キンギョ(読み)きんぎょ(英語表記)goldfish

翻訳|goldfish

改訂新版 世界大百科事典 「キンギョ」の意味・わかりやすい解説

キンギョ (金(錦)魚)
gold fish
Carassius auratus

フナ(コイ目コイ科)の観賞用に改良された飼育品種で,アジア大陸の長江(揚子江)下流域で古くから改良が行われていたといわれる。色彩,体の長短,ひれの有無,形状などの差異により多くの品種に分けられている。日本に最初に輸入された時期については諸説があるが,室町時代の末期,文亀2年(1502)に当時の明から泉州堺の港に伝来したとの記録がほぼ定説となっている。以後,日本で長期間にわたって飼育改良されて多くの品種が固定されている。さらに第2次世界大戦後,新たに輸入された諸品種をとくにいわゆる〈中国金魚〉として〈在来の諸品種〉と区別している。

在来品種のおもなものはワキン,リュウキン,デメキン,オランダシシガシラシュブンキンランチュウトサキン,ヂキンなどである。ワキン(和金)は原種のフナに形がもっとも近くて,体は細長く,各ひれも短い。ただ色彩は赤色,または赤色と白色との斑紋をもつものとがある。尾びれにはフナと同様の〈フナ尾〉と後方が左右に3叉(三つ尾),または4叉(四つ尾)している,いわゆる〈開き尾〉とがある。キンギョの品種の中でもっともじょうぶで飼いやすい。リュウキン(琉金)は体が著しく短くて太く,腹部が膨らんでいる。尾びれは開き尾で長く,その他のひれも長い。デメキン(出目金)はその名のとおり左右の眼が大きく,横に突出している。デメキンは色彩によりアカデメ(赤出目),クロデメ(黒出目)およびサンシキデメ(三色出目。キャリコデメともいう)の3品種に細分される。両眼が背方へ突出するものをチョウテンガン(頂天眼。中国では望天眼という)といい,背びれを欠くものを正しい形としている。オランダシシガシラ(和蘭師子頭)は形はリュウキンに似ているが,頭部の背面に肉瘤(にくりゆう)が発達する。色彩は赤色,または赤白斑であるが,赤白色,青色,黒色に透明なうろこを混じえたものをアズマニシキ(東錦)と呼んでいる。シュブンキン(朱文錦(金))はフナとサンシキデメとの交雑品種から選抜育種したもの。尾びれはフナ尾で,体は細長く,各ひれはいずれも長い。色彩は赤色,白色,青色,黒色および透明なうろこがモザイク状に配列されている。ランチュウ(蘭鋳)は体が太く短く,ほぼ鶏卵型で,背びれを欠く。頭部の背面に肉瘤が発達する。ランチュウは熱心な愛好者が多く,ランチュウのみを対象とする品評会なども行われている。トサキン(土佐金)は土佐で改良された品種で,体の形はほぼリュウキンに近いが,尾びれの左右両端が著しく前方へ反転している。ジキン(地金。別名は六鱗,シャチ,孔雀尾)は江戸時代にワキンから選抜育種された品種といわれ,名古屋を中心に飼育されている。著しい特徴は尾びれが上・下葉とも基底部から完全に左右に分かれ,ほぼ垂直に四つ尾の形になっている(これを孔雀尾という)ことである。なお,この品種は斑紋にも独特の規程が設けられ,体が白く,唇,背びれ,胸びれ,腹びれ,しりびれ,尾びれの6ヵ所のみが赤いものを尊重する。したがってうろこの赤色部を人工的に抜いて脱色させる手術も行われている。このほかにキャリコcalico,コメットcomet,ヤマガタキンギョ(山形金魚),ナンキン,ツガルニシキ(津軽錦),ヒロニシキ(弘錦)などがある。

