改訂新版 世界大百科事典 「コミュニティケア」の意味・わかりやすい解説
コミュニティ・ケア
community care
社会福祉の諸分野において,その対象者を,特別な施設の中だけで処遇するのではなく,できるだけ地域の中で地域とのつながりを保ちながら処遇すること。コミュニティ・ケアの思想は,施設処遇優先から地域福祉へと,1970年代の後半から日本の社会福祉の重点を転換させる役割を果たした。最初は,1920年代のイギリスで,精神衛生および精神遅滞者の対策として,収容施設での保護だけでなく,コミュニティにおける職業訓練や授産施設等のサービスが必要だという主張として登場した。その後,第2次大戦後,コミュニティでの治療体制の強化が論ぜられ,在宅患者に対する予防・治療・アフターケア等のサービスによる社会復帰をコミュニティで行う〈治療的コミュニティ〉の考え方が生まれた。こうした精神衛生分野の発想がしだいに母子・障害者・老人等の社会福祉の分野に及び,広くコミュニティでの居宅サービスが重視されるようになった。そして,1963年にイギリス保健省が出した〈保健と福祉の分野におけるコミュニティ・ケアの進展〉や,68年の〈コミュニティに根ざした家族本位のサービス〉を主張した〈シーボム報告〉によって,広くイギリスの福祉政策の基本的方向として定着していった。
日本では,69年に東京都社会福祉審議会が〈東京都におけるコミュニティ・ケアの進展について〉のなかで,〈社会福祉の対象者となる人々の処遇を,なるべく施設のなかでよりは,地域のなかで行おうとする……。地域で生活させることができるのなら,そうする方がよい。これがコミュニティ・ケアである〉と問題を提起し,論議を巻き起こした。その背景としては,福祉ニーズが多様化したこと,施設収容中心の社会福祉に対して,福祉は本来的に対象者の生活の場で,家族や生活とのつながりを保ちながら行われるべきだという主張が強くなったこと,在来の施設が需要に対応しきれず,在宅福祉サービスを必要とする対象者が増加したこと,が挙げられる。コミュニティ・ケアの考え方には,(1)施設ケアの対置概念としての在宅ケア(居宅保護・施設保護),(2)施設ケアと在宅ケアの両者を含め,諸機関・施設等問題の解決に関係ある社会福祉サービスを地域単位で有機的に連絡調整し体系化すること,(3)住民の連帯性に支えられた地域福祉活動に社会福祉推進の主要な役割を負わせようとするもの,(4)治療的コミュニティなど,重点の置き方によって諸説があるが,いずれにしても行政機関・施設の責任と,住民の協力が重要である。コミュニティ・ケアの主張は,地域社会の福祉機能,住民参加,行政の責任と限界,施設の役割の変化,公私の責任分担のあり方の重要性に着眼し,地域福祉論の展開に道を開いた。とくに日本では,福祉社会の実現に向けて,住民の意識変革と主体的参加が重要課題とされているところにヨーロッパとの違いがある。
→社会福祉
執筆者:阿部 志郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報