ゴボウ(読み)ごぼう

改訂新版 世界大百科事典 「ゴボウ」の意味・わかりやすい解説

ゴボウ (牛蒡)
great burdock
edible burdock
Arctium lappa L.

キク科の二年草。長く伸長した根を主に食用にするが,日本人以外はほとんど利用しない日本独特の野菜。根には45%のイヌリンと少量のパルミチン酸を含むが,とくに栄養価はない。繊維が多く整腸作用と利尿効果がある。野生種はヨーロッパシベリアから中国北東部にかけて分布するが,日本には自生種はない。千数百年前に中国から渡来したとされているが,栽培の起源は明らかではない。栽培種は日本で改良され作物化されたといわれる。平安朝の末期には宮廷の献立にゴボウが用いられていたことが記されており,古くから重要野菜として使われていた。江戸時代になってからは栽培指導書なども出され,品種の改良も進んだ。

葉はフキのように長い葉柄をもった根出葉で,葉身は大きく,長さ50cmくらいの心臓形で,葉縁には浅い欠刻があり,葉面は波を打つ。茎および葉の裏側には白い綿毛がある。主根は土中に深く伸び肥大するが,その長さは品種により,30cm程度から150cmくらいに伸長するものまである。根の形態には,表皮が割れて粗剛に肥大するものや,細長く伸長するものなどがある。低温にあい越年後,高温長日条件でとうが立ち,草丈は150cmくらいに伸長する。花はアザミによく似ており,赤紫色または白色の頭花を多数つける。

ゴボウは変異性に乏しく,ダイコンニンジンに比べて品種の分化は著しくない。基本となる型は,〈滝野川型〉で,ほかに特殊な地方品種として〈大浦型〉〈百日尺型〉〈白茎白花型〉などがある。滝野川型は,古くから東京の滝野川付近で栽培されていたゴボウで,長根種の代表的な品種群である。この品種群の基本型は,根が長く伸びる晩生種であるが,品種改良された中生種や早生種では,根長は短めとなり,先の方まで肥大のよい形になっている。最近は早どりが好まれるため,早生系が多くなっている。代表的な品種として,〈渡辺早生〉〈山田早生〉などがある。大浦型は短根系のゴボウで千葉県の原産である。根部が紡錘形で,根の中心が空胴となり肥大する。表皮も荒く外見は悪いが,肉質は柔らかく美味で,従来は成田山新勝寺の精進料理に使われていた。百日尺型は百日で1尺(約30cm)くらいになるということからこの名がある早生種。ゴボウの品種中もっとも小型のもので,〈百日尺〉(山形),〈梅田〉(埼玉),〈萩〉(山口)などの品種がある。白茎白花型は葉ゴボウとして葉を食用にする品種で関西に多く,〈越前白茎白花〉(福井)がある。春まき秋どりが多いが,秋まきして翌年5~7月収穫の作型もある。酸性土壌や連作を嫌う。主産地は耕土の深い関東地方に多く,とくに埼玉県での生産が多い。
執筆者:

ゴボウは古くは〈キタキス〉〈ウマフブキ〉と呼ばれ,悪実とも書いた。ゴボウの料理としては《庭訓往来》に見える〈煮染牛房(にしめごぼう)〉あたりが古く,続いて《北野社家日記》などにたたきゴボウが出現する。ゆでたゴボウをすりこぎなどでたたき,ゴマ酢やゴマじょうゆなどをかけるものだが,江戸時代には全国的にこのたたきゴボウを正月のおせちの一品とするところが多かった。各地に良質のゴボウがあったが,京都では八幡(やわた)ゴボウや堀川ゴボウが有名であった。前者は石清水(いわしみず)八幡宮近傍で産したもので,八幡はゴボウの代名詞にもなり,いまも煮たゴボウをアナゴウナギで巻いたものを八幡巻と呼んでいる。現在では以上のほか,きんぴら,精進揚げ,柳川なべなどに用いられる。また,菓子ではまるい餅で紅色のみそあんと甘煮にしたゴボウを包んだはなびら餅があり,正月のものとされる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゴボウ」の意味・わかりやすい解説

ゴボウ
ごぼう / 牛蒡
[学] Arctium lappa L.

キク科(APG分類:キク科)の二年草。ヨーロッパからアジアの温帯原産。根生葉には長さ40センチメートルの葉柄があり、葉身は心臓形で裏面に白色の毛がある。2年目または3年目の春に、高さ1.5メートルになる花茎を出し、淡紫色でアザミに似た花を多数つける。根は直根性で灰黄色、内部は黄白色。根を食用とする目的で栽培するが、若い茎葉も食べる。

 日本には野生はなく、古く中国より渡来し平安時代に食用が始まり、江戸時代には野菜として全国に普及したらしい。いまは日本独特の野菜で、外国では食用とされていない。

 産地は全国の大きい川の近く、作土が砂質で深い地域に散在する。北海道、青森県、茨城県、宮崎県などが主産地である。栽培は春播(ま)きが普通で、2月下旬から5月に播種(はしゅ)し、7~9月(早生(わせ))、9~10月(中生(なかて))、10月から翌年2月(晩生(おくて))に収穫する。また秋播き栽培も行われる。

