日本大百科全書(ニッポニカ) 「グレゴリウス(1世)」の意味・わかりやすい解説
グレゴリウス(1世)
ぐれごりうす
Gregorius Ⅰ
(540ころ―604)
ローマ教皇(在位590~604)。聖人。西方の四大教会博士の一人。大教皇Magnusと称される。ローマ市の名門に生まれ、若くしてローマ市総督となったが、まもなく修道生活に入る。コンスタンティノープル駐在教皇使節、教皇顧問などを歴任後、意に反して教皇に選出され、最初の修道者出身の教皇となった。登位後は、ランゴバルド勢力の侵攻に対し、弱体化したビザンツ帝権にかわってローマ市および中部イタリアのローマ系住民の保護者の役を担った。アフリカ、西ゴート王国、ランゴバルド王国、フランク王国の諸教会を教皇座に緊密に結び付けようと努め、ケント王国に宣教師団を派遣してアングロ・サクソンの教化に先鞭(せんべん)をつけた。これらの業績によってグレゴリウスを「最初の中世的教皇」とよぶ人もいる。『司牧規則』『道徳論』『対話』をはじめ膨大な著作、説教、書簡があり、近代に至るまで西方キリスト教世界の精神に大きな影響を与えた。典礼改革を推進して「グレゴリウス典礼書」の形成に寄与し、また教会音楽の改良にも力を入れて、いわゆる「グレゴリオ聖歌」の形成過程に一定の役割を果たした。
[出崎澄男 2017年11月17日]