グリンメルスハウゼン(英語表記)Hans Jakob Christoffel von Grimmelshausen

精選版 日本国語大辞典 「グリンメルスハウゼン」の意味・読み・例文・類語

グリンメルスハウゼン

(Hans Jakob Christoffel von Grimmelshausen ハンス=ヤーコプ=クリストフェル=フォン━) ドイツ小説家三十年戦争から戦後にかけて、混乱した世相民衆の姿をあざやかに描く。著に「ジンプリチシムス阿呆物語)」など。(一六二二頃‐七六

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デジタル大辞泉 「グリンメルスハウゼン」の意味・読み・例文・類語

グリンメルスハウゼン(Hans Jakob Christoffel von Grimmelshausen)

[1622ころ~1676]ドイツの小説家。「阿呆物語」は、教養小説の先駆とされる。

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改訂新版 世界大百科事典 「グリンメルスハウゼン」の意味・わかりやすい解説

グリンメルスハウゼン
Hans Jakob Christoffel von Grimmelshausen
生没年:1621か22-76

ドイツの作家。17世紀ドイツのいわゆるバロック小説を代表する《ジンプリチシムスの冒険》(1669)の作者であるが,綴字遊びによる変名を重ねたため長く不詳のままであり,その生涯についても不明の点が多い。ヘッセンに生まれ,古くは貴族の家系であったというが,祖父はパン屋であった。13~14歳のころ三十年戦争の渦中に巻き込まれ,軍隊に拉致されてあちこちで馬丁や兵卒や連隊書記などを務めたのち,戦後バーデン地方で元の上官の領地の管理人や別の城の執事や酒亭のあるじとなり,1667年には小村の村長となっている。戦死と伝えられる死までの約10年間が彼の創作期であるが,多作であり,宮廷的・教養的であることを特徴とする当時の文学者のなかにあって民衆性を守りとおした異色の独学者であった。新教からカトリックに改宗したとされている。彼の名声はひとえに《ジンプリチシムスの冒険》の爆発的な成功によるものであり,《放浪の女クラーシェ》(1670),《変り者シュプリングインスフェルト》(1670),《ふしぎな鳥の巣》(1672-73)など一連のいわゆる悪者小説はすべてそれの〈続編〉として宣伝され,それら以前に書かれた《風刺巡礼》(1666-67),《純潔なヨーゼフ》(1667)などの作品も〈ジンプリチシムスの作者による〉ことがあらためて強調された。グリンメルスハウゼンの文学的位置は,従来いわゆるドイツ教養小説の系譜のなかでのみ論じられるきらいがあったが,バロック時代の主流を占めていたツェーゼンPhilipp von Zesen(1619-89)ら教養派の文学者たちや,貴族的な小説タイプである英雄恋愛小説との対比による考察も欠かせない。グリンメルスハウゼンにも《ディートワルトとアメリンデ》(1670),《プロクシムスとリンピーダ》(1672)という〈理想小説〉があり,しかもそこに作者の本名が名のられているという事実は,野性味あふれる写実的な健康な笑いの世界の隠れた一面をうかがわせるものである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「グリンメルスハウゼン」の意味・わかりやすい解説

グリンメルスハウゼン
ぐりんめるすはうぜん
Hans Jakob Christoffel von Grimmelshausen
(1622?―1676)

ドイツの小説家。ドイツ・バロックの小説のなかで唯一現在でも愛読されている『阿呆(あほう)物語』(1669)の作者であるが、若いころのことはよくわかっていない。後年は南ドイツの小村レンヒェンで過ごし、一時その村長を務めた。全部で約20編の著作がある。『阿呆物語』は三十年戦争を背景として、主人公が幼少のころから混乱の世の中へ投げ出され、数奇な運命にもてあそばれながら、悲惨と滑稽(こっけい)が同居する人生の諸領域をさまよい、ついには世の無常を悟り、隠者となって神との和合のなかに魂の平安をみいだす過程を描いている。しかし、一人間の体験記、成長記のたぐいではなく、有為転変の生の実相を多角的に教示するのが主眼である。ドイツにおけるピカロ小説の代表であるが、内容、構成、叙述方法ともに洗練されており、本格的長編小説の到来を告げるものである。グリンメルスハウゼンは民衆的作家で、当時主流であった宮廷文人とは異なるが、主として独学により驚異的学識を身につけており、その作品には娯楽性と同時に、深い思想性、宗教性がある。それが彼を不滅の詩人たらしめている理由であろう。

[義則孝夫]

『望月市恵訳『阿呆物語』(岩波文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グリンメルスハウゼン」の意味・わかりやすい解説

グリンメルスハウゼン
Grimmelshausen, Hans Jakob Christoffel von

[生]1622頃.ゲルンハウゼン
[没]1676.8.17. レンヘン
ドイツの小説家。三十年戦争のさなか,12歳で戦乱に巻込まれ,1648年まで兵役につく。捕虜になったり,貴族に仕えたり,料亭を経営したりの波乱に富んだ人生をおくり,67年からレンヘンの村長をつとめた。ドイツ・バロック時代の最高傑作といわれ,スペインの悪者小説の流れをくむ代表作『ジンプリチシムス (阿呆物語) 』 Der Abenteuerliche Simplicissimus Teutsch (1669) には三十年戦争の生々しい描写がみられる。当時の主流をなした宮廷文学に対して,民衆の1人を主人公に,その弱さ,醜さ,罪深さ,神々しさを描こうとしたこの小説は1人の人間の成長を追求した点で,ドイツ教養小説の系譜のなかに数えられる。初め黙殺されていたが,ロマン派によって再評価され,第1次世界大戦後には特に研究が盛んになった。

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百科事典マイペディア 「グリンメルスハウゼン」の意味・わかりやすい解説

グリンメルスハウゼン

ドイツの作家。三十年戦争の戦乱で両親を失い,やがて兵士となって各地を転々とし,その経験をもとに自伝的小説《ジンプリチシムスの冒険(阿呆物語)》を1669年に発表。若い男が魂の平和を得るために世を捨てるまでの物語は大成功を収めた。
→関連項目教養小説悪者小説

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世界大百科事典(旧版)内のグリンメルスハウゼンの言及

【ジンプリチシムスの冒険】より

グリンメルスハウゼン作の小説。1669年刊。…

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