパンジカルボン酸ではシクロプロパン環の面が基準になっている。ジアンミンジクロリド白金(Ⅱ)およびテトラアンミンジクロリドコバルト(Ⅲ)イオンではそれぞれの錯体の中心原子を見込んで塩素原子が隣り合うシス体と、反対側になるトランス体がある。これらはいずれも構造が固定化した場合の例であるが、自由回転の許される炭素‐炭素単結合を軸とした回転異性の例が1,2-ジアミノエタン(エチレンジアミン)の場合である。

 国際純正・応用化学連合(IUPAC:International Union of Pure and Applied Chemistry)では二重結合を挟んだ置換基の位置関係を示すEZ方式を定めており、これに従うと、cisZtransEとなる。ZEはそれぞれドイツ語のzusammen(一緒に)、entgegen(逆に)に基づく。

[岩本振武]


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世界大百科事典(旧版)内のシス‐トランス異性の言及

【異性】より

…分子式あるいはそれに対応する化学式は同じであるが,構成する原子の立体的な配列その他が異なるため,物理的および(または)化学的物質が異なる化学種が二つまたはそれ以上存在するとき,これらはたがいに異性体isomerであるといい,またこの現象を異性という。 異性現象の発見は有機化学の発展に大きな貢献をした。19世紀の最初の四半世紀の間に元素分析の技術は向上し,今日の分子式に相当するものがかなり正確に求められるようになってきた。…

【幾何異性】より

…マレイン酸は加熱すると容易に水を失って無水マレイン酸になるのに対して,フマル酸は強熱しない限り水を失わず,そのうえ脱水生成物は無水マレイン酸であることから,二つのカルボキシル基が二重結合の同じ側にくるものをシスcis型,反対側にくるものをトランスtrans型と呼ぶようになった。 幾何異性体ないしシス‐トランス異性体は光学異性体と異なり,異性体間の物理的・化学的性質に著しい差がある場合が多いため,両者を分離することは比較的容易である。一般にトランス型に比べてシス型が不安定であるが,これは同じ側にある二つの置換基の間の立体障害によるものである。…

※「シス‐トランス異性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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