コカノキ(読み)こかのき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コカノキ」の意味・わかりやすい解説

コカノキ
こかのき
[学] Erythroxylum coca Lam.

コカノキ科(APG分類:コカノキ科)の常緑低木。南アメリカ原産で、アンデス山脈の標高700~1700メートル、雨の多い谷の傾斜地で栽培する。ペルーボリビア、コロンビアで多く栽培され、またインドネシア、スリランカ、台湾でも栽培される。高さ1~2メートル。葉は互生し、黄緑色で柔らかく、披針(ひしん)形ないし長楕円(ちょうだえん)形で、長さ約6センチメートル、先はややまさかり形で小さな刺(とげ)となり、全縁で、主脈に平行して両側に1本ずつ線があって、葉柄は短い。初夏、黄緑色の小花を落葉後の枝につける。萼(がく)は緑色で小さく、5深裂し、花弁は5枚で基部の内側に2裂する舌状の付属物がある。雄しべは10本、花柱は3本あり長楕円形の子房につく。果実は長さ約1センチメートルの卵状長楕円形で赤く熟し、液汁が多く、中に種子1個をもつ。

[長沢元夫 2020年6月23日]

薬用

コカノキの葉をコカという。1532年、スペイン人がペルーの奥地に入ったとき、土地の人が皆コカを口に入れてかむことを知り、またコカノキを栽培しているのをみた。1日に平均30~50グラムの葉を石灰または植物灰といっしょにかむと、短時間であるが力がつき、疲労と空腹を忘れる。この作用は強いので幸福の護符にもされ、インカ神像は両手にコカを持っている。含まれているおもなアルカロイドコカインで、これは粘膜から容易に吸収され、知覚神経末端に作用して、痛覚味覚などのすべての感覚を消失させるので、手術や診断の際の局所麻酔剤として使うことは1862年から始まった。連用すると慢性中毒にかかり、その症状はモルヒネ中毒のときに似ているが、それより悪性で、すぐに栄養障害に陥り、ついに精神障害をおこすので、コカおよびコカインの取扱い、製造、販売には麻薬取締法が適用される。

[長沢元夫 2020年6月23日]

 なお、コーラ飲料の代表的な銘柄として知られる「コカ・コーラ」には、コーラノキの種子エキスのほかにコカなども含まれているといわれる。しかし、コーラ飲料に使うものは熱処理をしてあるので、コカインなどの麻薬成分はなくなって無害となっている。

[齋藤 浩 2020年6月23日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コカノキ」の意味・わかりやすい解説

コカノキ
Erythroxylum coca; coca

コカノキ科の小低木。南アメリカのペルーおよびボリビア原産。多くの枝を出し,高さ1~2mのこんもりした樹形をつくる。葉は暗緑色で革質,長楕円形で長さ 6cmぐらいある。主脈の両側に各1本の縦の支脈が目立つ。花は直径4~5mmの白色5弁花で腋生する。果実は楕円形,長さ 1cmぐらいの液果で赤く熟する。葉を乾燥したものがコカ葉で,コカインを主とする数種のアルカロイドを含有し,コカイン製造の原料となる。また先住民はこの葉を石灰とともに噛み,一種の嗜好品として常用している。コカノキ科はコカノキ属だけで1科とされ約 100種の木本があり,多くは南アメリカに生える。このうち数種がコカイン製造の目的で南アメリカや東南アジアの熱帯地方で栽培されている。

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百科事典マイペディア 「コカノキ」の意味・わかりやすい解説

コカノキ

ペルー,ボリビア原産のコカノキ科の低木。葉は革質,暗緑色で,花は白く,紅色楕円状の果実をつける。南米西部,東南アジアなどの多湿な熱帯高地で栽培し,年3〜4回,葉を採集する。かわかした葉をコカ葉といい,コカインの製造原料とする。
→関連項目コカ・コーラ

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