日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
クレーン(Harold Hart Crane)
くれーん
Harold Hart Crane
(1899―1932)
アメリカの詩人。オハイオ州の富裕なキャンディー商を父として生まれる。13歳から詩作し、17歳のとき、大学入学の準備でニューヨークに出る。しかし、ここで詩人仲間に加わり、進学を放棄。その後、T・S・エリオット、E・パウンドらに学び、しだいに詩人としての地位を固めた。しかし猛烈な詩作活動と生活上の破綻(はたん)は、彼をアルコール中毒と同性愛に追いやり、投身自殺の原因をつくった。詩集に『白いビルディング』(1926)、『橋』(1930)があり、高度に凝縮された詩語とイメージの難解な作品だが、同時代アメリカ詩人のなかでも批評的声価は最高を極める。
T・S・エリオットが『荒地(あれち)』で意図したヨーロッパ文明崩壊のビジョンに対抗すべく、クレーンは長詩『橋』でアメリカの文学的、文化的伝統に基づく肯定的ビジョンを創造しようと試みた。だが、生来の叙情的資質と、モダニスティックな手法は、相いれなかったようである。
[徳永暢三]
『徳永暢三著『ことばの戦ぎ』(1979・中教出版)』▽『鍵谷幸信編『現代詩集Ⅱ アメリカ イギリス』(『世界詩人全集21』所収・1969・新潮社)』