クローン(英語表記)clone

翻訳|clone

精選版 日本国語大辞典 「クローン」の意味・読み・例文・類語

クローン

〘名〙 (clone) 無性的生殖により生じた、遺伝子組成を同じくする生物集団をさす。個体、細胞、遺伝子の三段階がある。いずれの場合も同じ一個のコピーと考えることができる。クローン苗、クローン牛クローン羊などが作り出されている。
※人間改造の医学(1965)〈水野肇〉第三の壁「特定の鍵穴をつくるクローン(細胞群)を選びだして」

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デジタル大辞泉 「クローン」の意味・読み・例文・類語

クローン(clone)

一つの細胞または個体から、受精の過程を経ず、細胞分裂を繰り返すことによって生ずる細胞群または個体。全く同一の遺伝子構成をもつ。栄養系分枝系
複製。本物にそっくりの模造品。本物と同等に機能する代替品。

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改訂新版 世界大百科事典 「クローン」の意味・わかりやすい解説

クローン
clone

生物学において,同一の遺伝資質をもった個体群を指す用語。現在では細胞や遺伝子についても一群のコピーをいう場合に用いられる。クローンとは,元来はギリシア語klōnで〈小枝〉という意味である。1本の木から出る小枝は,なん本あっても遺伝的に同じ資質をもっていることから,ウェッバーH.J.Webberが初めてこの語を上のような生物学的意味をもつものとして使った(1903)のに始まる。

 自然界において,無性生殖(栄養生殖)によって作られる一群の子孫の生物個体は,すべて同じ遺伝資質をもったコピーであって,クローンである。この場合のクローンには栄養系という訳語が用いられることもある。有性生殖を営む生物の場合では,まれに生ずる一卵性の多生児はクローンであるが,それ以外にはクローンは自然界ではきわめてまれにしか実在しない。いわば,有性生殖は自然界においてクローンの作られることを禁止しているのである。しかし,自然では有性生殖を営む生物にでも実験によってクローンを作ることができる。植物では,ごく小さな組織片や,1個の細胞を増やすとそれぞれが一つのりっぱな植物個体を作る。したがって,一つの植物体から,いくつもの組織片や細胞をとり,それぞれを個体に育て上げることによってクローンを作ることができる。これと同じような実験は動物では成功しない。動物では,ごく若い胚を二分,四分すると,それぞれが個体に発生できる場合があるが,こうして作られた個体はクローンである。また,一つの個体の細胞の核だけを抜きとり,その一つ一つを受精卵の核と置き換えたのちに発生させて,もとの核をとってきた個体と同じ遺伝資質をもったクローンを作ることが,カエルやいくらかの哺乳類で成功している。

 クローン個体を作る実験は,生物の発生のしくみを理解するうえで重要な意義をもっている。また,この実験によって,ある特定な遺伝資質をもった個体を多数作りだせることになるので,生物生産の面での利用もある。しかし,応用面への利用は植物の場合で期待されるが,動物についてはなお効率は低い。

 クローンを細胞集団についていう場合は,1個の細胞の増殖によって作られてきたものについていう。試験管の中で1個の細胞を培養し,これを増殖させて得られたクローン細胞集団は医学・生物学の種々な問題を研究するために広く用いられている。一方,現在では,多くの腫瘍,癌はクローン細胞集団と考えられているが,これは,元来はただ1個だけの細胞が癌化へ変化し,それが増えて作られたもの,という意味である。

 クローンという語は,遺伝子についても使われる。どのような生物種からでも,ある特定の遺伝子だけを分離し,プラスミドと結合させ,大腸菌などの微生物に取り込ませることができる。取り込まれた遺伝子は,宿主の微生物の速やかな増殖につれて,同じようにどんどん増えてゆくので,この特定の遺伝子のコピーがいくらでも作れる。これをクローン化された遺伝子と呼ぶ。この技術を用いたものが遺伝子工学で,基礎的研究,応用面にひじょうな効力を発揮するものと思われる。
遺伝子工学
執筆者:

