クロス売買(読み)くろすばいばい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロス売買」の意味・わかりやすい解説

クロス売買
くろすばいばい

証券取引所における売買方法の一つ。単にクロスcrossともいう。1967年(昭和42)の「ばいかい」廃止後にそれにかわって採用された、競争売買の一つ。クロス売買は、大量の売り買い注文を別々に立会場に出すと、株価変動を与えることになるため、その防止策としてとられた売買方法である。同一の証券会社が同一銘柄について、同一値段、同株数の売り注文と買い注文を一挙に売買させる点では、ばいかいと同じであるが、ばいかいが市場内の他の売買注文と関係なく行われるのに対し、クロスでは、同一値段での時間的に優先する他社の注文があるときに、それらを先に成立させなければならないという自主規制があった。そのほか、業界の自主規制としては、自己売買でつくった値段ではクロス売買を行わない、クロスの商いでは自己の空(から)売りを避けるなどというものがあった。しかし、1998年(平成10)12月の取引所集中義務の撤廃によって、このようなクロスにおける自主規制の多くが実効性をもたなくなった。つまり、取引所外で相対取引を行うのであれば、証券会社自身が相手方になって注文を受けることが可能であるうえに、立会外取引であれば、立会内取引とは異なり、「価格優先原則」「時間優先原則」が適用されないので、他社の注文に惑わされることがなく当該取引を約定することができる。このようなことからクロスの取引所を利用した取引は減少し、おもに立会外取引により行われるようになった。このようななか、2000年から適用された「金融商品に係る会計基準」(時価会計)において、クロス取引は会計上「売買として処理しない」ことになったことから、企業の益出しのためにクロスを行う必要性がなくなった。これを受けてクロスは、大口以外では、個人投資家による「株主優待ねらい」に用いる程度にとどまっている。なお、クロスで「高値」や「安値」をつけることは、相場操縦となる可能性が高いため、金融商品取引法上、禁止されている。

[桶田 篤・前田拓生]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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