[星川清親 2022年2月18日]

品種

滝野川牛蒡(たきのがわごぼう)は元禄(げんろく)時代(1688~1704)から江戸の滝野川の特産として知られた。根は長く、肉質は緻密(ちみつ)で柔らかく、す入りしにくい良質種である。堀川牛蒡(ほりかわごぼう)は京都の旧葛野(かどの)郡大内村の特産。2年子として直径10センチメートル、重さ900グラム程度に育ったものを収穫する。昔から本願寺で用いられた。大浦牛蒡(おおうらごぼう)は千葉県成田市近郊の特産で、根が太く短形で、肉質は柔らかい。太い根に空洞ができ、ここに詰め物をして料理する。ほかに常盤牛蒡(ときわごぼう)などがある。

[星川清親 2022年2月18日]

食品

根の可食部100グラム中に、タンパク質2.8グラム、脂質0.1グラム、炭水化物17.6グラムを含むが、炭水化物はデンプンではなくイヌリンなので消化しにくい。また、ビタミン類も少なく、栄養的にはあまり期待できないが、繊維が多く、便通を整える効果がある。ゴボウは、あくが強いので、切ったら変色しないようにすぐ水にさらす。皮に近い部分が美味なので、皮むきは、たわしでこするか包丁の背でこそげる程度とする。金平ごぼう、煮物、てんぷらなどにし、また、ささがきごぼうは柳川鍋(やながわなべ)に欠かせない。関西では葉つきのままの若ゴボウは煮物のあしらいに添え、香味がよい。種子は悪実(あくじつ)とよび、腫(は)れ物の内服薬にされる。

[星川清親 2022年2月18日]


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食の医学館 「ゴボウ」の解説

ゴボウ

《栄養と働き》


 ゴボウを食用にしているのは韓国とわが国だけで、原産地のユーラシア大陸北部でも野生種を薬用にしているだけです。そういう意味では、わが国独特の野菜といえます。
〈特有の歯ごたえはイヌリン、がん細胞を抑制するのがリグニン〉
○栄養成分としての働き
 おもな成分は炭水化物で、その大部分は消化吸収されないイヌリン(水溶性)、ヘミセルロース(不溶性)などの食物繊維です。これがゴボウ特有の歯ごたえや風味をつくりだしています。イヌリンは腎機能(じんきのう)を高め、利尿効果があるともいわれています。
 最近注目されている成分は、木質素(もくしつそ)とも呼ばれるリグニン。がん予防や胆汁酸(たんじゅうさん)を吸着し、排泄(はいせつ)させる作用があります。これは、消化吸収されずに便の量をふやして腸の蠕動(ぜんどう)運動を活発にするので、便秘(べんぴ)を防ぐ働きもあります。また、腸内の有用細菌の繁殖を助け、有害物質を吸着して排泄する働きもあるので、大腸がん予防に役立つといわれています。
 便秘改善に効力を発揮する理由はほかにもあります。ゴボウは、水溶性と不溶性の両タイプの食物繊維が多く、便の量をふやし、乳酸菌の活動を活発にして、便秘を改善するのです。
 水溶性食物繊維には、悪玉コレステロールを排出する働きや血糖が急激に上昇するのを防ぐ働きもあるので、動脈硬化や糖尿病予防などにも効果が期待できます。
 また、悪性細菌を増殖させず、逆に有用細菌をふやす働きもあり、ビタミン合成を活発にする効果もあります。さらに男性の精子数を増加させる働きのあるアルギニンという成分も含んでいます。
○漢方的な働き
 中国でも薬用として解毒、解熱、鎮咳(ちんがい)などの治療に利用されていますが、食用にはされていません。

《調理のポイント》


 ゴボウは晩秋から初冬のものがもっともおいしい時期です。2cmくらいの太さでスッと伸びたもの、ひげ根が少ないものを選びましょう。
 リグニンは切り口に発生する性質があり、時間がたつほどふえます。切り口の表面が多くなる「ささがき」をした調理がおすすめです。ゴボウにはアントシアニン系色素が多く、アクが多いので、切ったら水にさらすことが必要です。また、皮と身のあいだにうまみ、香り、薬効成分があるので、むかずにタワシでこする程度にしましょう。

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百科事典マイペディア 「ゴボウ」の意味・わかりやすい解説

ゴボウ

根,まれには葉柄を食用とするため,古くから栽培されるキク科の野菜。原種とみなされる野生種はヨーロッパ〜中国東北地方に分布し,千数百年前に中国から渡来したとされる。日本で改良され,栽培種として確立した。根出葉は長い柄があり,大きな心臓形で,長さ40cm,縁には鋸歯(きょし)がある。花はアザミに似る。直根は長く伸び,品種により1.5mにも達する。おもな品種は,細長形赤茎の滝の川系,白茎の越前系,短太の大浦系など。金平(きんぴら),煮しめなどにする。味噌漬などにする山ゴボウは本種ではなくモリアザミ(アザミ)の根である。

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栄養・生化学辞典 「ゴボウ」の解説

ゴボウ

 [Arctium lappa].キク目キク科ゴボウ属の植物で,根を食用にする.

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