日本大百科全書(ニッポニカ) 「コイ(民族)」の意味・わかりやすい解説
コイ(民族)
こい
Khoi
アフリカ南西部、ナミビアの南部とボツワナ西部の一部に住む遊牧民族。サン人と同じく、舌打音音韻(吸着音、クリック)の頻繁な使用を特徴とするコイサン語族に属する民族。かつて南部アフリカ西岸部に広く分布していたが、白人の進出とバントゥー系農牧民による圧迫により、人口は激減し、その経済・社会も伝統的な形態をほとんど残していない。もっとも純粋な形態をとどめる部族と思われる「ナマ」が、ナミビアを中心として約3万の人口を維持している例を除くと、南アフリカ共和国ではほとんど絶滅したか、あるいはケープカラードとよばれる混血グループに吸収されてしまっている。俗称の「ホッテントット」とはブール語で「どもる人」の意であり、現在ほとんど使用されていない。自らはコイ・コイン(人間のなかの人間)と称する。人種的にはサン人と近似するが、やや背が高く平均身長は男子で約160センチメートル。とくに女性はステアトピギー(脂臀(しでん))と小陰唇の人工的伸長(「ホッテントットのエプロン」とよばれた)を施していたことで有名である。降雨量の少ない半砂漠高原地帯で牛による遊牧生活を送り、男子が飼育管理にあたり、女子が乳を搾る。乳製品を主食とするが、スイカ、トウモロコシ、豆の栽培、鉄砲・罠(わな)による狩猟、野生植物の採集もあわせて行う。部族内に父系外婚氏族があり、それぞれに長がいるが、親族の組織化はそれほど発達したものではなく、政治組織も簡単である。冠婚葬祭などの通過儀礼も、ほかのアフリカ諸民族に比べると簡単であった。キリスト教が入ってくる以前には、霊魂の来世を信じていたと思われる。
[田中二郎]