サラソウジュ(読み)さらそうじゅ

改訂新版 世界大百科事典 「サラソウジュ」の意味・わかりやすい解説

サラソウジュ (沙羅双樹)
sal (tree)
Shorea robusta Gaertn.f.

フタバガキ科の落葉高木で,マメ科のムユウジュ(無憂樹)およびクワ科のボダイジュ菩提樹インドボダイジュ)とともに仏教の三大聖木とされる。原産地のインドではサルsal,その漢名を沙羅といい,釈迦クシナガラ涅槃(ねはん)に入ったとき,その四方にこの木が2本ずつ生えていたという伝説から,沙羅双樹という。沙羅は娑羅とも書き,サンスクリット語シャーラśalaの音写で,堅固樹の意である。またサラノキシャラノキ,娑羅樹)ともいう。樹高35~45m,直径1m以上になり,乾季に落葉する。葉は長さ10~25cmの楕円形で互生する。花は淡黄色,径約3cmで,円錐花序に咲く。花弁萼片各5枚,おしべ多数。果実は径1.5~2cmのどんぐり状の堅果で,萼片が発達した長さ5~7cmの細長い5枚の翼をもち,そのうち2枚の翼はやや短い。材は気乾比重0.70~1.00で重硬,心材は濃褐色~赤褐色。耐朽性が高く,インドではチークに次いで重要な木材で,建築,まくら木,橋梁など広く利用される。また幹上に出る樹脂は宗教的儀式の香,塗料やワニスの原料に用いられる。中部インドからネパールアッサムヒマラヤ山麓地方にかけて広く分布する。北は北緯32°まで,また高さではヒマラヤの標高1500mにまでみられ,フタバガキ科としては最も寒さに耐える。

 サラノキ属Shoreaは約200種からなるフタバガキ科最大の属で,東南アジアの熱帯降雨林を中心に広く分布する。樹高50~60mになるものが多く,ラワン,メランチmerantiなど有用な木材を産する。なお日本で寺院にサラノキ(シャラノキ)として植栽されるのは,サラソウジュとは全然異なるツバキ科のナツツバキである。
執筆者: ところで,仏教における伝説では,釈迦の入滅に際し,その四方に2本ずつ生えていた8本のシャーラ樹のうち,各対のそれぞれ1本が枯れたといい,これを〈四枯四栄〉という。また入滅にあたりこれら8本が白く変わったともいい,釈迦入滅の地を白鶴の色にたとえて〈鶴林(かくりん)〉と呼ぶ。この伝説は日本にも仏教とともに早くから伝えられ,《平家物語》の冒頭でも,〈無常〉を象徴するものとして〈娑羅双樹〉が登場する。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「サラソウジュ」の意味・わかりやすい解説

サラソウジュ
さらそうじゅ / 沙羅双樹
[学] Shorea robusta Gaertn.

フタバガキ科(APG分類:フタバガキ科)の常緑高木。インド北部原産。高さ40メートル、葉は互生し、革質、全縁。葉柄の基部には托葉(たくよう)があるが、早期に脱落する。幹の上部の葉の付け根に大形の円錐(えんすい)花序を生じ、淡黄色の花をつける。花弁の基部は癒着して短い筒状となり、先端は5裂する。雄しべは多数、子房は3室。果実はどんぐりのような堅果で細長く、食用になる。材は堅く、じょうぶで建築材とする。同属の植物には、材木および樹脂材料とされる木がいくつか知られ、ラワン材もこの属の植物の材である。樹脂はダマール(ダンマー)dammarとよばれ、薬用として絆創膏(ばんそうこう)や硬膏の原料に、工業用としてワニスの原料にされる。ダマールは古くはサラソウジュからおもに採取され、サルダマールsal-dammarとよばれた。現在はフタバガキ科の他の植物から採取されるものが多いが、合成樹脂の発明後、ダマールの産額は減少の傾向にある。なお、日本の寺院でサラソウジュと称して境内に植えられている植物や、花屋でサラソウジュの名で苗木を販売し、また盆栽などに仕立てられている植物は、ツバキ科のナツツバキ(シャラノキ)で、まったくの別種である。

[星川清親 2020年11月13日]

 仏教では聖木とされる。沙羅はサンスクリット語シャーラśālaの音写語で、堅固な樹(き)の意。沙羅樹とも。仏陀(釈迦(しゃか))入滅のとき、臥床(がしょう)の四方に2本ずつ生えていた沙羅樹の各1本が枯れ、他は残って栄枯の相を示したと伝えられる。その枯れた沙羅樹が白鶴のようであったので鶴林(かくりん)ともいう。仏伝では、生誕時の無憂樹(むゆうじゅ)、成道(じょうどう)時の菩提樹(ぼだいじゅ)、入滅時の沙羅樹と、仏陀生涯の重大事を樹で象徴しており、インドの聖樹信仰の残存をうかがわせる。日本では『平家物語』の冒頭「娑羅双樹(しゃらそうじゅ)の花の色 盛者(じょうしゃ)必衰の理(ことわり)をあらはす」でよく知られる。

[小川 宏 2020年11月13日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のサラソウジュの言及

【生命の樹】より

…仏教ではインドボダイジュを釈尊のシンボルとして扱い,美術にもそうした表現がなされている。そのほかアショーカ(ムユウジュ),シャーラ(サラソウジュ),マンゴー等が仏教美術での聖樹として用いられている。これらのモティーフは仏国土を表現する宝樹にも使われている。…

※「サラソウジュ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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