1996年にイギリスのイアン・ウィルムットらは〈ドリー〉と名付けられたクローン羊をつくりだすことに成功した(論文発表は97年2月)。これはメス羊の未受精卵の核を除去し,別のメスの乳腺細胞の核を移植することによって生まれたもので,ドリーはメス羊とまったく同じ遺伝子をもつところから,クローン人間の可能性とそれがはらむ倫理的問題をめぐって大きな議論を呼んだ。畜産業においては若い胚の細胞を分割してクローン牛(この場合遺伝子は父親と母親から半分ずつ受け継いでおり,親とはクローンではない)をつくる技術はすでに確立しているが,親の細胞からとった核での真の意味でのクローン動物の誕生は画期的なものといえる。哺乳類では一般に大人の細胞の核は分化をとげているため,卵のなかでうまく働かせることができないが,この実験では,移植する細胞の核に〈初期化〉と呼ばれる処置を施すことによって困難を克服した。その後,日本でもこの手法を用いた同様のクローン牛の誕生が報告されている。
執筆者:

クローン
khlong

タイ語で運河水路を意味する。もともとクローンはモン語の〈道〉〈路〉を意味する語に起源すると考えられ,タイ語になって,河川に結合する自然の,また人工的な水路を意味するようになった。タイ中部で話される標準タイ語(シャム語)においてのみ使われ,北部や東北部などの方言(ラオ系諸語)では使用されない。中部タイの住民の間では,クローンは近隣の人々と交際する日常の通路であり,また舟運の行きかう交易路でもある。クローンはさらにその近くに住む住民にとって洗濯場であり,水浴場であり,乾季においては飲料水としてその水は利用される。中部タイのクローンの利用および開削は,アユタヤ朝(1350-1767)からラタナコーシン朝初期(1782-1868)にかけて大規模に進展した。それらの多くのクローンは,アユタヤからバンコク,さらに海岸にかけてのメナム川チャオプラヤー川)の蛇行する水路を短縮するために開削されたものであり,水路交通の合理化をはかるものであった。河川の蛇行する部分を短縮する運河はクローン・ラット(短絡運河)と呼ばれる。このようなクローンの建設は,まず何よりもタイ王室独占貿易の拡大のための基礎的事業であった。これらのクローンの開削のためには膨大な数の徭役農民の労働力が投入された。

 クローンのもつ意味は,19世紀後半において変化してくる。西欧植民地勢力のアジアへの進出によって,タイは世界資本主義体制の一環に組みこまれ,米輸出経済のもとに再編成される。メナム川のデルタは輸出米生産のための穀倉地帯に変化していき,クローンの機能も大きく変わる。この時期以降,多くのクローンは,輸出米生産のための耕地拡大をめざす灌漑用水路として,また荒蕪地開拓への通路として開削されることになる。デルタの下流部においては,王族,官僚貴族による大規模なクローンの開削が展開し,その沿岸には彼らの大土地所有が実現していった。これらのクローン開削による新田開拓の最大のものは,パトゥムターニー県を中心とするランシット運河体系で,多くの王族や中国人,西欧人が関与していた。ランシット運河地域を含むデルタ下流部においては,今日にいたるまで,地主・小作間の争いが絶えない。
執筆者:

クローン
Kaarle Krohn
生没年:1863-1933

フィンランドの民俗学者。フィンランド民俗学の創始者ともいうべき父ユリウス・クローンJulius Krohn(1835-88)のあとをうけて,民族叙事詩《カレワラ》研究に一時期を画し,父の創出した〈歴史・地理学的方法論〉を昔話研究を通して確立,弟子のアールネと共にフィンランド学派の評価をゆるぎのないものにした。ヘルシンキ大学最初の民俗学担当講師に任ぜられ,やがてフィンランド民俗学および比較民俗学,フィンランド語,フィンランド文学の教授を永年つとめ,研究のかたわら,すぐれた教師として広い分野にわたって有能な後継者を育成し,フィンランド学派の方法論と学風を浸透させた。1907年,彼を中心に設立された民俗学研究者連盟の会報は《F.F.C.(Folklore Fellows Communication)》の名をもって,世界各地の研究者たちのあいだでの資料の交換や研究成果の発表の場として,標題通りの役割を果たしている。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クローン」の意味・わかりやすい解説

