サツキ(読み)さつき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サツキ」の意味・わかりやすい解説

サツキ
さつき / 皐月
杜鵑花
[学] Rhododendron indicum (L.) Sweet

ツツジ科(APG分類:ツツジ科)の常緑低木。陰暦の5月に花が開くので皐月と名づけられ、また、この時期には杜鵑(ほととぎす)がきて鳴くので、杜鵑花があてられている。サツキはツツジの一種であって、陰暦の5月に咲くツツジということでサツキツツジともいう。高さ0.5~1.5メートルで株立ちとなり、小枝をよく分枝し、若枝には褐色の剛毛がある。葉は互生し、枝先に集まり、倒披針(とうひしん)形ないし長楕円(ちょうだえん)形、長さ2~3.5センチメートルで両端がとがる。表面に光沢があり、両面に褐色の毛がある。5月下旬から7月、枝先に紅赤色の花が1個まれに2個開く。花冠は漏斗(ろうと)状で5中裂し、径3.5~5センチメートルで表面に濃色の斑点(はんてん)がある。萼(がく)は深く5裂して小さく、雄しべは5本ある。蒴果(さくか)は長卵形、長さ8~10ミリメートルで褐色の毛がある。谷川の河岸の岩場などに生え、本州の関東地方南西部から近畿地方、九州の熊本、宮崎県と屋久(やく)島に分布する。盆栽や庭木として広く観賞される。

小林義雄 2021年4月16日]

種類

サツキには屋久島、奄美(あまみ)諸島、沖縄、および中国に分布するマルバサツキ、九州に分布するミヤマキリシマとサツキとの交雑種などを含めて1000種以上の園芸品種があり、三重県鈴鹿市、栃木県鹿沼市を中心に生産が多い。マルバサツキの影響で雄しべが6~10本ある品種や、アザレア(セイヨウツツジ)との交雑による巨大輪の品種も作出されている。葉形は剣葉、卵葉、丸葉、巻葉があり、葉色は青葉、赤葉、斑(ふ)入りなどがある。花の咲き方には、一重咲き、二重咲き、八重咲き、千重咲き、牡丹(ぼたん)咲き、丁子(ちょうじ)咲き、旗咲き、腰みの咲き、桔梗(ききょう)咲き、采(さい)咲き、狂い咲き、車咲き、朝顔咲き、猪口(ちょこ)咲き、筒咲きなどが区別されている。

 よく知られる品種に次のようなものがある。セイダイ(聖代)は桃色で底白の中輪。シンニョノツキ(真如の月)は紫紅色で底白、丸弁の大輪、ユウホウ(優鳳)は淡いトキ色地に濃いトキ色のひげ絞り、白覆輪のある中輪。キンノサイ(金の采)は赤色の采咲きで花冠は深く切れ込み6~12枚の細弁で葉も細い。カライト(唐糸)は花弁が退化して、赤い雄しべが10本ある。

[小林義雄 2021年4月16日]

栽培

繁殖は普通は挿木によるが、新品種の育成などは実生(みしょう)による。挿木は、新枝の木質部が固まった6月下旬ころ、枝の分岐点で切り取り、鹿沼土(かぬまつち)や赤土に挿す。日陰の風通しのよい所に置くと、約1か月くらいで容易に発根する。北海道から九州まで栽培され、関東地方以西では露地で越冬する。土質を選ばないが、肥沃(ひよく)な腐植質でよく育ち、あまり乾燥しない、日のよく当たる所がよい。盆栽や鉢植えには、鹿沼土にミズゴケを適当量配合したものを用いる。成長はやや遅いが、刈り込みをしてもよく育つ。剪定(せんてい)は6月下旬ころまでに済ませる。移植は容易で、適期は4月上・中旬、6月中・下旬である。肥料は油かすに骨粉を混ぜたものを置肥にする。おもな病害虫のツツジグンバイムシにはスミチオン、マラソンを散布し、ベニモンアオリンガ、ルリチュウレンジバチにはスミチオン、デナポンを散布し、褐斑(かっぱん)病、黒紋(くろもん)病には銅水和剤を散布するとよい。

[小林義雄 2021年4月16日]

文化史

サツキが園芸種として独立するのは元禄(げんろく)期(1688~1704)以降である。水野元勝(もとかつ)の『花壇綱目(かだんこうもく)』(1681)には、ツツジの名のもとに147の種類があげられるが、サツキの名はなく、そのなかにサツキの品種と同じ名が10ほどみられる。しかし、伊藤伊兵衛の『錦繍枕(きんしゅうまくら)』(1692)には162のサツキが集大成されており、突如サツキ園芸が花開いたことが知れる。その後はさほど華々しく流行しなかったが、大正ころからふたたび盛んとなり、現在は1000以上の品種を数える。

[湯浅浩史 2021年4月16日]


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改訂新版 世界大百科事典 「サツキ」の意味・わかりやすい解説

サツキ (皐月)
Rhododendron indicum (L.)Sweet(=Azalea indica L.)

