クマサカガイ(読み)くまさかがい(英語表記)carrier shell

改訂新版 世界大百科事典 「クマサカガイ」の意味・わかりやすい解説

クマサカガイ (熊坂貝)
carrier shell
Xenophora pallidula

クマサカガイ科の巻貝。殻は高さ4cm,太さ7cmに達し,円錐形底面は平らで広くややくぼむ。殻の上に貝殻小石を付着させ貝殻を補強しているが,すんでいる海底の状況で貝殻を多くつける場合と石を多くつける場合とがあり,戯れに前者を〈conchologist貝類学者〉,後者を〈geologist地質学者〉ということがある。二枚貝を付着するときは必ず内側を上にしており,また細長い巻貝の場合は通常細いほうから付着させる。このいろいろな貝殻や岩石を付着させた状態を,有名な盗賊熊坂長範七つ道具を背負っている姿に見たててこの名がある。ふたは薄く黄色。房総半島から九州,さらに西太平洋の水深30~200mの砂れき底にすむ。キヌガサガイTugurium exustumはこの種に似るが,殻表は黄褐色で,貝殻は幼時にはつけるが,成長するとつけなくなる。房総半島から九州,さらに西太平洋の水深20~200mの砂泥底にすむ。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クマサカガイ」の意味・わかりやすい解説

クマサカガイ
くまさかがい / 熊坂貝
carrier shell
[学] Xenophora pallidula

軟体動物門腹足綱クマサカガイ科の巻き貝。殻は薄質で低い円錐(えんすい)形。殻表には他の貝殻(多くは死殻であるが、ときには生きた貝)をつけているのを、盗賊の熊坂長範(くまさかちょうはん)が七つ道具を背負っているのに見立てて(あるいは多くの貝を盗んだためとする説もある)この名がある。房総半島以南の西太平洋、インド洋に広く分布し、水深30~200メートルの泥底にすみ、漁網にもかかる。殻本体の殻高40ミリメートル、殻径100ミリメートルに達し、殻表には斜めのしわと筋(すじ)があり、二枚貝の死殻は内面を表側にして付着させる性質がある。殻底は平らで黄白色、成長線と細かい筋が交差しあう。臍孔(へそあな)は狭い。蓋(ふた)は薄く外側に核がある。他の貝殻を付着させる習性は、擬態のためより貝殻の補強と思われる。ヨーロッパ、アメリカにも同属の貝がいて、貝殻を多くつける種を貝類学者conchologist、小石をつける種を地質学者geologistとあだ名している。

[奥谷喬司]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クマサカガイ」の意味・わかりやすい解説

クマサカガイ
Xenophora pallidula; carrier shell

軟体動物門腹足綱クマサカガイ科。殻高 4cm,殻径 10cm。殻は白色,円錐形で,殻底は平らで広い。殻表に貝殻や石などを付着させながら成長する。この様子を盗賊熊坂長範が七つ道具を背負っている姿に見立てたのが和名の由来。また,貝殻を多くつけた個体を「貝殻学者」 conchologist,石をつけたものを「地質学者」 geologistとたわむれに呼ぶことがある。房総半島以南の西太平洋海域に広く分布し,水深 100~200mの貝殻の多い礫底にすむ。以前は貝殻をつけるのは擬態とされていたが,いまは殻の補強のためではないかと考えられている。近似種ホンクマサカガイ X.japonicaはやや小型で殻底の黄色が強く,クマサカガイよりもやや浅い海にすむ。

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百科事典マイペディア 「クマサカガイ」の意味・わかりやすい解説

クマサカガイ

クマサカガイ科の巻貝。高さ4cm,径7cmに達する。殻は非常に薄く,白色。殻表に石や貝殻を付着させるので,熊坂長範の七つ道具を背負った姿に見たててこの名がある。房総半島以南,西太平洋,インド洋に広く分布し,水深30〜200mの砂礫底(されきてい)にすむ。

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