いわゆる〈中国金魚〉には日本在来の品種に近いものもあるが,ここでは著しい特徴をもつもののみを列挙するにとどめる。チンチュウユイ(珍珠魚,pearl scale。チンチュウリン(珍珠鱗)ともいう)はうろこに石灰質が沈着して,それぞれのうろこが真珠を散りばめたように半球状に突出している。シュイパオユエン(水泡眼,water bubble eye)は日本ではふつうは日本流にスイホウガンと呼ぶ場合が多い。眼の下側にリンパ液の入った水泡が発達し,眼は上を向いてくる。ジゥチュウユイ(絨球魚,ponpon,narial bouquet)は鼻孔を覆う肉質の突起(鼻孔褶(びこうしゆう))が異状に大きく発達して房のようになった品種をいう。日本にも戦前からわずかながらオランダシシガシラの一部にこのような形質をもった品種が存在し,ハナフサ(またはハナブサ。鼻房)と名付けられていた。ファンサイ(翻鰓,out-folded operculum)は左右のえらぶたが外側に反転していて,内部の赤いえらが見える。ホントウ(紅頭,red cap)は形態はほぼオランダシシガシラに似ているが,色彩は全身が白地で頭頂部に濃赤色のほぼ円形の斑紋がある。日本ではタンチョウ(丹頂)と呼ぶことが多い。なお,これに近縁の品種で背びれを欠くものも輸入されている。ホウユイ(褐魚,brown goldfish。またはツエユイ(赭魚)ともいう)は日本では一般にチャキン(茶錦(金))でとおっている。形はほぼオランダシシガシラ型で,色彩がその名のとおり茶褐色または赤褐色の品種である。チンウェンユイ(青文魚,blue goldfish。またはランウェンユイ(藍文魚)ともいう)は形はチャキン型で体色が青色またはやや藍色を帯びた青色である。ただしこの品種で日本に輸入されているものは色彩の変異が多く,また成長に伴っても変化するようである。

日本におけるキンギョの養殖地(生産地)はほぼ全国にわたっているが,愛知県弥富(やとみ)市,奈良県大和郡山市および東京都の江戸川下流域周辺が昔から三大生産地として有名である。ただし東京都の場合は都市開発の影響を受けて立地条件が不利になった地域が多い。欧米にも輸出されている。

キンギョは元来観賞用に育種改良されたもので,水温や溶存酸素量などの水質に対する抵抗力も比較的強い。飼育適温は15~25℃くらいだが,5℃以下でも,35℃くらいでもある程度の生存は可能である。飼育場所は室内と室外とに分けられる。飼育上の注意を略記すると,室内での飼育はほぼ全品種にわたって可能であるが,その目的は観察ないし観賞に限られ,繁殖には不適当である。体の細長いワキン,シュブンキンなどと,体の太く短いリュウキンやデメキンなどとを同一水槽で飼うことは好ましくない。室内飼育の場合は主としてガラス,またはプラスチック製の水槽でキンギョを横(側面)から見ることになる。水槽は単に水を満たすだけでもよいが,底に砂または砂利を敷き,水草などを植えてもよい。飼育する尾数が少ない場合は特別なくふうはいらないが,過密だと酸素不足のため呼吸困難に陥り,水面に口を出してぱくぱくやるようになる(鼻上げ)。このため狭い水槽にやや多くを収容したい場合には循環ろ化装置を使う必要がある。最近はこれらの装置も技術が発達して比較的簡単で効率のよい製品が市販されている。用水は井戸水でも水道水でもよいが,水道水をすぐに使う場合は塩素を除くために,ハイポ(チオ硫酸ナトリウム)を極少量加えるとよい。キンギョは動・植物質の両方を食べる雑食性の魚で,餌としてはイトミミズアカムシ(ユスリカの幼虫),パンくずなどでよいが,最近はキンギョ用の混合飼料が市販されているのでつごうがよい。給餌の際にもっとも注意しなければならないのは,食べ残しのない程度に与えるということである。残った餌は腐敗して水中の酸素を消費するうえ,水質を悪くするのでピペットで取り除く。水替えは飼育槽の条件(収容尾数など)によっても異なるが,一般に高温期(夏)にはやや回数を増やし(週1回くらい),冬にはほとんど水を替える必要はない。

