ケナガイタチ(英語表記)polecat
Mustela putorius

改訂新版 世界大百科事典 「ケナガイタチ」の意味・わかりやすい解説

ケナガイタチ
polecat
Mustela putorius

ヨーロッパケナガイタチともいう。イタチに酷似するが,毛が長く暗褐色で,尾が黒褐色の食肉目イタチ科の哺乳類。ヨーロッパの森林にすむ。雄は体長35~46cm,尾長11~15cm,体重1kgくらい。雌ははるかに小さく体長34cm以下。上毛はイタチよりもはるかに長く,光沢がある暗褐色~黒褐色で,淡黄褐色の下毛が透けて見える。吻端(ふんたん),ほお,耳介の縁は白色,四肢と尾は黒褐色。低木林や広葉樹林に単独ですみ,夜行性,地上生で,ネズミ,ウサギを主食とし,家禽(かきん)も殺す。肛門腺の分泌液は他のイタチよりもにおいが強い。3~4月に交尾し5~6月に4~6子を生む。ヨーロッパ東部から中国北東部,チベットまでの草原,半砂漠にすむ近縁ステップケナガイタチMustela eversmanni(英名steppe polecat)は,淡色で尾の先半分だけが黒い。家畜のフェレットMustela furo(英名ferret)の原種といわれるが,染色体が違う。北アメリカのクロアシイタチMustela nigripesにも酷似するが,これとも別種らしい。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケナガイタチ」の意味・わかりやすい解説

ケナガイタチ
けながいたち
polecat
ferret
[学] Mustela putorius

哺乳(ほにゅう)綱食肉目イタチ科の動物。ポールキャットともいう。ヨーロッパから近東に分布する。中近東のステップケナガイタチM. eversmanniは別種で、この種と区別するときにはケナガイタチをヨーロッパケナガイタチとよぶ。体長38~46センチメートル、尾長13~19センチメートル。毛色は黒褐色から黄褐色で、顔は白っぽく、目の周囲は黒い。餌(えさ)がある所なら森林、草原、耕作地、人家の周囲にもすみ、尾根裏に営巣することもある。主食はネズミ類であるが、小鳥やヘビ、果実も食べる。カエルも食べるが、好きではない。5、6月に交尾、6週間の妊娠期間で、2~10子を産む。敵に対して肛門腺(こうもんせん)から悪臭の分泌物を出す。この分泌物は縄張り宣言の役割ももつ。

 本種は、少なくとも古代ローマ時代以降、ネズミ退治のために飼育されてきた。こうして成立したやや小形の種類、とくに白色系のものをフェレットM. p. furoとよんでいる。このフェレットはニュージーランドにも移入されて、やはりネズミ退治にある程度の効果をあげている。また、なれたフェレットはウサギ狩りにも使われたほかインフルエンザウイルスに対する感受性が高いため、最近では実験動物としても飼育されている。ケナガイタチの毛皮はフィッチfitchとよばれ、とくに黒色系のものが価値が高い。

朝日 稔]

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