サーモグラフィ(読み)さーもぐらふぃ(英語表記)thermography

翻訳|thermography

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サーモグラフィ」の意味・わかりやすい解説

サーモグラフィ
さーもぐらふぃ
thermography

物体の熱の分布を図として表す手法。物体の表面から放射される遠赤外線量を検知器で測定し、放射量と関係のある物体の表面温度を知ることができる赤外放射温度計の原理を利用した「遠赤外撮像法(テレサーモグラフィ)」が主流である。ほかに、深部の温度をマイクロ波の放射量の計測により知る「マイクロ波サーモグラフィ法」、温度によって色の変わる液晶を塗布したフィルムを物体の表面に押し当てて温度分布を測る「液晶サーモグラフィ法」(接触サーモグラフィ法ともよばれる)などがある。非接触、非破壊検査が可能な遠赤外撮像法は応用がきわめて広く、産業界から医療までの多岐にわたり、物体の表面温によって分析できるあらゆる計測に利用されている。

 工業界では空調関係の計測や分析(たとえば住宅の熱絶縁の状況調査など)や、環境への熱汚染の状況調査などをはじめ、熱を発生する種々の機器の熱的分析(たとえばエンジンの熱分布や種々の機構部品の放熱の状況の調査など)や、放熱が直接性能に影響する超集積回路素子の製品検査などにも多用されている。素子の低価格化に伴い、防犯用のモニターや長距離トラックの夜間走行用のモニターにも使われ始めた。だれもが見たことのあるサーモグラム(物体表面の温度分布図)の例としては、気象衛星からの地表と雲の写真があげられる。これは、10マイクロメートル付近の大気の窓(赤外線が大気中で吸収されない波長帯域)を利用した遠赤外線計測の手法であり、リモート・センシング機器(離れたところから対象物の情報を得る機器)として気象農業、環境、軍事の分野において重用されている。

 熱画像計測法という名で計測手法が確立され普及している分野に医療がある。人体内部の温度環境(体温)を一定に保持するために、人体の表面温度としての皮膚温は、種々の生理的調節機構によってさまざまに変化しながら、外部の熱環境との間につり合いを保たせているが、病気にかかると、この生理的調節機構に変調をきたすことが多いため、体表温度分布の異常を測定することで病気の状態(病態)を診断することができる。よく知られている診断の領域としては、代謝熱と血流の異常分布によって診断を行う乳房腫瘍(しゅよう)や甲状腺(せん)腫、皮膚血流の低下による低温の程度を診断にもちいる末梢(まっしょう)動脈閉塞(へいそく)性疾患、代謝と血流の増加による発熱を検知し、その病気の程度を分析し、治療に役立てる炎症性疾患などが利用対象にあげられる。さらに、皮膚の血流を調節している自律神経系(交感神経)の血管運動中枢の活動状況を体表の温度分布から推定し、交感神経系に入ってくる各種の痛みなどの刺激の状態を知ることも可能である。

 熱画像検査法のコンピュータによる画像処理が進み、温度分布像をほかの画像に変換しようとする試みが医学を中心に起こり、体表温度像を直接皮膚血流温度像へ変換させる方法や、交感神経系の皮膚血流調節への関与に関連した「痛み」や筋・骨格・神経疾患の病態鑑別への応用などといった方法が考えられ、利用が拡大し、現在では温度の分布図のみを表すとはいえなくなっている。また最近はテレビフレームレイト(毎秒30コマ以上)の検査装置が多くなり、手術時に内臓のサーモグラムも撮影されるようになった。とくに熱冠動脈撮影法は冠動脈バイパス手術のモニターとして有用と考えられている。

[藤正 巖]

『藤正巌監修、蟹江良一・石垣武男編『最新医用サーモグラフィ――熱画像診断テキスト』(1996・日本サーモロジー学会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サーモグラフィ」の意味・わかりやすい解説

サーモグラフィ
thermography

(1) 熱線写真法 物体が放射する熱 (赤外線) を走査検出し,その物体の表面付近の温度分布をブラウン管上に映像として表示するか,あるいはインスタントフィルム上に画像として記録する方法。もともと軍事探索用として開発されたものであるが,現在では医学診断用,産業計測用などに広く利用されている。医用サーモグラフィは,人体の表面から自然に放射される赤外線を検出して,体表の温度分布を画像 (熱像図) として表わし,疾患の診断に役立てるものであるが,なんら苦痛を伴わない検査なので,特に乳癌,白ろう病の診断や性機能障害の発見など,応用範囲が広い。 (2) 感熱写真法 温度が上昇すると発色する物質を塗布した複写紙を用い,熱パターンによって発色させる複写法。熱パターンは,感熱複写紙と原稿を密着させて,強力なタングステンランプなどで感熱複写紙側から露光 (反射焼付け) すると,原稿の文字部のインキが熱を吸収して温度が上がることによって生じる。

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