 室外の庭などに池を掘ったり,大型の水槽(コンクリート製,プラスチック製)などで飼う場合は,単なる観賞のほかに,繁殖させることも可能である。産卵期は東京では4~5月である。雌,雄の親魚を入れ,水草やポリエチレンを房状に裁断したものを浮かしておくと,早朝から午前中にかけてこれらの浮遊物に産卵する。産着卵は親魚と別にして孵化(ふか)させて育てる。受精卵は水温20℃で4~5日でかえる。孵化直後の仔魚(しぎよ)は3~4日間腹部の卵黄を栄養にして育ち,その後は自分で餌をとるようになる。このときにミジンコがあればもっとも便利だが,ない場合は市販のブラインシュリンプ(アルテミア),またはゆで卵の黄身を細かに砕いて与える。キンギョの稚魚は大部分の品種では最初はフナと同様に黒く,数ヵ月の後に赤色や赤色と白色の斑紋をもつようになる。生後早いものは満1年,ふつうは満2年で成熟する。室外の池で飼うのは観賞を目的とする場合は一般にワキン,シュブンキン,コメットなどの体の細長く動作の敏速な品種が適し,これらはコイなどといっしょに放養してもさしつかえない。リュウキン,デメキンなども繁殖させる場合は室外の容器のほうが有利である。なお,ランチュウは標準体型の決りがきびしく,また弱いこともあり,その飼育には水温その他に関して特別の注意が必要である。
執筆者:

キンギョには寄生虫がつきやすい。目だつのは,甲殻類のイカリムシやチョウ(ウオジラミ)で,前者はうろこの間に突き刺さって寄生し,口腔(こうこう)内にもつく。いずれもピンセットで除去するが,遊泳期の子虫は,有機リン剤(数百万分の1の濃度)で駆除できる。白点病は原虫の寄生によって起こり,魚体に白い粉をふりかけたようになる。魚を1%未満の食塩水に移すと虫は落ちる。このとき,水温を徐々に30℃くらいまで上げると効果が高まる。吸虫のギロダクチルスなどはえらをおかし,魚ははげしく泳ぎ回る。5%の食塩水に10分くらいか,0.01%の酢酸液に約1時間入れてやると効果がある。
執筆者:

明代の本草学者李自珍は,鯽(しよく)(フナ)のほかに金魚の祖先として鯉,鰍,(さん)をあげている。中国で体色を変化させた野生の鯽についての記録は,おそくとも唐代(618-907)にまでさかのぼる。北宋の時代(960-1126)になると,体色が金色に変色した金鯽魚の記録は多くなるが,蘇軾(そしよく)(東坡),蘇舜欽らの詩が有名である。鯽の生息地帯である浙江省杭州の西湖の金鯽魚をうたったもので,このため今日では,唐代の金鯽魚の記録を残す浙江省の嘉興の南湖とともに西湖も金魚の発生地,その故郷であるとされている。蘇軾らがうたった金鯽魚は,西湖のほとりの仏寺の池に放生(ほうじよう)されていたものであった。放生は,殺生を禁ずる仏教の戒律からくるもので,野にとらえた生き物を放す行為をいい,この行為によって果報がもたらされると信じられた。こうして金魚の半飼育化が始まったわけである。放生され,体色が金色に変化した金鯽魚は,仏寺の放生池で飼養され,珍奇な魚として観賞され,まずは宮廷において珍重され御園で養魚され始めた。やがて士大夫の間にも伝わり私園の池に飼養されるようになる。南宋(1127-1279)になると金魚の飼養,販売を専門とする金魚屋(魚児活)が出現している。このことは,金魚の人工的養殖が始まったことを物語る。14世紀以降,明・清時代になると,体色のみならず形状などおおくの改良が人工的に加えられ品種が増えていく。金魚の飼養,観賞は庶民層にまで広がり,当時の首都,北京では〈盆魚〉と称し,鉢に金魚を飼うことが流行し北京の風俗の一つとなった。新中国においても金魚の飼養,観賞は盛んである。すでに154種以上の品種が生み出されている。なお,中国の金魚は16世紀に日本に将来されたほか,17世紀もしくは18世紀にフランスをはじめヨーロッパ,アメリカにもたらされ,観賞魚として今日に及んでいる。
執筆者:

金魚を売り歩く行商人。5月ころから8月ころまでの期間に,小住宅,小商店の多い町を〈金魚やあ金魚--〉と語尾を少し長くした感じの呼声で流して歩く。ところどころで立ち止まって通行人や子どもなどに金魚を見せて購買欲をそそるが口上はいわない。明治になってガラス製の金魚鉢が安価に提供されだすと,夏の下町の風物詩といわれるほどに金魚売は東京の下町で定着した。幕末から明治へかけては,てんびん棒で金魚を入れたおけを前後に担って売りにきた。大正のころには大八車にガラス製の容器を積んでくる金魚売が増えたが,昭和初期からは自転車のリヤカーに金魚を入れた容器とからの金魚鉢を積んでくる者が増えた。涼しげな水色の薄物のはんてんに半ズボン,麦わら帽子などのスタイルの金魚売は,秋から翌年の春までは焼芋などを行商して過ごす。金魚売は季節で売る物を変える行商人である。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「キンギョ」の意味・わかりやすい解説