クローン
clone

単一の細胞または個体から無性的に増殖した遺伝的に同一の細胞・個体の集団。植物と動物の体細胞は,単一の受精卵の有糸分裂からできたクローンであるから,クローニングは大半の動植物の根源的現象といえる。狭義には,親の一つの体細胞から育った遺伝的に同一の個体と定義できる。無性増殖する植物は,遺伝的に同一の個体すなわちクローンを生み出す。園芸では太古の昔からクローニングが行なわれてきた。挿し葉や挿木,株分けがそれで,果樹や観葉植物のほとんどがクローンである。成長した動物や人間の体細胞のクローニングは,研究施設で日常的に行なうことができるようになっている。筋肉細胞などさまざまな組織細胞を成体の動物から取り出して培養,細胞分裂を続けさせることによって同一の細胞群をつくりだす。1950年代にはすでにカエルのクローンづくりが成功し,元のカエルとまったく同じ遺伝情報をもつクローン・カエルが生み出された。体細胞の核に含まれたデオキシリボ核酸 DNAを,除核した卵母細胞に移植する手法であった。この融合細胞が通常の受精卵と同じように細胞分裂し,から個体へと成長する。
1980年代にはクローン・ハツカネズミが誕生した。妊娠したハツカネズミの子宮から胚を取り出し,その体細胞の核を別のハツカネズミの除核した受精卵に移植し,この細胞を培養して胚にし,それを別のハツカネズミの子宮で成長させるという手法であった。成体の細胞からクローンをつくることははるかに難しい。動物のほぼすべての細胞には個体全体をつくりだす遺伝情報が含まれているが,すでに組織や器官に分化した細胞は,その複製に必要な遺伝情報しか伝えなくなる。そのためクローニングも,まだ血液や皮膚,骨などに分化していない胚細胞からにかぎられる傾向にあった。
成長した哺乳動物のクローンづくり(→クローン羊)に初めて成功したのは 1996年,イギリス,ロスリン研究所のイアン・ウィルムット博士率いる研究チームである。クローニングの実用化は経済的に有望視されている。畜産業者は高品質の家畜のクローンづくりを歓迎するだろうし,遺伝子組み換え動物のクローニングによって,薬あるいは治療に役立つ蛋白質の生産を増やすこともできよう。また生物学的研究にも,遺伝的に同一なクローンは大いに有用である。人間のクローンづくりは,倫理的・道徳的問題をはらんでいる。クローニングがある特定の遺伝的特性の複製を無限にもたらすものだとすれば,どの特性がそれに値するのか判断をくだす必要があり,それを託される人々は,人類の進化の道筋を変える立場に立つことになる。DNA組み換え技術の遺伝子操作への応用は,遺伝子クローニングとも呼ばれる。

クローン
Krohn, Kaarle

[生]1863
[没]1933
フィンランドの民族学者。フィンランドの民族叙事詩『カレワラ』の研究に従事し,その方法を確立,発展させた。『カレワラ研究』 Kalevalastudien (6巻,1924~28) ,『民俗学方法論』 Die folkloristische Arbeitsmethode (26) などの著書がある。

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百科事典マイペディア 「クローン」の意味・わかりやすい解説

クローン

単一の細胞または共通の祖先から無性的に増殖して生じた遺伝組成の同じ細胞群あるいは個体群。ふつう培養条件を適当に選び,1個の細胞を無性的に増殖させるクローン培養によって細胞群を得,細胞の遺伝や分化の研究に使われる。最近では遺伝子工学の発達で遺伝子のクローン化が行われるようになった。すなわち,ある特定の遺伝子DNAを分離し,これをプラスミドDNAと結合させて大腸菌のような細菌に取り込ませて増殖させ,必要とする遺伝子(もとの遺伝子のクローン)を大量に生産し,またはその遺伝子によって生成される物質を利用する試み。また,抗体産生細胞と骨髄腫細胞を融合させて単一の抗原に対する抗体のみを大量につくりだすモノクローナル抗体の手法は,医学・生物学に広く応用されている。カエルでは一つの個体から得た多くの核を無受精卵に移植し,同じ遺伝組成をもつ多数の個体を得ることに成功している。1996年には,羊の成獣の乳腺から取り出した細胞を用いた,遺伝子が親と同一のクローン羊(〈ドリーDolly〉と命名)が英国で誕生した。なお,SF小説では同様な手法で同じ遺伝組成をもつ複製人間をつくり,クローン人間などといわれている。日本では2000年11月,特定の人間とまったく同じ遺伝情報をもったクローン人間を生み出すことを禁止した〈ヒトクローン技術規制法〉が成立した。同様の規制法は英国,フランス,ドイツなどですでに成立している。→クローン牛
→関連項目遺伝子工学純系純粋培養人工赤血球バイオエシックス

