ザリガニ(読み)ざりがに

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ザリガニ」の意味・わかりやすい解説

ザリガニ
ざりがに / 蝲蛄
躄蟹
[学] Cambaroides japonicus

節足動物門甲殻綱十脚(じっきゃく)目ザリガニ科に属する1種。北海道日高山脈から東北地方にかけての渓流にすむ日本固有種。太平洋側の南限は岩手県二戸(にのへ)市、日本海側は秋田県大館(おおだて)市で、とくに大館市の南限地は1934年(昭和9)に国の天然記念物に指定されている。体長約6センチメートルの小形種で、頭胸甲は円筒状。額角(がっかく)は短く、背面から見ると幅広い剣先状。ごく近縁の種が朝鮮半島と中国から1種ずつ知られているが、いずれも分布が局限されている。このような分布状態はザリガニ属3種が遺存種であることを示す。

 日本各地でザリガニとよんでいるのは、アメリカから1930年に移入されたアメリカザリガニProcambarus clarkiiである。エビガニとよぶ地方も多く、子どもたちの間でペットとしての人気が高いが、ペットが野生化したものは生態系への被害が問題となっている。原産地のアメリカ合衆国南東部では食用として養殖も行われている。体長は10センチメートル以上になり、大形個体は朱赤色を帯びる。雌雄は、雄では第1腹肢が交尾器に変形していること、雌では第2胸脚の根元の節に生殖孔が開いているので容易に識別できる。交尾は6月ごろ行われ、引き続き雌は産卵するが、抱卵雌は巣穴からほとんど出ない。卵は長径2ミリメートルほどの卵円形で、400個内外である。ほぼ成体形で孵化(ふか)するが、1回脱皮した第2稚エビまでは尾節糸で雌の腹肢とつながっている。第2回の脱皮で母体と離れ、第3回目までは母親に保護される。孵化直後は体長4.5~5ミリメートルで、1年間に平均9回の脱皮をして約4.5センチメートルになり、6センチメートルになると性的に成熟する。水田水辺棒状の穴を掘ってすみ、貪欲(どんよく)な雑食性である。

 日本にはアメリカザリガニのほか、やはりアメリカから食用の目的で移入したウチダザリガニPacifastacus trowbridgiiが北海道に、タンカイザリガニP. leniusculusが滋賀県に生き残っている。ザリガニ類はアフリカ大陸にはいないが、オーストラリアと北アメリカにとくに多く、世界で約750種が知られている。最大種はタスマニアオオザリガニAstacopsis gouldiで、体長45センチメートルに達する。

[武田正倫]

 ザリガニは2023年(令和5)、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)で特定第二種国内希少野生動植物種に指定され、販売や頒布を目的とした捕獲や譲渡などは原則禁止されている。

[編集部 2023年4月20日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ザリガニ」の意味・わかりやすい解説

ザリガニ
Cambaroides japonicus; Japanese crayfish

軟甲綱十脚目アメリカザリガニ科 Cambaridae。体長 6cmほどの小型種。頭胸部は円筒形,腹部はやや扁平。北海道南部と東北地方の渓流にすむ日本固有種で,ニホンザリガニとも呼ぶ。太平洋側の南限は岩手県二戸市日本海側では秋田県大館市で,大館市では生息地が国の天然記念物に指定されている。また環境省により絶滅危惧種に指定されている(→レッドデータブック)。ザリガニの名はザリガニ類全体を広義に表現する場合にも使われる。ザリガニ類は,北アメリカとアジア東部に分布するアメリカザリガニ科約 350種,ユーラシア大陸と北アメリカに分布するザリガニ科 Astacidae約 10種,アフリカを除く南半球に分布するミナミザリガニ科 Parastacidae約 150種に分類されている。アメリカザリガニ科ではアメリカザリガニ Procambarus clarkii,ザリガニ科ではヨーロッパザリガニ Astacus astacus やウチダザリガニ Pacifastacus leniusculus,ミナミザリガニ科ではヤビー Cherax destructor,マロン C. tenuimanus,タスマニアオオザリガニ Astacopsis gouldi などがよく知られている。日本では在来の本種のほか,北アメリカ原産のアメリカザリガニが本州四国地方九州地方に広く分布するほか,ウチダザリガニが北海道各地と滋賀県に生息している。アメリカザリガニは要注意外来生物,ウチダザリガニは特定外来生物に指定されている。(→甲殻類十脚類節足動物軟甲類

