コールハース(読み)こーるはーす(英語表記)Rem Koolhaas

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コールハース」の意味・わかりやすい解説

コールハース
こーるはーす
Rem Koolhaas
(1944― )

オランダの建築家。ロッテルダムに生まれる。1950年代はインドネシアで生活。1960年代はジャーナリストや映画の脚本家として働く。その後1972年、ロンドンAAスクール(Architectural Association School)卒業後アメリカに渡り、コーネル大学において建築家O・M・ウンガースOswald Mathias Ungers(1926―2007)の仕事を手伝う。1973年からニューヨークのIAUS(建築都市研究所)の特別研究員。1976年、エリア・ゼンゲリスElia Zenghelis(1937― )らとともに、ロンドンに建築事務所OMA(Office for Metropolitan Architecture)開設。その後、オランダや香港(ホンコン)にも事務所を開設。1990年、ハーバード大学大学院客員教授。建築の設計や都市計画だけではなく、著作や展覧会などのメディアを活用し、過激な議論を展開している。

 1970年代は実作がほとんどなく、建築論によって有名になった。『錯乱のニューヨーク』Delirious New York(1978)では、ポスト・モダン的な視点により、マンハッタンの都市史と文化を解読している。そして欲望のおもむくままに自動生成する建築の原理を「ロボトミー」と命名し、マンハッタンの特徴として内部と外部の断絶や異なる機能の施設の混在を指摘した。これはヨーロッパの英雄的な建築家を中心に展開される近代建築史を批判するものである。

 1980年代は、落選したもののコンペ案によって、建築界に決定的な影響を与えた。パリのラ・ビレット公園のコンペ案(1982)では、異なる空間を短冊状に並べ、それらを人々に横断させる案を提案。フランス国立図書館のコンペ案(1989)では、半透明立方体の内部において、各施設が浮遊するような構成を示した。

 1990年代以降は、多くの作品が実現した。コールハースは、ル・コルビュジエやミース・ファン・デル・ローエなどの近代建築を読み換え、変形させることにより、新しい空間を生む。こうした手法は、直交する壁によって構成されたミースの傑作バルセロナ・パビリオンをねじ曲げたミラノ・トリエンナーレのプロジェクト(1986)など、展示やドローイングにも一貫している。オランダ国立ダンスシアター(1987、ハーグ)や複合施設ビザンティウム(1991、アムステルダム)の大胆な形態では、ロシア構成主義への参照が認められる。クンストハル(1992、ロッテルダム)は複雑に斜路が絡みあい、多様な要素をコラージュした建築である。ユトレヒト大学付属施設エデュカトリアム(1997)は、斜めの床を効果的に使う。

 また、グラフィック・デザイナーのブルース・マウBruce Mau(1959― )とともに巨大な作品集『S,M,L,XL』(1995)を制作し、ビッグネスの概念を提出する。同書では規模の問題に注目し、建築が巨大化すると古典的な美学やヒューマニズムが無効になると指摘する。巨大な複合施設のコングレクスポ(1994、リール)は、ホールや会議場など複数の機能を楕円の内部におさめ、ビッグネスを意識した作品である。

 グローバル化する資本主義と都市の新しい現実の調査活動も精力的に行う。とくに東京やシンガポールなど、変化を続け、アイデンティティを喪失した国際都市をジェネリック・シティとよび、アジアやアフリカに注目している。急激に成長するアジアでは、都市が簡単に生産され、実際にビッグネスの現象が起きているからである。

 その後、著書『Mutations』(2000)では、ナイジェリアのラゴスを分析し、都市が破綻しながら機能している状況を、計画概念が無効になった未来的な都市のモデルとみなす。またショッピングを手がかりに、消費活動による都市の形成について調査・研究を行なう。同時にコールハースは、旧来の建築家の役割を疑い、ファッション・ブランド、プラダの企業戦略と店舗設計を一括して行うなど、新しい職能を切り開いている。

 2000年プリツカー賞受賞。そのほかのおもな建築作品に集合住宅アイ・プレイン(1989、アムステルダム)、チェックポイント・チャーリーの集合住宅(1989、ベルリン)、ネクサス・ワールドの集合住宅(1991、福岡県)、ボルドーの住宅(1998)、プラダのショップ・ビルディング(2001、ニューヨーク)、著書に『Projects for Prada』『Project on The City』1・2(2001)などがある。

[五十嵐太郎]

『鈴木圭介訳『錯乱のニューヨーク』(ちくま学芸文庫)』『Mutations (2000, Actar, Barcelona)』『Projects for Prada (2001, Fondazione Prada, Mialno)』『Project on the City ;1. Great Leap Forward , 2. Harvard Design School Guide to Shopping (2001, Harvard Design School, Cambridge)』『Rem Koolhaas and Bruce MauS, M, L, XL (1995,Taschen, Köln)』『「特集:レム・コールハースOMA」(『a+u』1988年10月号・エー・アンド・ユー)』『「特集:楽しいOMAの楽しい知識」(『建築文化』1995年1月号・彰国社)』『『OMAレム・コールハースのジェネリック・シティ』(1996・TNプローブ)』『Jacques LucanOMA - Rem Koolhaas Architecture 1970-1990 (1991, Princeton Architectural Press, New York)』『Sanford Kwinter ed.Rem Koolhaas Conversations with Students (1996, Princeton Architectural Preess, New York)』

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百科事典マイペディア 「コールハース」の意味・わかりやすい解説

コールハース

建築家。オランダ,ロッテルダム生れ。幼年期をインドネシアで過ごし,のちアムステルダムに移住。1965年―1973年AAスクール,コーネル大学で学ぶ。1975年OMA(Office for Metropolitan Architecture)設立。金融・商業・交通・通信などが高度に発達した現代都市における建築のあり方を提案し,数々のコンペで議論を呼ぶ。実作にダンス・シアター(ハーグ,1987年),ビラ・ダッラバ(パリ,1992年)などがあるほか,1988年―1992年にはフランス,リール市の都市計画(ユーラリール計画)のマスター・プランと実作を手がけた。日本での作品に集合住宅〈ネクサス〉(福岡,1991年)がある。著書《錯乱のニューヨーク》(1978年),《OMA:S,M,L,XL》(1996年)。
→関連項目ディコンストラクティビズム

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