日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
グレー(Thomas Gray)
ぐれー
Thomas Gray
(1716―1771)
イギリスの詩人。ロンドンに生まれ、イートン校を経てケンブリッジ大学に学ぶ。卒業を待たずに友人ホレス・ウォルポールとヨーロッパ大陸に遊んだ(1738~1741)。帰国後母校の特別研究員となり、古典、中世北欧文学、ケルト文学などの研究に没頭し、晩年には歴史および近代語の教授となる。生来のゆううつ癖から終生母校の学寮で学究生活を送る。残した詩作品も断片まであわせて39編、うち生前発表の作品は13編にすぎない。その詩業は1742年の一連のオード(『イートン校遠望の詩』など)に始まり、有名な『墓畔の哀歌』(1751)で頂点に達する。寒村の貧しい農夫たちの墓畔にたたずんで、人の世の不平等と人生のはかなさとを嘆じたこの詩は、感情の抑制、均整の美を重んずる古典主義の伝統に拠(よ)りながら、田園、墓地、たそがれをモチーフに憂愁を歌う。その詩風は時代の先端を行くものであった。この詩のロマン主義的情調はわが国でもいち早く迎えられ、矢田部良吉(やたべりょうきち)訳で『新体詩抄』にも紹介された。ほかに『金魚鉢で溺死(できし)した愛猫に思う』(1748)と題した短いユーモラスなオード、古典や北欧文学の学殖に基づく長詩『吟唱詩人』『詩の歩み』(ともに1757)などがある。
[上島建吉]
『福原麟太郎著『トマス・グレイ研究抄』(1960・研究社出版)』▽『福原麟太郎訳『墓畔の哀歌』(岩波文庫)』