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改訂新版 世界大百科事典 「ザリガニ」の意味・わかりやすい解説

ザリガニ (躄蟹)
Cambaroides japonicus

日本固有の甲殻綱アメリカザリガニ科のエビで,北海道日高山脈以南,青森県,秋田県,岩手県の渓流にすむ。分布の南限は太平洋側では岩手県二戸市,日本海側では秋田県大館市である。分布が限られているため,アメリカからの移入種であるアメリカザリガニほどなじみがない。体長6cmほどになるが,本州産の個体は4cmくらいのものが多く,アメリカザリガニよりもかなり小さい。全体に茶色で,腹部が背腹に平らで,頭胸甲に対して幅広い感じを受ける。額角(がつかく)は短く,平らで背面から見ると広い剣先状である。前3対の胸脚がはさみをもつことはアメリカザリガニと同様であるが,体の割りに第1胸脚が大きく,また,各胸脚が比較的太い。ザリガニ属は日本固有の本種のほかに,韓国と中国北部に1種ずつ知られているが,いずれも分布域が狭い。これは遺存種であることを意味しており,生息環境を好ましい状態で保護しないかぎり,種としての命運を保つことはむずかしい。
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百科事典マイペディア 「ザリガニ」の意味・わかりやすい解説

ザリガニ

甲殻類ザリガニ科のエビ。日本固有種で東北地方から北海道日高山脈以南の河川に産する。甲殻は堅くて厚く,額角は短く,横扁し,背面からみると幅の広い剣先状をなす。第1〜3胸脚ははさみ状で,第1胸脚は特に強大。色は全体に茶色で,体長は4〜6cmくらい。食用にもなる。分布域が狭く,種の存続があやぶまれている。ザリガニの名は,腹部ではねて後退する(後方に去る)習性による。アメリカザリガニをザリガニということもある。

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栄養・生化学辞典 「ザリガニ」の解説

ザリガニ

 淡水の節足動物で,フランス料理で珍重される.

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世界大百科事典(旧版)内のザリガニの言及

【アメリカザリガニ】より

…エビガニとも呼ばれる甲殻綱アメリカザリガニ科のエビ(イラスト)。和名が示すように原産地はアメリカで,人為的な移入による代表的な帰化動物の一つであり,近年ではペットとしてもなじみ深い。…

【胃石】より

…ザリガニやアカテガニなど,汽水から淡水域に生息する甲殻類の胃中にできる主として炭酸カルシウムからなる白い結石。球形,半球形,円盤状のものがあり,胃壁に沿って左右2個作られる。…

【エビ(海老∥蝦)】より

…長尾類と呼ばれることも多いが,腹部がよく発達しているという意味で,腹部が曲がっている異尾類,すなわちヤドカリ類と腹部が退化している短尾類,すなわちカニ類に対比していわれる言葉である。エビ類の体制は,体がクルマエビ類やコエビ類のように遊泳に適している側扁型,イセエビ類やザリガニ類のように歩行に適している横扁型に大別される(図1)。したがって,エビ,ヤドカリ,カニ類を長尾,異尾,短尾亜目と分類するのとは別に,遊泳型のエビ類を遊泳亜目とし,歩行型のエビ類をヤドカリ,カニ類とまとめて歩行亜目とする分類法もある。…

【ザリガニミミズ】より

…貧毛綱ヒルミミズ科の環形動物。北海道に産するザリガニの体表に吸盤で付着して生活するところからこの名がある。体長9~12mm,体幅2~3mmの円柱形で頭部と胴部に区別される。…

※「ザリガニ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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