クエン(枸櫞)酸(読み)くえんさん(英語表記)citric acid

改訂新版 世界大百科事典 「クエン(枸櫞)酸」の意味・わかりやすい解説

クエン(枸櫞)酸 (くえんさん)
citric acid


三塩基性ヒドロキシカルボン酸の一種。レモン,ミカンなどのかんきつ(柑橘)類Citrusの果実中に含まれる酸味成分で,レモン果汁には5~8%程度含まれる。クエン酸回路を形成する一員で,アセチルCoAオキサロ酢酸の縮合(クエン酸シンターゼ)によって生成する。解糖系のアロステリック酵素ホスホフルクトキナーゼの阻害作用をもち,解糖系を調節するうえでも重要な役割を果たす。水から再結晶すると1分子の結晶水を含むものが得られる。この水和物は約100℃で融解し,さらに130℃で注意深く加熱を続けると融点153℃の無水物となる。水,エチルアルコールに易溶。25℃における解離定数は8.2×10⁻4,硝酸で酸化すると酢酸シュウ酸を与える。175℃に加熱すると脱水し,不飽和トリカルボン酸であるアコニット酸になる。

 ショ糖をクロカビで発酵させるクエン酸発酵により工業的に合成される。実験室における合成は,sym-ジクロロアセトンClCH2COCH2Clのシアノヒドリン塩酸加水分解,生成するジクロロヒドロキシイソ酪酸ClCH2C(OH)(CO2H)CH2Clをシアン化カリウムと処理してから塩酸で加水分解する。菓子や清涼飲料の酸味として添加されるほか,塩類が医薬品として用いられる。たとえば,クエン酸銅Cu2(C6H4O7)はトラコーマまたは濾胞性結膜炎軟膏として,クエン酸カリウムK3(C6H5O7)・H2Oは利尿薬としてそれぞれ使われている。

化学式Na3(C6H5O7)・2H2O。水に可溶。水溶液はわずかに塩基性を示す。150℃に加熱すると無水塩となる。カルシウムイオンCa2⁺と結合して血液の凝固を防ぐ作用があるため,輸血や血沈用としての重要な用途がある。また,写真材料として用いられる。

2価および3価の鉄塩の存在が知られているが,2価のものはきわめて不安定である。3価の塩Fe(NH42H(C6H5O72はクエン酸鉄(Ⅲ)にアンモニアを作用させると生成する。赤褐色の鱗片状結晶。吸湿性が非常に強く,水に可溶。光によって還元されやすい。この性質を利用して青写真感光紙に用いられることもある。貧血症に対する緩和性鉄剤として内用される。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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