コククジラ(英語表記)gray whale
Eschrichtius robustus

改訂新版 世界大百科事典 「コククジラ」の意味・わかりやすい解説

コククジラ (克鯨)
gray whale
Eschrichtius robustus

ヒゲクジラ亜目コククジラ科の哺乳類北太平洋沿岸域にすみ,頭骨に原始的な特徴をとどめたクジラ。かつては北大西洋にも生息したが,18世紀初めに絶滅した。北太平洋には二つの系統群がある。一つは,海南島近海から朝鮮半島沿岸を経てオホーツク海北部の間を回遊する系統で,繁殖場は明らかにされていないが,南シナ海のどこかにあるものと思われる。この一部は北九州沿岸にも出現する。他はカリフォルニア半島,メキシコ本土沿岸部とベーリング海北部,チュコート海とを往復する系統である。日本の太平洋岸に回遊して,紀州や土佐の網取式捕鯨で捕獲されたコククジラがどちらの系統に属するかは明らかではない。アジア系の個体は1930年代までにほぼとりつくされ,今でも回復を見ず,夏に北東サハリン沿岸で少数が目視されている。アメリカ系の個体は第2次世界大戦後保護の成果があがり,チュコート半島の先住民のための年間160頭程度の捕獲のもとで,1970年ごろの1万1000頭前後から97年の2万2000頭前後まで回復した。夏には北方海域で,底生性の小型甲殻類のソコエビ類を食べるが,冬にはほとんど索餌せず,南方海域の入江などで交尾出産を行う。妊娠期間は約1年で,2~3年に1回出産する。子は出生時には4.6m,11~12mで成熟し,14mに達する。全身灰黒色。背びれに代わり,山形隆起が数個ある。吻(ふん)は細くて下方に湾曲し,7個の頸椎全部が遊離している。長さ30~40cmの白色のひげ板が片側で百数十枚ある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コククジラ」の意味・わかりやすい解説

コククジラ
Eschrichtius robustus; gray whale

クジラ目ヒゲクジラ亜目コククジラ科コククジラ属。体長は 11~15m。体重は最大約 35t以上。出生体長は 4.5~5m。体色は全身灰色,暗灰色または青灰色で,体表は多数の傷痕およびフジツボ類やクジラジラミ等の寄生生物でおおわれる。セミクジラ科とナガスクジラ科の中間の体型である。噴気孔は2個。背鰭 (せびれ) を欠くが,背の正中線後方に小隆起が7~15個ほど連なる。咽喉部に長さ約 1.5mの縦溝が2~4条ある。くじらひげは口内の上顎上面に片側で 130~180枚あり,長さは 40~50cmである。板状部も繊毛部も薄い黄色で,繊毛部はきわめて粗く,ときには直径 7mmに及ぶ。通常は3頭以下の群れで行動するが,回遊中は 16頭以上の群れをなすことがあり,また索餌場や繁殖場では群れがより大きくなる。回遊中や繁殖場では頻繁にとびはねるほか,よく周辺を観察したりする。若齢鯨は好奇心が強く,人に体を触れさせたり,水をかけたりする。おもにゴカイ端脚類を,海底の泥とともに吸引しくじらひげでこし取って食べており,これらの底生動物を捕食することから大陸棚の浅い水域に分布が限定される。沿岸性。北太平洋に生息し,アジア系群とカリフォルニア系群の2系群がある。 18世紀までは北大西洋にも生息していたが絶滅。カリフォルニア系群の繁殖場はカリフォルニア湾の礁湖や浅瀬である。アジア系群の生態や生息数は不明。沿岸捕鯨により乱獲され絶滅の一途をたどっていたが,保護によりカリフォルニア系群は徐々に増加。チュクチ海では先住民捕鯨が認められている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「コククジラ」の意味・わかりやすい解説

コククジラ
こくくじら / 克鯨
gray whale
[学] Eschrichtius robustus

哺乳(ほにゅう)綱クジラ目コククジラ科のヒゲクジラ。コクジラともいう。この科は1属1種。全身灰色で、背びれはないが、尾部背側に小隆起が数個、山脈状に連なる。咽喉(いんこう)部に2~4条の縦溝がある。くじらひげは黄白色で厚く、片側に160枚生える。出生体長4.6メートルで、成熟した個体の平均体長は雄13メートル、雌14メートルになる。数百年前までは北大西洋にも分布していたが絶滅し、現在は北太平洋にのみ二つの系統群が存在する。東側系群はカリフォルニア半島南部の沿岸で冬季に繁殖し、夏季にはベーリング海北部と北極海で索餌(さくじ)し、その2か所の間を沿岸沿いに大きく回遊して生活する。西側系群は冬季は南シナ海の沿岸で繁殖して過ごし、夏季はオホーツク海の索餌場へ移動する。海底の砂中にすむ動物プランクトンの端脚(たんきゃく)類を好んで食べる。東側系群は19世紀後半から捕獲により資源が減少したが、現在では2万7000頭に回復し、シベリアと、アメリカのワシントン州では先住民のための捕獲が許されている。西側系群の資源は絶滅寸前の状態で、強い保護を要する。

[大隅清治]


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