内科学 第10版 「サルコイドーシス」の解説
サルコイドーシス(アレルギー・免疫性疾患)
サルコイドーシスは壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫形成を特徴とする全身性疾患である.しばしば両側肺門リンパ節腫脹(BHL),肺浸潤,眼病変,皮膚病変で発症する.全身のほぼすべての臓器で病巣を形成しうるが,個々人によって侵される臓器も重症度も異なる「多彩性」があり,臨床経過も自然改善例から遷延・難治化例までの「多様性」があることが特徴である.しばしばみられる免疫学的所見は,皮膚の遅延型過敏反応の減弱と,病変部位におけるTh1型免疫反応の亢進である.また,B細胞機能の活性化に伴って血中免疫複合体を認めることもある(Hunninghake,1999).
分類
急性の症状を伴って発症するものを急性発症型といい,Löfgren症候群(BHL,関節痛,結節性紅斑を呈する)やalveolar sarcoidosis(肺炎様の浸潤陰影を呈する)などがあり,予後良好とされる.難治化,遷延化するものは難治性・遷延性サルコイドーシスとされる.
原因・病因
本症はこれまで「原因不明」とされてきた.しかし,わが国からの研究報告の発信で,常在菌である Propionibacterium acnesの定量的PCR法や特異的抗体を用いることによって,本菌の菌体成分は本症の病巣内にはほぼ確実に存在し,かつ,ほかの疾患のリンパ節などにはほぼ存在しないことが明らかにされた.これまでも多くの病因説があげられたが,プロピオニバクテリア病因説は現在最も注目されている.
疫学
本症は世界中でみられる疾患であり,罹患率は男性より女性に高い.地域や人種間での病態の差が大きく,わが国では欧米に比べて,軽症者が多い,眼と心臓の罹患が多い,心臓死が多く呼吸不全死が少ないという特徴がある.わが国の推定罹患率は,1991年のアンケート調査では人口10万人あたり12.3人であったが,2004年の難病の臨床調査個人票を用いた疫学報告ではこの1/10に低下していた.これは,特に軽症例や自然改善例では臨床調査個人票が必ずしも提出されていないためと思われる.
発症年齢は男女ともに二峰性に分布し,男性の罹患率のピークが20~34歳,女性は60~64歳代である(図7-4-5).また最近は男女ともに若年者の発症が減少し,高齢者が増加して難治例が増えてきているといわれている.
発見動機では健診発見が多いのがなおわが国の特徴であるが,自覚症状発見例が増加している.特に,眼と皮膚所見を呈するものが増えている.
病理
本症の病理像は壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫の形成を特徴とする.肉芽腫はリンパ管に沿って分布し,肺では気管支・血管束周囲,胸膜,小葉間隔壁などの広義間質に分布する.慢性の経過で肉芽腫に由来する線維化は広義間質を中心としてみられ,気道周囲の肺胞虚脱とともに肺葉虚脱の原因となるが,上葉に病変が強い.肉芽腫は血管を侵襲して肉芽腫性血管炎をきたし,肺では動脈・静脈のいずれをも侵してその治癒瘢痕過程で血管の線維性狭窄をきたし肺高血圧症の原因となりうる.一方,肉芽腫の存在しないところにも,類上皮細胞やマクロファージなどから放出されるさまざまな因子によって微小血管病変(microangiopathy:MAP)が形成されることが知られている.MAPは毛細血管や細小血管の内皮細胞変性,基底膜の多層化などを特徴としており,さまざまな全身臓器病変の形成に関連しているとされている.
病態生理
本症では,遺伝的素因を基礎にして,原因抗原物質により惹起されたI型ヘルパーT細胞(Th1)型免疫応答がおこり,肉芽腫性炎症が促進される.多くは自然退縮する一方で,慢性的な肉芽腫性炎症が持続すると線維化をきたす.発症や症状増悪においては,性ホルモンや精神的肉体的ストレスの関与があることが報告されている.また,病態の悪化・遷延化には,線維化だけでなく,上述の肉芽腫性血管炎やMAPなども関与している.
最近注目されている本症に合併する小径線維神経障害(small fiber neuropathy:SFN)は,痛み,しびれ,息切れなどの臓器非特異的全身症状の原因となっているとされているが,このSFNの原因としてMAPによる血流障害説があげられている.
臨床症状
代表的な臓器病変の臨床症状を表7-4-12,図7-4-6に示す.
検査成績・診断
本症の診断の基本は組織診断であるが,すべての例で組織診断が得られるわけではなく,「臨床診断群」を設けている.厚生労働省の特定疾患であるサルコイドーシスの認定基準(診断基準)では,「a)ツベルクリン反応陰性 b)血清ACE高値 c)ガンマグロブリン高値 d)血清リゾチーム高値 e)ガリウムシンチグラムで集積増加 f)気管支肺胞洗浄で総細胞数またはリンパ球CD4/CD8の増加」のうち,a)またはb)を含む3項目以上の陽性が臨床診断群では必要とされている.ガリウムシンチグラムでは,耳下腺に集積があると,本症に特徴的なパンダサイン(図7-4-7)を呈する.また,2006年に学会が定めた診断基準である「サルコイドーシスの診断基準と診断の手引き-2006」(日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会ら編,2007)では,本症の全身反応を示す検査所見として,①両側肺門リンパ節腫脹,②血清ACE活性高値,③ツベルクリン反応陰性,④ガリウムシンチグラムで著明な集積所見,⑤気管支肺胞洗浄検査でリンパ球増加(25%以上)またはCD4/CD8比高値(3.5以上),⑥血清あるいは尿中カルシウム高値,としている.現在は診断基準が2本立てになっていることに注意を要する.
