クノッソス宮殿(読み)クノッソスきゅうでん

精選版 日本国語大辞典 「クノッソス宮殿」の意味・読み・例文・類語

クノッソス‐きゅうでん【クノッソス宮殿】

(クノッソスはKnossos) 紀元前一七世紀頃、古代ミノア文明の中心地であるエーゲ海クレタ島北岸のクノッソスにあった宮殿ミノス王建造中庭のまわりに数百小室を配した複雑な設計で、迷宮として名高い。一九〇〇年イギリス人のエバンズ発掘

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クノッソス宮殿」の意味・わかりやすい解説

クノッソス宮殿
くのっそすきゅうでん

クレタ島北岸中部の都市イラクリオンより約5キロメートルのクノッソスKnossos(古代名クノーソスKnosos)にある宮殿遺跡。伝説の王ミノスの居城とされ、1900年以降、主としてアーサー・エバンズの指揮下にイギリスの調査隊が発掘した。建造は紀元前2000年ごろに始まり、政治、経済、祭祀(さいし)の中心として繁栄したが、前1700年ごろに、おそらく地震によって崩壊した。ただちに再建活動が始まり、比較的短期間に、以前にもまして壮麗な大宮殿が完成した。現存遺構大部分は、この新宮殿のものである。建物は、丘陵斜面に、約30メートル×60メートルの長方形の中庭を囲んで数百の小室が配置され、部分的に、地下室、2~3層の上部構造、大階段、倉庫群などよりなる。建築上の特色としては、権威主義的な城門や行列路をもたず、また城壁堡塁(ほうるい)などの防備施設はほとんどないのに対し、採光用の吹抜け、陶管を利用した給排水設備など、生活面への配慮が注目される。機能的には、中庭の東側は王や貴族たちの居住区に、西側は祭儀や政治・経済に関する公的スペースにあてられていた。これらの主要な部屋は壁画や彩色浮彫りで飾られており、多くは断片でしか残らないが、古代世界の絵画遺例として重要視される。おそらくミノス王自身と考えられる等身大の「プリースト・キング」、しゃれた感覚の「パリジェンヌ」、当時の宗教儀礼を兼ねた「牛跳び」、北入口のテラスに描かれていた「突進する雄牛」など、とくに名高い。クノッソス宮殿跡からは多数の土器、金属器、象牙(ぞうげ)やファイアンス製の像や器物も出土している。いわゆる線文字A(未解読)、同B(解読)を記した粘土板も出土し、その多くは、エーゲ文明史の解明に貴重な資料を提供しつつある。

 前1400年ごろに始まるギリシア本土からのアカイア人の移住によって、クノッソスもミケーネの支配下に置かれたと推測され、その後は衰亡に向かう。なお、ギリシア神話のテセウス、アリアドネ、半人半牛の怪物ミノタウロスにまつわる伝説の舞台となった「迷宮」(ラビリントス)は、このクノッソス宮殿と考えられている。傾斜面に多数の小室が複雑に配置された建物の状況から、このような伝説が生まれたのであろう。宮殿跡の出土品や壁画のモチーフに牛が頻繁に登場することも、それを裏書きしている。

[友部 直]


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