コークス
こーくす
coke
広義には有機物を、空気を遮断して加熱(乾留)したとき、揮発分が出たのちに残る炭素質の物質の総称。狭義には石炭の高温乾留によって生成する団塊状の炭素質物質をさし、低温乾留によるものは低温コークスといって区別することが多い。
コークスが初めて工業的規模で用いられたのは製鉄用で、おもに溶鉱炉の燃料としてであった。ヨーロッパでは14世紀ごろすでに、水車を動力、木炭を燃料とする溶鉱炉が出現していたが、森林資源の枯渇を招いたために、石炭を代替燃料とする試みが各地で繰り返された。しかし石炭は溶鉱炉内で軟化溶融したり、粉化するために通気性が悪化して、安定操業は困難であった。あらかじめコークス化したのち溶鉱炉に入れる方式を開発したのはイギリスのA・デービー父子で、1735年に初めてコークスのみによる製鉄に成功した。当時のコークス製造は、野原に石炭を積み上げて粉コークスなどで覆い、火をつけて蒸し焼きにする原始的な方法で、ガスやタールは大気中に放散されていた。イギリスのW・マードックは鉄製レトルトを用いて石炭ガスを利用する方式を考案し、1811年にはロンドンに街灯がともった。その後、都市ガス製造を主目的とする各種のコークス炉が開発されたが、当時、タールやコークスはあまり価値のない副産物にすぎず、これらが化学工業原料としてもてはやされるようになったのは19世紀末になってからである。
日本では第二次世界大戦後、ガス化学工業の原料が石油系に転換したために、現在のコークス炉の主製品は冶金(やきん)用(製鉄用および鋳物用)コークスに限られている。製鉄用コークスは灰分・硫黄(いおう)分が低く、強度の高いものが要求されるために、原料炭の種類・性状には制約があるが、戦後の日本ではアメリカ、カナダ、オーストラリアなど世界各国から輸入した多くの銘柄炭を多種配合することによって、安価でかつ良質のコークスを製造している。この際、軟化溶融性に富む国内炭(三池(みいけ)、夕張(ゆうばり)炭など)が優れた粘結材として作用するために、輸入炭の銘柄選択の自由度が大きくなる利点があった。しかし、国内炭の生産は1961年(昭和36)をピークに急激に減少し、2000年(平成12)に生産が終了したため、国内炭の利用はなくなった。現在の製鉄用コークスは、灰分11~12%、硫黄分1%以下、発熱量1グラム当り7000カロリー程度で、固く、粉化しにくいものが用いられている。溶鉱炉内におけるコークスの役目は、熱源、還元ガス源、通気維持材の三つであり、前二者は気体あるいは液体燃料で代替できるが、三者を兼ね備えた燃料はコークス以外にはない。溶鉱炉製銑法が続く限りコークスの需要はなくならないと考えられているのは、この理由による。
[宮津 隆]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
コークス
コークス
coke
石炭熱分解(乾留)により生成する粘結性をもつ塊状の炭素質物質.通常は,製鉄用高炉で鉄鉱石の還元に使用されるコークスをさし,その製造用炉をコークス炉とよぶ.コークス中の固定炭素は約90質量% で,残りが灰分である.強粘結性の歴青炭が良質のコークスを与えるが,高価で資源的制約があるため,実際には,歴青炭以外に,褐炭や無煙炭を含む数十種類の石炭を配合して原料に用いる.コークス炉内では,石炭は15~20 h をかけて1200~1300 ℃ に加熱され,溶融物,セミコークスを経て十分な機械的強度をもつコークスが製造される.コークスの生成割合は60~70質量% で,そのほかに,ガス(コークス炉ガス)とタール(コールタール)とが,それぞれ20~30,3~5質量% 発生する.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
コークス
coke
粘結炭を約 1000℃で乾留してその揮発分の大部分を石炭ガスとして放出したあとに残る固体燃料。灰分を含んだ多孔質の炭素質で,骸炭ともいう。製鉄用コークスは大部分,製鉄会社が自家生産し,溶鉱炉に用いられて,鉱石の溶解に必要な熱を供給し,鉱石の還元に必要な一酸化炭素を発生する。また炉内の荷を支えつつ通風に必要なすきまをつくることなどにも利用される。鋳物用コークスはキューポラ (立て型炉) で銑鉄を主とする地金を溶解して鋳物をつくるときの,溶解熱源として使われる。またカルシウムカーバイドを製造する際の炭材として使うものをカーバイド用コークスという。半成コークスは石炭の低温乾留で得られる炭化物。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
