日本大百科全書(ニッポニカ) 「コーンバーグ(化学者)」の意味・わかりやすい解説
コーンバーグ(化学者)
こーんばーぐ
Roger D. Kornberg
(1947― )
アメリカの化学者。スタンフォード大学で博士号を取得。スタンフォード大学医学部教授。「真核生物の転写の分子的基礎に関する研究」で2006年にノーベル化学賞を受賞した。
人間を含む真核生物は、遺伝情報によって生命現象を営んでいる。遺伝情報は細胞核の中にあるデオキシリボ核酸(DNA)に記録されている。これが活性化するためには、いったんリボ核酸(RNA)に写し取られるが、これを転写transcriptionとよんでいる。転写された情報をもとに、タンパク質が製造されて生命現象が展開されている。コーンバーグは、転写の分子的なメカニズムを初めて解明した。転写を制御する酵素はRNAポリメラーゼとよばれており、その存在は以前から知られていた。しかしこの酵素は構造が複雑で未解明の部分が多く、どのようなメカニズムによって転写を実行するかわからなかった。コーンバーグは、RNAポリメラーゼの結晶を作成することに成功し、電子顕微鏡やエックス線解析などを駆使して分子構造を解明することに成功した。さらにRNAに転写するときのスイッチの役割をしているタンパク質も発見して一連のメカニズムを解き明かした。この転写はすべての生命体に必要なものであり、癌(がん)や心臓病などさまざまな病気にかかわっていると推測されており、病気の原因解明や治療法の開発につながるものと期待されている。
コーンバーグの父親のアーサー・コーンバーグは、「DNAおよびRNAの生合成の仕組みを明らかにした功績」で、1959年にノーベル医学生理学賞を受賞している。親子で受賞した6番目の例である。
[馬場錬成]