キンマ(読み)きんま(英語表記)betel

翻訳|betel

改訂新版 世界大百科事典 「キンマ」の意味・わかりやすい解説

キンマ (蒟醬)
Piper betle L.

マレーシア地域原産で,インドアフリカでも栽培されるコショウ科の常緑つる性植物で,茎は木質化する。英名はbetel piper,betel vine,betel,sirih。ビンロウの実を石灰にまぶし,キンマの葉でつつんでチューインガムのようにかむ習慣(ベテル・チューイング)はマレーシア地域を中心に見られ,葉や果実はまた薬用にもされる。植物体に刺激的な味臭のある草本的なつる性植物で,成熟すると茎の基部は木本化する。葉は互生し,葉柄があり,卵状心形で全縁。基部は多少とも左右不相称にゆがみ,長さ10~20cm。多数の花が円柱状に集まる肉穂花序は,葉に対生して生じる。雌雄異株で,栽培されるのは多くは雄株で,果実ができないといわれている。

 インドからマレーシア地域に広く栽培され,葉形などから地域的に多くの品種が区別されている。かみタバコやチューインガムのように,キンマの葉をかむことは,栽培地域に広く見られるが,このとき石灰やビンロウの種子のほかにタバコ,チョウジニクズクなどが交ぜられることも多い。この場合,ビンロウの種子の成分と石灰が反応して,唾液(だえき)のみならず,口腔粘膜も朱赤色に着色され,またビンロウに含まれるアルカロイドやキンマの精油成分が主として神経系に作用し,一種のほてったようなさわやかな感じをあたえる。この習慣はカルシウム補給にもなるという。漢方では葉や茎,種子は,健胃,去痰に利用される。

 繁殖は挿木による。しばしば日陰樹の下で柱にからまらせて栽培される。植えつけて2~3年で収穫が始められるという。南太平洋地域では,キンマと同属のカバが刺激性飲料用とされる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「キンマ」の意味・わかりやすい解説

キンマ
きんま
betel
[学] Piper betle L.

コショウ科(APG分類:コショウ科)の常緑藤本(とうほん)(つる植物)。マレーシア原産といわれ、インド、東南アジアで広く栽培され、木や垣根によじ登らせる。葉はやや厚く、卵形で先端はとがり基部は心臓形、左右不等で長さ7~20センチメートル、葉柄は長さ1~2.5センチメートル。雌雄異株で雌株のほうが多いという。雄株の穂状花序は7~15センチメートル、雌株のはそれより長い。葉をインドではパンpanとよび、辛味芳香があるので、古くから口臭を除き、声をよくするために新鮮な葉をかむ風習がある。普通は葉柄と葉の先を除き、葉身の中央に水で練った石灰を塗り、ビンロウジの未熟な種子の小片を置き、さらに味をよくし、薬効を高めるために砂糖、ココナッツ、チョウジ、カルダモン、ウイキョウ、カンゾウ、ニクズク、タバコなどを好みにあわせて加え、葉で包んで口中に入れ時間をかけてかむ。胃腸や歯をじょうぶにし、駆虫の効果もある。ビンロウジの赤い色素とタンニンがアルカリ液に接するために口中と唾液(だえき)は紅色になる。この風習はインド、マレーシア、ベトナム、中国南部、インドネシア、さらにアラビア、アフリカでも行われていて、人類の3分の1の嗜好(しこう)品となっている。

[長沢元夫 2018年7月20日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キンマ」の意味・わかりやすい解説

キンマ

キンマ手 (蒟醤手) ともいう。タイ北部のチエンマイを主産地とする漆器。多くは竹を細かく編んで作った素地 (きじ) すなわち籃胎 (らんたい。→籃胎漆器 ) に黒漆を塗り,文様を線彫し,他の色の漆を埋めてとぎ出す。近世以降「金馬」の名称で日本にもたらされ,茶人間で愛好された。江戸末期からは四国の高松でもこれを模した作品,蒟醤 (→玉楮象谷 ) が作られている。

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