コアセルベート(英語表記)coacervate

精選版 日本国語大辞典 「コアセルベート」の意味・読み・例文・類語

コアセルベート

〘名〙 (coacervate) 親水性コロイド粒子が、液滴として分離してできたもの。液滴内部の性質は細胞原形質に類似している。生化学者オパーリンは、コアセルベートを地球上における生命起源のごく初期段階と考えた。

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デジタル大辞泉 「コアセルベート」の意味・読み・例文・類語

コアセルベート(coacervate)

親水性コロイド溶液中の粒子が集合して、濃厚なコロイドゾルとなり、小液滴として他の部分から分離したもの。他の物質を付着させたり取り込んだりする性質をもつため、生化学者オパーリンはこれを地球上での生命発生の初期段階と考えた。

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改訂新版 世界大百科事典 「コアセルベート」の意味・わかりやすい解説

コアセルベート
coacervate

水に分散したコロイド粒子が凝集して,コロイド・ゾルに富む微小液滴相と,コロイド濃度の低い周囲の平衡液相とに分離する現象コアセルベーションcoacervationといい,生じた小液滴をコアセルベートという。クリートH.R.Kruytやブンゲンベルク・デ・ヨングH.G.Bungenberg de Jongが,1920年代末にこの現象を研究した。コロイド粒子どうしの凝集傾向と,粒子と媒質液体間の親和性との兼ねあいで起こるもので,ゼラチンの水溶液に適当のアルコールを加えたものがその例である。コロイド成分が複数のときには,特定成分がコアセルベート中に濃縮される現象も起こる。A.I.オパーリンは生命の起源を論じたさい(1936),コアセルベートの特性を重要な一つのモデルとした。生命系の反応の確立にあたっては,成分の局所的濃縮が不可欠との考えからである。その後,濃縮のしくみとしては他の閉じこめや,鉱物質表面への吸着の可能性も論じられるようになったが,コアセルベートは現在でも重要なモデルの一つではある。
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百科事典マイペディア 「コアセルベート」の意味・わかりやすい解説

コアセルベート

親水コロイド溶液において凝結が起こると,コロイド粒子は凝集して液から分離するが,ある条件の下ではコロイド粒子が完全に分離することなく液と平衡状態を保ってコロイドに富む層と乏しい層に分かれてくる。この現象をコアセルベーションといい,コロイドに富む層をコアセルベート,乏しい層を平衡液という。この現象はゴム,タンパク質,ゼラチン,セルロースなど生物細胞にみられる物質において観察されたため生物学的に重要な意義をもつと考えられ,特にオパーリンは細胞内における原形質がコアセルベートと多くの類似点をもつことから地球上の生命発生に重要な役割を果たしたと推定し注目された。→生命
→関連項目生命の起源

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コアセルベート」の意味・わかりやすい解説

コアセルベート
coacervate

コアゼルベートとも記す。親水性コロイド粒子の均等な分散相から,コロイドが分離,集合して生じてきた濃縮された粒子をいう。この現象をコアセルベーションという。コアセルベートが析出したのちの,コロイドが希薄になった水層を平衡液という。2種のコロイドの混合物からは,一方のコロイドが強く濃縮したコアセルベートも生じうる。コアセルベーションはオランダの H. G.ブンゲンベルグ・ド・ヨングにより記載,命名された (1929) が,ソ連の A. I.オパーリンは生命の起原を考察した際 (36) ,コアセルベート生成による物質の濃縮と外液との物質交換を重要な第1歩として重視して,有名となった。

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世界大百科事典(旧版)内のコアセルベートの言及

【オパーリン】より

…1926年に要旨をすでに述べているが,《地球上における生命の起源Vozniknovenie zhizni na zemle》(1936)は,世界的に大きな影響力をもち,大幅に改訂されつつ版を重ねた(3版,1957)。原始生命システムとして,コロイド集合体のコアセルベートを想定しているのは特徴の一つだが,この点は一つの仮説であり,現在,定説となっているわけではない。ほかに生細胞の酸化酵素系や,茶・パンなど農産物の生化学も研究した。…

【生物】より

…具体的にどのようなしくみで,どのようなことが起こったかについては,なおさまざまな説がある。例えば,オパーリンは《地球上における生命の起源》で,原始の海に小さな液滴状のコアセルベートとして生物が誕生したと考え,この説が広く流布されているが,ほかにもいろいろな説がある。いずれにせよ,エネルギー転換にかかわるエネルギーのシステムと,それの方向を指示し,自己保存,自己増殖を行う情報のシステムとが組み合わさったとき,初めて,生物が生じたことは確かである。…

※「コアセルベート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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