クサリヘビ(英語表記)viper
adder

改訂新版 世界大百科事典 「クサリヘビ」の意味・わかりやすい解説

クサリヘビ
viper
adder

クサリヘビ科のうち,ピット頰窩(きようか))をもたない毒ヘビ総称で,クサリヘビ亜科Viperinaeにまとめられる。ヨーロッパ,アジア,アフリカ大部分に9属51種が分布し,北限はスカンジナビア半島の北極圏付近に達するが,日本を含む東アジアには分布しない。クサリヘビ類は三角形の頭部と短い尾のずんぐり形で,上あご前部に長大な毒牙(どくが)(管牙)をもつが,ピットを欠く。すべて卵胎生で20~60匹の子ヘビを生む。毒性が強く,主成分出血毒に加えて多量の神経毒をも含むため,すべてが危険種。パキスタンからインド,東南アジア,中国南部,台湾に広く分布するラッセルクサリヘビVipera russellii(英名Russell's viper/daboia)は全長1~1.5mくらいでもっとも危険な種とされ,大型なものが生息する熱帯アジアでは,とくに被害が大きい。胴は太くて短く,体背面には鎖状の斑紋が並ぶ。和名もこれによる。毒性が強く,神経質で攻撃的な本種の致命率はコブラを上回る。生息密度が高くて居住区付近にも分布し,しかも夜間にネズミ類を求めて人家にも侵入してくる。興奮すると胴を膨らませシューッと激しく音を立てて威嚇し,ほとんど胴を地面から離すようにしてとびかかる。中東からインドに分布するトゲクサリヘビEchis carinatusは,全長40~60cmの小型ながら毒性が強く,危険性キングコブラなみといわれる。乾燥地帯の砂地にすみ,興奮するととげが並ぶ体鱗をこすり合わせて音を立て,自衛の警告信号を発する。アフリカ産のクサリヘビ類には美しい色彩斑紋をもつものが多く,とくに南アフリカから西アフリカに分布するガブンバイパーBitis gabonica(全長1.5m)は,世界の毒ヘビ中もっとも美しいとされる。しかし斑紋は生息地のブッシュ内では効果的な隠ぺい色となり,発見されにくい。変り種はアフリカ北部の砂漠地帯に生息する小型のスナクサリヘビCerastes cerastes(全長約60cm)で,日中は砂に潜り,角状突起をもった眼だけを出して獲物を待ち受け,砂上を横ばい運動で動く。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クサリヘビ」の意味・わかりやすい解説

クサリヘビ
くさりへび / 鎖蛇
viper
adder

爬虫(はちゅう)綱有鱗(ゆうりん)目クサリヘビ科クサリヘビ亜科に属するヘビの総称。この亜科Viperinaeの毒ヘビは、クサリヘビ科のうちピット器官pit(頬窩(きょうか))を欠く仲間である。ヨーロッパ、アフリカ、アジアに9属45種が分布し、ヨーロッパクサリヘビVipera berusがスカンジナビア半島の北極圏付近からシベリアまで分布するが、大半は熱帯地方に生息する。頭部は三角形で胴が太く尾は短い。ラッセルクサリヘビV. russelliのように体背面に鎖状の斑紋(はんもん)が並ぶのが和名の由来である。卵胎生で一度に20~60匹の子ヘビを産む。全長60~100センチメートルのものが多いが、大形種は1.5メートルに達する。アフリカ産のガブーンバイパーBitis gabonicaやライノセラスバイパーB. nasicornisは5センチメートルもの長い毒牙(どくが)をもち、美しい色彩斑紋はブッシュ(茂み)の中では効果的なカムフラージュとなっている。クサリヘビは主成分の出血毒に加えて多量の神経毒をも含むため、すべてが危険種で、とくにパキスタンからアジア南部に広く分布するラッセルクサリヘビは生息密度が高く、居住区付近にも多いため咬症(こうしょう)の被害が多い。興奮すると胴を膨らませ、シューッと激しく音をたてて飛びかかる。中近東からインドに分布するトゲクサリヘビEchis carinatusは、50センチメートルほどの小形ながら、危険性はキングコブラ並みとされている。

[松井孝爾]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クサリヘビ」の意味・わかりやすい解説

クサリヘビ
Viperinae; viper

トカゲ目クサリヘビ科クサリヘビ亜科に属するヘビの総称。内側へ折りたたむことのできる管状の長い毒牙を上顎の先端部にそなえた毒ヘビで,眼と鼻孔の間に孔になった感覚器官をもたないことによってマムシ亜科 (マムシハブガラガラヘビなど) と区別される。一般に体は太く短く,姿態の怪異なものが多い。体長 40cmぐらいの小型種から,アフリカのガブーンバイパー Bitis gabonicaのような 1.8mに達するものまである。毒はおもに出血毒であるが,大型種の場合は危険性がきわめて大きい。アジア,アフリカ,ヨーロッパに広く分布し,台湾やサハリンにもそれぞれ1種が生息しているが,日本にはいない。

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百科事典マイペディア 「クサリヘビ」の意味・わかりやすい解説

クサリヘビ

クサリヘビ科に属する毒ヘビの総称。英名のままバイパーと呼ばれることも多い。上顎骨に1対の管状の毒牙があり,かみつくときには前方に起こせる。頭部は幅広く,典型的な三角形。1回の攻撃で,毒をすばやく打ち込み,えものが死ぬのを待って食べる。世界各地の温帯・熱帯域に187種が分布。代表的なのが,ヨーロッパ各地に広く分布するヨーロッパクサリヘビ。ヨーロッパ人の毒ヘビに対する恐れは,ほとんどこの種によって形成されてきた。したがって,古い絵画や伝説にバイパーが現れる時は,ほとんど怪物のような姿で描写される。

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