クローン

フィンランドの民俗学者,言語学者。フィンランド民俗学を創始した父ユリウス・クローン〔1835-1888〕の後を継いで〈カレワラ〉研究を志し,スウェーデンの研究者と論戦を展開,多くの著作を残した。またアールネとともに民俗学を大成,名著《民俗学方法論》(1926年)がある。

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知恵蔵 「クローン」の解説

クローン

もともとは、単一細胞から分裂増殖した細胞集団を意味したが、類似するという意味で、一般的に幅広く使われる。(1)組み換えDNA技術によって得られた多数の特定DNA断片をDNAクローンと呼び、これを得ることをクローン化(クローニング)という。特定の遺伝子DNAを増幅させた場合は、遺伝子クローン、遺伝子クローニングという。(2)ウイルスは細胞内で増殖するが、1個のウイルス粒子に由来する子孫の集団をクローンと呼ぶ。(3)細胞培養において、1個の細胞に由来する細胞集団をクローンと呼ぶ。(4)個体では、無性的な生殖で増えた個体をクローンと呼び、遺伝的な構成(全遺伝子)が同一である。植物ではクローン個体は容易に得られ、挿し木や取り木などによって栄養繁殖的に生じた個体はクローンである。細胞培養や組織培養によっても多数の植物体を成長させることができ、これらもクローンである。動物では、受精卵クローンと体細胞クローンのクローン個体が作製されている。

(川口啓明 科学ジャーナリスト / 菊地昌子 科学ジャーナリスト / 2007年)

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デジタル大辞泉プラス 「クローン」の解説

クローン

2001年製作のアメリカ映画。原題《Impostor》。フィリップ・K・ディックのSF短編「にせもの」の映画化。監督:ゲイリー・フレダー、出演:ゲイリー・シニーズ、マデリーン・ストウ、ビンセント・ドノフリオ、トニー・シャローブほか。

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栄養・生化学辞典 「クローン」の解説

クローン

 (1) 同一の遺伝的特性をもつ個体の集団.(2) 遺伝子工学で分離増殖された特定のDNA断片.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

化学辞典 第2版 「クローン」の解説

クローン
クローン
clone

[別用語参照]クローニング

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ASCII.jpデジタル用語辞典 「クローン」の解説

クローン

オブジェクト指向言語におけるオブジェクトの複製、またはそれを作成すること。

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世界大百科事典(旧版)内のクローンの言及

【インディアカ】より

…羽根のついた平たいボールを素手で打ち合うゲーム。ドイツのスポーツ教師クローンKarlhans Krohnが,1936年にブラジルの伝統的なゲーム〈ペテカpeteca〉にヒントを得て考案した。ペテカは,砂やおがくずを詰め込んだ円錐形の基体に大きな七面鳥の羽根3枚をつけて打ち合って遊ぶもの。…

【フィンランド】より

…白大理石のフィンランディア・ホール(1971)は彼の優美な記念碑で,またヘルシンキ郊外のタピオラは田園都市計画の見本とされている。
[学術研究]
 フィンランドでは民間伝承や民俗信仰に関する資料が全国で組織的に収集されていて,これに基づき民話を地理的・歴史的に比較考証してその原型と伝播経路を探究する民俗学的研究法がクローンにより打ち立てられた。またアールネの提起した昔話分類法は世界的に利用されている。…

【フィンランド学派】より

…民俗学の一学派。フィンランドのユリウス・クローンJulius Krohnが民族叙事詩《カレワラ》の歌謡群の研究に採用した〈歴史・地理学的方法〉を,彼の子カールレ・クローンとその弟子アールネとが昔話の研究に適用して確立した方法論による一派で,またその学風をも指す。昔話研究の場合は,できる限り多くの類話を集めて,その地域的・年代的相違を比較研究しながら,原型,発生地,成立時期,伝播経路などをさぐって昔話の基本形式を求めることを目的とするが,カールレの弟子のなかでもU.ハルバやマンシッカV.J.Mansikkaなどは民間信仰や呪文の研究に応用して成果をあげた。…

【栄養系】より

…普通の受精に頼らないで,無性生殖の形でたくさん作られる子孫のこと。分枝系,クローンともいう。このような繁殖のしかたを栄養繁殖という。…

※「クローン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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