コークス
〘名〙 (Koks) 強粘結性瀝青炭の高温乾留で得られる多孔質、無煙の炭素質固体燃料。冶金用コークスとガスコークスとがあるが、前者は膨張度が低くて強度が大きく、溶鉱炉での製鉄に用いる。膨張度が高くて強度の小さいものは、水性ガスの製造などに用いる。なお、低温乾留によってもこれに似た固体燃料が得られるが、これは半成コークスあるいはコーライトなどと呼んで、練炭などの原料とする。石炭コークス。コーク。
※米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉二「石炭を『コークス』と云、猛烈の熱を生じ、鋼鉄等を熔すには、此『コークス』を用ふ」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「コークス」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
コークス【coke】
石炭または石油から生産される炭素を主要成分とする固体で,燃料,鉄鉱石の還元,炭素材料の製造などに用いられる。ふつう単にコークスといえば,石炭の高温乾留で得られるものをさし,石炭の低温乾留で得られるものは半成コークスsemicokeあるいはコーライトcoaliteと呼ばれる(乾留)。半成コークスは火つきがよく燃えやすい家庭用無煙炭として利用されたが,現在,石炭の低温乾留はほとんど行われていない。また,石油から得られるコークスは,とくに石油コークスと呼ばれる。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
世界大百科事典内のコークスの言及
【乾留】より
…石炭,木材,ピッチなどの固体有機物を,空気の流通を断って熱分解する操作をいう。これによって可燃性のガスや液体とともに,コークスや木炭が得られる。ここでは石炭および木材の乾留について述べよう。…
【製鉄・製鋼】より
…製鉄工程を酸素の変化として示したものが図1である。すなわち,鉄鉱石は初め(A点)は酸素を約30重量%含むが,高炉(あるいは電気製銑炉)でコークスにより還元されB点(酸素約0.0005重量%)に達する。この還元された鉄は炭素を4~5重量%,さらにケイ素,リン,硫黄などの鉄鉱石,石灰石,その他の溶剤からの還元されやすい元素,いいかえれば不純物を含む粗金属,すなわち銑鉄である。…
【石炭】より
…エクジニットexiniteは,主として植物の葉,小枝などの角皮と胞子,花粉,種子,水藻,樹脂質に由来する。イナーチニットinertiniteは主として植物の木質部と菌類に由来し,石炭組織のなかでは不活性な成分なので,これを多く含む石炭は,コークス製造や液化,ガス化の原料として不向きである。顕微鏡による研究で石炭の微細な組織や含有されている胞子,花粉,種子などが識別でき,このことは,もとの植物の種類を調べたり,あるいは離れた地点や断層の両側で炭層が同一のものかどうかを判定するために,有力な手がかりを与えてくれる。…
【石炭化学工業】より
…石炭化学工業とは,化学工業のなかで石炭を原料として各種の化学製品を生産する産業で,石炭を乾留して得られる石炭ガス,コークス,コールタールを原料とするものと,石炭をガス化して原料とするもの,の二つに大別することができる。おもな製品としては,石炭ガスからつくられるBTX類(ベンゼン,トルエン,キシレン),コールタールからつくられるピッチ,クレオソート油などがある。…
【粘結炭】より
…この性質を粘結性といい,粘結性をもつ石炭を粘結炭という。空気を遮断しての加熱処理が乾留であり,できた固体がコークスである。歴青炭のうち石炭化度の高い範囲のものが粘結性をもつ。…
※「コークス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報