鑑別診断
組織診断として類上皮細胞肉芽腫が得られた場合にもほかの感染性肉芽腫性疾患を除外する必要がある.慢性ベリリウム肺とは臨床的にも病理学的にも鑑別は難しく職業歴聴取が重要になる.また,下肺野優位の陰影を呈するサルコイドーシスや画像上その他の間質性肺炎像を呈する場合には,サルコイドーシスによるものなのか合併症なのか鑑別が難しい.また,サルコイドーシスは一般に自覚症状が乏しいものが多いが,症状が強い場合には悪性リンパ腫やほかのリンパ増殖性疾患,転移性肺腫瘍,過敏性肺炎などの鑑別が必要になる.また,最近注目されているIgG4関連疾患でMikulicz病を合併している場合にはブドウ膜炎や両側腺組織の腫脹などを伴うことがあり鑑別を要する.
合併症
サルコイドーシスはリンパ球のかかわる病態異常であり,似た病態であるSjögren症候群,甲状腺機能異常,過敏性肺炎などの合併は多い.また,悪性腫瘍とくに悪性リンパ腫の合併も日常臨床では多いと感じられるが疫学的に合併率が高いことを証明することは難しい.その他,帯状疱疹,尿路結石などの合併も多い.
治療
サルコイドーシスの治療の基本は経口ステロイドホルモン薬である.心臓病変が確認された場合には無症状でもステロイド治療を行ったほうがよいとされている.また肺病変の場合は陰影の量に比べて自覚症状が少なく,陰影の増強,肺野の収縮傾向があれば治療を行う.眼病変の治療には詳細な眼所見の観察が必要であり眼科医の診断が求められる.そのほかの臓器では,自他覚症状に応じてステロイド薬を増減すると考えてよい.普通はプレドニゾロン30 mg/日程度から漸減するが少量でも有効な例がある.10~5 mg/日で治療を継続することが必要な場合もある.「サルコイドーシス治療の見解-2003」(日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会ら編,2003)にその詳細がある.肺サルコイドーシスの治療手順を図7-4-8に示す.メトトレキサート(MTX)は,ステロイド節約効果(sparing effect)があるとされ欧米ではよく使用されている.
経過・予後
サルコイドーシスの臨床経過は多様性があり個々の例で幅が大きい.すなわち,短期間で自然改善するものから長期間にわたって遷延化するもの,ステロイド薬に反応のよいもの悪いものなどさまざまである.多くは自然改善すると一般にはいわれているが,高齢発症の例,多臓器病変を有する例などは遷延化する傾向にある.また,臓器病変が改善しても,後述する痛み・息切れ・疲れなどの全身症状だけが長引く例もある.遷延化例ではステロイド薬や免疫抑制薬を中止にできない場合もある.
予防・リハビリテーション
発病や悪化にストレスが関与していると思われる例が多く,疾患を悪化させないためには,ストレスをかけないこと,規則正しい生活をすること,とくに十分に摂食してよく眠ることを指導する.
禁忌
サルコイドーシスでは内因性ビタミンDの増加によって,カルシウム値の上昇や肉芽腫形成の促進などが起こるとされている.ステロイド薬を服用する場合には,骨粗鬆症予防薬として,活性型ビタミンD製剤よりもビスホスホネート系薬剤が推奨される.[山口哲生]
■文献
Hunninghake GW, et al: Statement on sarcoidosis. Sarcoidosis Vasuculitis and Diffuse Lung Diseases,16: 149-173,1999.
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会,他編:サルコイドーシス治療に関する見解-2003.日サ会誌,23: 105-114,2003.
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会,他編:サルコイドーシスの診断基準と診断の手引き 2006.日サ会誌,27: 89-102, 2007.
サルコイドーシス(リウマチ性疾患)
■文献
Atsumi T, Amengual O, et al: Antiphospholipid syndrome: pathogenesis. In: Systemic Lupus Erythematosus 5th ed (Lahita RG, ed), pp945-966, Academic Press, San Diego, 2010.
Otomo K, Atsumi T, et al: The efficacy of antiphospholipid score for the diagnosis of antiphospholipid syndrome and its predictive value for thrombotic events. Arthritis Rheum, 64: 504-512, 2012.
Sakai Y, Atsumi T, et al: The effects of phosphatidylserine dependent antiprothrombin antibody on thrombin generation. Arthritis Rheum, 60: 2457-2467, 2009.
サルコイドーシス(膠原病・炎症性疾患に伴う神経系障害)
原因不明の非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫(サルコイド結節)を特徴とする全身性疾患である.サルコイド結節を中枢神経,末梢神経,筋に認めるものを神経筋サルコイドーシスという.無症候例も多いが,髄膜脳症,脊髄症は重篤になりやすい.また中年期以降の女性のミオパチーでは本疾患を念頭において原因検索を行う.進行性・難治性例ではステロイド薬の大量投与を必要とする.【⇨7-4-5)】[池田修一]
■文献
膠原病に伴う神経・筋障害.日本内科学会雑誌,99(8), 2010.
膠原病と神経疾患—基礎から臨床まで.Clinical Neuroscience, 28(2), 2010.
サルコイドーシス(ほかの疾患に伴う肝障害)
サルコイドーシスは,原因不明の多臓器を侵す非乾酪性の肉芽腫性疾患である.肝にも高頻度に肉芽腫を形成するが,臨床的に肝障害が問題になることは少ない.血清アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme:ACE),リゾチーム,アデノシンデアミナーゼ(adenosine deaminase:ADA)活性が高値で,ツベルクリン反応は陰性であり,肝結核との鑑別に役立つ.[西口修平]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報