キンギョ
きんぎょ / 金魚
goldfish
[学] Carassius auratus

硬骨魚綱コイ目コイ科に属する淡水魚。観賞魚として著名な魚。形態学的にフナに類似し、染色体も同数・同型で、また同系交配によりフナに類似した個体が出現することからフナの変種とされる。学名は「黄金色の魚」の意味で、原産地の中国では1世紀ごろから金魚(チンユウイ)とよばれている。韓国でも金魚(キムポン)である。

[鈴木 亮]

愛玩の歴史

揚子江(ようすこう)下流の浙江(せっこう)省、江西(こうせい)省付近が原産地といわれ、晋(しん)代(265~450)には、すでに赤いフナ(ヒブナ)が存在したことが古い文献に記されている。本格的に飼育されるようになったのは、宋(そう)朝のころからである。日本には、室町時代の1502年(文亀2)に明(みん)から渡来したのが最初である。当時は貴族や豪商などの上層階級の間で愛玩(あいがん)飼育されていたが、江戸中期になってからは、一般市民の間にも流行し、夏の金魚売りの呼び声は江戸風物の一つであった。飼育の長い歴史の過程で、突然変異によって現れたさまざまの形のものが選抜され、さらに交雑によって多くの品種が出現した。

[鈴木 亮]

形態

キンギョは、フナと共通する点が多いが、品種によって外形や色彩が著しく異なっている。一般にフナよりも体高が高く、体幅が広い。頭部の表皮が肥厚したこぶ状の肉瘤(にくりゅう)があるもの、目が突出したもの、尾びれがさまざまの形に開いているもの、背びれを欠くものなどがある。体色は、赤、白、黄赤色のものが多いが、黒色、銀色、茶色のものや、黒斑(こくはん)をもつものもある。色の違いは、皮膚にある色素細胞や虹胞(こうほう)によって決まる。赤色の部分には赤色細胞、黄色細胞が多い。黒色細胞が表皮に多数存在すると黒色を帯び、真皮に少量存在すると青色を帯びる。色素細胞を欠いた場合には透き通り、色素細胞に虹胞が加わると光沢が出て、黄赤色のものは黄金色に、透明のものは銀白色となる。虹胞を欠く鱗(うろこ)を透明鱗(りん)とよび、虹胞のある普通鱗と透明鱗の混在しているものをモザイク鱗という。しかし、孵化(ふか)して2か月ぐらいの間は、いずれの品種の稚魚も黒色素細胞とわずかの黄色素細胞しかなく、フナの稚魚と同じく暗緑色。その後、急に体色が変化し、さまざまの色が出現。この現象を褪色(たいしょく)とよび、その時期は飼育環境などの影響によって左右される。雌雄の形態的な違いは顕著でないが、産卵期が近づくと、一般に雌の腹部は雄よりも膨らみ、雄のえらぶたなどに追星(おいぼし)とよばれる白色の小突起が現れる。また生殖孔(こう)が、雄では小さく長楕円(ちょうだえん)形で、雌では円形に近く、やや突出している。

[鈴木 亮]

品種

現在、日本でみられる品種は、明治年代までに輸入された在来種とよばれるもの、日本で選抜や交雑によってつくられたもの、第二次世界大戦後に中国から輸入された中国金魚と、アメリカから輸入された種類に分けられる。

[鈴木 亮]

在来種

(1)ワキン(和金) 体は細長く、ひれは短くてフナに似ている。体色は赤、白あるいはその両色が斑紋状のものが多い。尾びれはフナ尾形のほか、三つあるいは四つに分かれたものがある。諸品種のうちではもっとも産額が多く、飼育しやすい。

(2)リュウキン(琉金) 体は丸くて短く、各ひれは長い。尾びれは三つ尾と四つ尾があり、キンギョの代表品種の一つである。

(3)デメキン(出目金) 両眼が左右に突出して大きい。尾びれは三つ尾あるいは四つ尾。体色が黒いものをクロデメキン、赤いものをアカデメキン、赤・白・黒の3色あるものをサンショクデメキンとよぶ。