日本で江戸時代から園芸化され,花の美しい品種が多く,盆栽や鉢花,庭木に栽培されるツツジ科の低木。和名サツキツツジの略称で,5月(皐月)に開花することから名付けられた。漢名の杜鵑(とけん)はロードデンドロン・シムシーR.simsii Planch.をさし,またツツジ属を総称して杜鵑花とも呼ぶので,サツキに杜鵑の字を当てるのは誤り。樹高は1m内外。枝は細く密生し横に広がる。葉は互生し,長さ2~5cm,披針形または狭倒披針形で先がとがり,若枝とともに褐色毛がある。夏季に枝先に1個のつぼみがつき,翌年5~6月に1~2花を開く。花冠は広い漏斗形で先が5弁に分かれ,径5~7cm。紫紅色で内側の上部に濃色の斑点がある。おしべ5本,めしべ1本。蒴果(さくか)は卵形で長さ7~8mm,中に1000粒前後の種子ができる。本州中部から四国,九州,屋久島に分布し,谷川沿いの岩場に自生する。栽培の起りは不明だが,サツキの名が記されたのは1632年(寛永9)の生花伝書的巻物が最初といわれる。《毛吹草》(1645)には庭植えのサツキが詠まれ,《錦繡枕》(1692,後に《長生花林抄》と改題された)には161品種の記載があり,現在に残る品種もある。幕末期には流行が衰えたが,1907年ころから久留米,東京,山形などで復活し,交配育種も始まった。12年には東京で陳列会が催され,以後,各地に広まった。15年ころ鹿沼土(かぬまつち)が培養土に使われ,宇都宮,鹿沼地方が苗木の産地となった。第2次世界大戦後も早くから復活し,70年代前半は全国的に流行してサツキ・ブームをひきおこした。現在までに記録された品種名は1500余に及び,その約半数は現存する。品種の分類は,時代区分で古花(江戸時代),旧花(1890-1915ころ),中新花(1915-50ころ),新花(1950-60ころ),最新花(1960以後)と,また花の大きさで小輪(5cm以下),中輪(5~7cm),大輪(7~10cm),巨大輪(10cm以上)と分け,花色は緋色から赤色,紫紅色があり,色彩模様は無地,底白,覆輪,絞りに大別される。絞りは点や線の大小によって微塵(みじん)絞り,霰絞り,更紗絞り,大絞り,小絞り,竪(たて)絞りなどと呼ばれ,地色や底白,覆輪とも組み合わされて千変万化の模様となる。品種はすべて実生株や枝変りから選抜された栄養系品種で,繁殖は梅雨期に新芽を挿木する。苗は腋芽(えきが)を除いて1本仕立てとし,2~3年目に幹模様をつけ,枝作りをして若木盆栽に作る。用土は保水力と通気性が必要で,鹿沼土が最適だが,赤土と腐葉土,川砂などを混合してもよい。枝や幹を切りつめても新芽がよく出るので,初心者でも盆栽作りが楽しめるうえに,銘木には松柏類に劣らぬ風格があり,新緑の間に咲く花には品位があるので愛好者が多い。

 近縁種のマルバサツキR.eriocarpum Nakaiはサツキより丸葉で花色が紫を帯び,おしべが10本または7~10本と多く,九州南端から屋久島に分布する。《錦繡枕》ではツツジの部に記されたが,明治以降はサツキ品種として扱われ,雑種による品種も多く,紫色系や大輪化,多弁化に役だった。ベルジアン・アザレア(Belgian azalea)は略されて単にアザレアとも呼ばれるが,R.simsiiをもとに,サツキやリュウキュウツツジなども関与した鉢物用常緑ツツジである。1920年代に宇都宮でサツキの交配親に使い,巨大輪で色彩の鮮やかな品種群(戸室系)を育成した。

 サツキは18世紀にリンネによってジャワで栽培されていたものに基づいて学名がつけられたことからわかるように,古くからヨーロッパに導入され,種間交雑で育成されたアザレア系(Indian azaleas)の園芸品種の重要な基本種ともなっている。
ツツジ
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のサツキの言及

【ツツジ(躑躅)】より

…【飯島 吉晴】。。…

【ツツジ(躑躅)】より

…この概念が第2次世界大戦後日本に入ってきて,従来の概念と食い違って混乱を起こしている。しかし,系統的には常緑と落葉とで本質的な区別はなく,日本のツツジ類は半落葉性で,サクラツツジやマルバサツキのような常緑性といえるものもあり,ツツジ類とシャクナゲ類の区別は便宜的なものといえる。 ツツジ属はエゾツツジを除いて,大きくヒカゲツツジ亜属とツツジ亜属に分けられる。…

※「サツキ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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