クマツヅラ(英語表記)vervain
common verbena
Verbena officinalis L.

改訂新版 世界大百科事典 「クマツヅラ」の意味・わかりやすい解説

クマツヅラ
vervain
common verbena
Verbena officinalis L.

野原や低地の道端に生える,高さ30~80cmのクマツヅラ科の多年草。茎は直立して方形,まばらに毛がある。葉は対生して3裂し,裂片はさらに羽状に分かれ,長さ3~10cm,幅2~5cm。この形からfrog's-footpigeon's-foot英名がある。6~9月ころ,枝先に細長いまばらな穂状花序を作って,小さい淡紫色の花をつける。花は直径約4mm,小さい苞に抱かれて1個ずつまばらにつき,柄がなく,下の方から順次に上の方に咲いていく。萼は長さ約2mm,緑色で五つに分かれ,毛がある。花冠は中ほどで少し曲がった筒部があり,先は5裂して,裂片はほぼ水平に開出する。おしべは4本,花冠の筒の中につき,花糸はごく短い。果実は長さ約1.5mmの楕円形の4分果に分かれる。アジア,ヨーロッパ,アフリカ北部に広く分布する。全草にベルベナリンverbenalinという配糖体を含み,消炎,止血作用が知られ,漢方では通経,発熱,黄疸,下痢,水腫などに用いられる。民間薬として葉をもんで皮膚病につけたりする。

双子葉植物,約100属2600種がある。クサギのような木本からクマツヅラのような草本まであり,世界中に広く分布し,とくに熱帯暖地に多い。葉は托葉がなく,ふつう対生するが,まれに輪生することもあり,単葉かまたは複葉となる。腺点があったり,しばしば特殊な臭気をもつものがある。花は両性で,多少ゆがんで左右相称となる。萼は4~5裂するか,歯牙があり,果実の時まで残っている。花冠は合生して筒部のある合弁花冠となり,先は4~5裂して平開する。おしべは4本のものが多く,まれに2本,または5本のものもある。葯は2室で縦裂する。子房は上位で,先に1本の花柱があり,4室のことが多いが,まれに2室のものから8室のものまである。胚珠は各部屋に1~2個。果実は核果または液果となり,美しく色づくものもある。チークは熱帯の有用材として植林され,また花がきれいなためランタナバーベナなど多くの園芸植物がある。
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古代ギリシアローマではクマツヅラは重要な神事用の植物であり,占いや呪術あるいは薬用に使われた。英名vervainは一説によると,ケルト語ferfaen(fer=取り去る,faen=石)に由来し,膀胱結石の妙薬とされたことから生じたという。キリスト教伝説では,キリストがかけられた十字架の下でこの草が見つかり,その出血を止めたとされる。肝臓病,咽喉のはれの治療や催淫にも効果があり,ローマでは軍神マルスにささげられ,和睦交渉や宣戦布告を行うのにこの草の輪を携行する風習があった。花言葉は〈魔術〉〈魅惑と愛情〉。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クマツヅラ」の意味・わかりやすい解説

クマツヅラ
くまつづら / 熊葛
[学] Verbena officinalis L.

クマツヅラ科(APG分類:クマツヅラ科)の多年草。茎は四稜(しりょう)形で、高さ0.3~1メートル。葉は対生し、3裂または羽状に中裂ないし深裂する。6~10月、枝先に長い穂状花序をなし、淡紅紫色の小さな5弁花を開く。丘陵帯の道端や野原に生え、本州、四国、九州、沖縄およびアジア、ヨーロッパ、アフリカ北部に分布する。全草乾燥したものを馬鞭草(ばべんそう)と称し、通経薬や腫(は)れ物の薬として用いられる。クマツヅラ属は雄しべは4本、果実は4分果からなる。世界に約45種あり、そのうち日本に1種が分布する。

[高橋秀男 2021年10月20日]

文化史

古代エジプトでは農業の女神イシスの涙に例えられ、儀式で燃やされた。また、古代のギリシア・ローマ、ペルシアおよびケルトのドルイド教徒たちもこの花を神事に用い、属名のウェルベナVerbenaはラテン語で「祭壇を飾る植物」を意味する。キリスト教伝説によれば、十字架上のキリストの出血を止めた花とされ、中世ヨーロッパでは霊草として魔女除(よ)けや不眠予防、未来の予見、煩悩断ち、催淫(さいいん)、鎮静など、さまざまに用いられた。

[湯浅浩史 2021年10月20日]


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百科事典マイペディア 「クマツヅラ」の意味・わかりやすい解説

クマツヅラ

本州〜沖縄,ユーラシア,北アフリカの暖〜熱帯に分布し,日当りのよい野原などにはえるクマツヅラ科の多年草。茎は四角形で枝分れし,高さ60cm内外,卵形で切れ込みのある葉を対生。夏〜秋,枝先に紫色の小花を多数,穂状につける。花冠は径約4mm,下部は筒状で先が5裂する。全草を薬用とする。

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