(4)チョウテンガン(頂天眼) 両眼が上方を向いて突出し、背びれを欠く。体はデメキンよりもやや細長い。

[鈴木 亮]

日本でつくられた品種

(1)ランチュウ(蘭鋳) 体は丸形で、背びれがなく、そのほかのひれは短く、頭部にこぶのあるのが特徴。イトミミズなどの動物性食物を多く食べるほどこぶがよく発達する。

(2)オランダシシガシラ(和蘭獅子頭) 体は短いが、リュウキンのように各ひれが長い。尾びれは三つ尾または四つ尾。頭部にこぶができる。

(3)ジキン(地金) 体形はワキンに似ているが、四つ尾の尾びれが体軸に対して直角に開き、後方からみるとX状をしているのが特徴で、これを孔雀(くじゃく)尾とよぶ。名古屋を中心とした愛知県の名産で六鱗(ろくりん)ともよばれるが、この名は、体色が変化する時期に、ひれやえらぶたの一部および吻部(ふんぶ)以外の表皮を人が爪(つめ)などではぎ取って体色を変化させることに由来している。つまり、はぎ取ったところは白色になり、残した部分の6か所だけは赤いという意味である。

(4)トサキン(土佐金) 体形はリュウキンに似ているが、尾びれが左右に著しく開き、先端部が前方に反転している。高知県を中心に発達した品種で、少数が飼育保存されている。

(5)キャリコcalico 体形はリュウキンに似るが、赤、白、青、紫、黄、黒色の斑紋が混在している。サンショクデメキンとリュウキンの交雑によって作出された。

(6)シュブンキン(朱文錦) 尾びれはフナ尾で、各ひれは長く、体色はサンショクデメキンと同様。サンショクデメキンとフナの交雑によって作出された品種。

(7)その他 アズマニシキ(東錦)、シュウキン(秋錦)、ワトウナイ(和藤内)も日本で作出された品種であるが、生産尾数は少ない。

[鈴木 亮]

中国金魚

(1)スイホウガン(水泡眼) 両眼が背方を向き、下側にリンパ液の入った水泡がある。

(2)チュンシュリンユウイ(珍珠鱗魚) 体形はリュウキンに似ているが、鱗の表面に石灰質が沈着して盛り上がっている。

(3)その他 鼻孔周辺部の肉質が突起して房状になったシュウチュウイ(絨球魚)、えらぶたが外側へ反転しているファンサイ(翻鰓)、体色が褐色のツェユイ(赭魚)などの品種もある。

[鈴木 亮]

アメリカからの輸入種

コメットcometはワキンに似ているが、彗星(すいせい)cometを思わすように長いフナ尾をもつ。

[鈴木 亮]

習性

温水性で、適水温度は25℃ぐらいで、生存範囲は0~35℃。雑食性であるが、イトミミズ、アカムシなどの小動物をとくに好む。人になれやすく、環境がよければ体長25センチメートルにもなり、20年以上も生存するものがあるという。塩分に対しては、1.5%ぐらいまでなら死ぬことはない。水中の溶存酸素量が水1リットル中に2cc以下(普通は6~7cc)になると、水面で口をぱくぱくする。これを「鼻上げ」といい、長く続くと死亡する。普通は生後2年で親になり、自然に近い状態では、5、6月ごろ、降雨後の翌朝に産卵することが多い。まれに9、10月に産卵する場合もある。また、水温を人工的に調節すると、年中望む時期に産卵させることができる。卵は、20℃では3、4日で孵化し、さらに3日ぐらいたつとミジンコなどの小動物を食べるようになる。

[鈴木 亮]

愛玩飼育

10リットルぐらいの水槽でも飼育できるが、酸素欠乏による鼻上げをさせないことがもっともたいせつである。これを防ぐには、収容尾数を減らすか、またはポンプで送気し、水中で空気を分散させるか、循環濾過(ろか)装置をつけることが必要である。餌はイトミミズなどの生き餌(え)が最適であるが、市販の養魚用配合飼料でもよい。与える量は水温によって加減し、25℃前後のときにもっとも多く必要で、この水温のときに欠食させるとやせる。10℃以下、30℃以上のときや、鼻上げをしているときには与えない。また、糞(ふん)が紐(ひも)状に長く続いたり、配合飼料が原形に近い形で排出される場合は、餌(えさ)の多すぎを意味する。30℃以上の場合は別として、水温が高いほど食欲が盛んで、よく成長するが、排出物が多くなり、水が汚れ、鼻上げの原因になりやすいので注意しなければならない。水温が急に低下すると、死亡したり病気にかかりやすい。また、水道水の中には塩素が含まれていることが多く、そのまま使用するのは危険である。水換えの際には、くんで数時間ぐらいおき、塩素ガスを発散させてから水を使用することがたいせつである。ランチュウやリュウキンなど一般に高級なものは、体形の関係で鼻上げ行動が長時間続けられないので、水槽の水を濾過させる装置をつけて、死なせないように管理する必要がある。

[鈴木 亮]

養殖

日本では奈良県大和郡山市(やまとこおりやまし)、愛知県弥富(やとみ)地方および埼玉県下の順に産額が多い。養殖用の稚魚を生産するには、広さが2~3平方メートル、深さ30センチメートルぐらいのコンクリート池を用いる。池を掃除してからきれいな水を張り、卵を産み付けさせるための魚巣(ぎょす)(キンギョモなど)を水面近くに浮かべ、ここに成熟した雌雄の親を放す。午前中にこの作業を終えておけば翌朝ほとんど産卵するが、午後に延びると産卵が1日遅れる。卵はこの池で孵化させるので、産卵後は親を別の池に移し、卵を食べるのを防ぐ。一方、産卵予定日の3、4日前に、水田を一部改造した程度の養魚池に、石灰や鶏糞などの肥料を散布し、水深を30センチメートルぐらいにしておく。孵化した稚魚が餌を食べ始めるころには、この養魚池に、ワムシやミジンコなどの小動物や植物プランクトン(アオコなど)など、稚魚の餌が発生する。孵化後3日目の稚魚をこの池に放せば、それらの餌料を食べて成長する。20日間ぐらいたつと、池中の餌料(じりょう)は食べ尽くされるので、配合飼料か自家製の練り餌を与えて本格的に養成する。養魚池は通常、止水状態にしておくが、これはアオコを適量に発生させることを目的とする。養魚池に発生したアオコは、酸素を補給するだけでなく、魚が排出する窒素やリンを吸収する。また、キンギョがアオコを食べると、体色が濃くなる。稚魚放養後、40~50日目に取り上げて、不正形の個体を選別して除去し、各品種の特徴を備えているものだけを残して飼育を続ける。

[鈴木 亮]

病気

おもな病気は、原生動物のイクチオフチリアスの寄生による白点病と、甲殻類のイカリムシおよびチョウ(ウオジラミ)による寄生虫病である。白点病は、体表面に白い粉を振りかけたようになる病気で、温度変化の激しい時期、とくに早春と晩秋に発生しやすい。水槽飼育の場合は、水温を28℃ぐらいに上昇させ、食塩を1%の濃度になるように溶かすとよい。養魚池で発生した場合には、水位をあげ、温度の変化を防止するとともに、食塩を1%の濃度になるように池に散布する。イカリムシは1センチメートルぐらいの紐状の動物で、錨(いかり)状をした頭部をキンギョの鱗の間から筋肉内に差し込んで体液を吸う。チョウは直径2~3ミリメートルぐらいで円形状をしており、肉眼的にはシラミに似ている。体表面に吸着して血液を吸うが、その際に毒液を注入する。これが寄生すると、キンギョは水面上に跳ね上がったり、水底に体をこすりつける。これらの寄生虫を駆除する薬品には、水産用マゾテンが特効薬で、200万分の1の濃度になるように養魚池に散布することが有効な方法とされているが、この薬剤は毒性が強いので、散布後は池の水を直接河川などに放流しないようにする必要がある。

[鈴木 亮]

『松井佳一著『日本の金魚』(1956・遺伝学普及会)』『松井佳一著『金魚と錦鯉』(1971・金園社)』『中村中六著『金魚の飼い方』第4版(1971・泰文館)』『渡辺国夫著『金魚の飼い方と病気』(1977・永岡書店)』『白石光著『カラー図鑑 金魚――選び方・飼い方・病気』(2003・西東社)』『木村義志著『金魚がウチにやってきた』(岩波アクティブ新書)』


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